糖尿病(前編~原因と症状)
国内の成人2割前後が糖尿病、あるいはその予備軍と言われています。このような数字に反して、意外に糖尿病について正確には知らないという方が多いのも事実です。「糖尿病は太っている人がかかるもの」、「砂糖の取りすぎが原因」、「一度かかったら治らない」、どれも正しい情報ではありません。
11月14日は、糖尿病についての啓発を目的とした「世界糖尿病デー」です。そこで、今月の「健康一言アドバイス」は、糖尿病を取り上げます。
前編の今回は、まず糖尿病を正しくご理解いただくために、糖尿病の種類と原因をご紹介します。
○ 糖尿病とは
糖尿病とは、血液中のブドウ糖(血糖)が過剰になる病気です。ブドウ糖は、私たちが生きていくために欠かせないエネルギー源ですが、多すぎると血管にダメージを与え、さまざまな病気(糖尿病合併症)を引き起こします。
日本では、成人の5~6人に1人が糖尿病、または糖尿病予備群であり、他人ごととはいっていられない疾患の一つです。
糖尿病には1型、2型、その他がありますが、国内患者さんの約90%は2型糖尿病です。
○ 原因
体内のブドウ糖をエネルギーに変えたり、余ったブドウ糖をグリコーゲンや中性脂肪に合成して蓄えたりするときに欠かせないのがインスリンです。インスリンは、このような働きをしながら、血糖値が下がるように調整を行っているホルモンで、膵臓で作られています。
このインスリンが出にくくなったり(インスリン分泌不全)、効きにくくなったり(インスリン抵抗性)するために、血糖値が上昇することが糖尿病の原因です。
○ 糖尿病の種類
<1型糖尿病> 膵臓の細胞の破壊による糖尿病
膵臓のインスリンを出す細胞が壊れ、インスリンが作られなくなって起こる糖尿病です。
インスリンが作られなくなると、細胞がブドウ糖からエネルギーを得られなくなったり、ブドウ糖を体内に蓄えることができなくなり、人間は生命を維持することができなくなります。そのため、インスリンを補充する必要があります。
子どもや若年者に多くみられますが、中高年以降の発症も増えています。数日で急激に発症し、進行するものや、年単位でゆっくりと進行していくものがあります。
残念ながら、現時点では予防する方法はありませんが、インスリンを適切に補充し、継続的にきちんと向き合っていけば、合併症を防ぐことが可能ですし、それ以外で日常生活が制限されることもありません。また、遺伝することもありません。
<2型糖尿病> 遺伝や生活習慣などによる糖尿病
日本の糖尿病患者さんの約90%がこの2型糖尿病です。インスリンが出にくくなったり、効きにくくなったりするために起こります。おもに中高年以降にみられますが、若年者の発症も増加しています。
日本人は遺伝的にインスリン分泌が弱い人が多いといわれています。遺伝的な体質に、過食、運動不足、肥満、ストレスなどの生活習慣や加齢といった要因が加わり、発症します。よって、生活習慣を整えることによって、発症や悪化を防ぐことができます。
糖尿病になりやすい体質を受け継ぐかどうかは自分では選べませんが、問題のある生活習慣を断ち切ることは可能です。
しかし、体質だけでなく、悪い生活習慣が親から子へ代々受け継がれている例も多くみられます。ぜひご自身のためだけでなく、ご家族、未来の子どもたちのためにも、改善に取り組みましょう。
その他
肝臓や膵臓の病気や、その治療のための手術やお薬による影響で糖尿病になることもあります。
○ 発症しても自分では気づけない
糖尿病を発症しても、自分で気づくことはまずありません。かなり進行するまで、症状は全く出ないからです。だからこそ、定期的に健康診断を受け、血液検査で早期発見することが大切です。
もし、喉が渇く、水をよく飲む、尿の回数が増える、体重が減る、疲れやすいなどがあれば、高血糖状態が疑われます。そのような場合は、定期の健康診断を待たず、速やかに内科かかりつけ医を受診してください。
○ 糖尿病でおそれるべきさまざまな合併症
糖尿病の怖さは、重症化すると、全身のあらゆる血管にダメージを与え、完治することが難しい様々な慢性合併症が起こることです。
その障害が細い血管に起こると、神経障害、網膜症、腎障害を、また、太い血管に起こると足壊疽(えそ)、脳卒中、虚血性心疾患等を発症します
糖尿病の治療目標の一つは、これらの合併症を引き起こさない、または、重症化させないことです。
○ 早期発見・早期治療が運命の分かれ道
重症化を防ぐには、何より早く発見し、速やかに適切な治療を開始することが重要です。
しかし残念ながら、健診などで血糖の異常を指摘されたのに、そのまま放置して、重症化してしまう方が少なくありません。早期に治療を開始すれば、食事、運動療法のみで、よい状態を保てる方もたくさんいます。「あの時に放っておかなければ良かった」と、未来の自分に後悔させることのないよう、速やかにかかりつけ医へご相談ください。
○ 世界糖尿病デー
糖尿病は、日本だけでなく、世界中で脅威になっています。そこで、1991年に、IDF(国際糖尿病連合)とWHO(世界保健機関)が「世界糖尿病デー」を制定し、2006年、国連により公式に認定されました。また、世界糖尿病デーには、インスリンを発見したカナダのバンティング博士の誕生日である11月14日が選ばれています。
毎年、11月14日の前後には、青い丸をモチーフにした「ブルーサークル」を掲げ、世界各国で糖尿病啓発のキャンペーンとして、ライトアップやセミナーなどが開催されています。
次回は、糖尿病の治療と予防について解説します。(11月21日公開予定)
糖尿病・内分泌内科
三重大学保健管理センター 講師
古田範子
Message
食事、運動療法等、生活習慣の改善は糖尿病だけではなく、ほとんどの疾患に有効です。また、アンチエイジングにもつながります。
糖尿病には、立ち向かうより、うまく長く付き合っていくことが大切です。
無理をしすぎてストレスになったり、体を痛めたり、結局リバウンドしてしまうより、毎日少しずつ、できることを、できる範囲で継続していくほうがよいでしょう。
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「健康一言アドバイス」では、医療や健康など皆さんに身近な疾患や気になる話題を取り上げ、その領域の専門家がわかりやすくお伝えしています。