取り組み

次世代CTの導入と世界初のシステム構築による高精度な画像診断
─より効果的な診療に向けた放射線科の取り組み─

高度な画像診断を通じて、患者さんにとっての効果的な診療に貢献することが放射線科医の使命です。三重大学病院の放射線科では、この使命のもとに、最先端の画像診断装置を積極的に導入し、より高度で的確な診断の提供に努めてきました。そして、この度、まだ国内で7台目という次世代型CT「フォトンカウンティングCT」を導入。これは、患者さんの被ばく量を抑えられる上、従来のCTに比べ10倍以上という次元の違う高精細な画像により、画像診断の正確性を高めることが期待できる最新の画像診断装置です。また、その画像データを診療現場で最大限生かせるよう、世界初の運用システムも構築しました。
フォトンカウンティングCTの特徴や、その有効活用に向けた当院の試みについてご紹介します。

放射線科 画像診断部門
准教授 市川泰崇

世界初のシステムで運用する次世代CT

フォトンカウンティングCTとは

三重大学病院は、2023年8月、フォトンカウティング検出器を搭載した次世代CT「NAEOTOM Alpha(ネオトム アルファ)」(シーメンスヘルスケア)での検査を開始しました。(図1)。

図1. フォトンカウティング検出器を搭載した次世代CT

フォトンカウンティング検出器は、テルル化カドミウムを用いた最新の半導体技術を利用して、各X線光子とそのエネルギーレベルを直接検出し、一般的なCTの検出器と比べて、より少ない放射線量で、10倍以上という次元の違う高解像度なデータを取得することができます(図2)。これにより、検査を受ける患者さんの負担を減らしつつ、より精密な検査が可能となります。
さらに当院が導入した「NAEOTOM Alpha」には、1秒間に70cmを超える広範囲の撮影ができる高速撮影の機能が備わっており、心臓など動きのある臓器や小児など息止めが難しい場合にも、良好な画像を得ることができます。

図2. フォトンカウティング検出器と一般的なCT装置の検出器との比較。
従来の固体シンチレータを用いたCT検出器では、X線を可視光線に一度変換してから電気信号へ変換するという2段階の処理が行われていました。一方、フォトンカウンティング検出器では、テルル化カドミウム(CdTe)の半導体を利用して、各X線光子とそのエネルギーレベルを直接検出することができるのが特徴で、空間分解能や画質の向上を図ることができます。

国内7台目の導入と世界初のシステムの構築

フォトンカウンティングCTはまだ導入事例が少なく、当院が国内7台目の導入となります。フォトンカウンティングCTによって、患者さんへの被ばく量の低減や診断能の向上が期待でき、より最良な医療の提供につながることから、導入を決定しました。
また、当院では、フォトンカウティングCTによる超高精細で膨大な画像データを保存・処理し、院内全ての電子カルテ端末で参照できる独自のシステムを構築しました。このように、外来・入院を問わず、全診療科で、フォトンカウンティングCTによる高精細画像を診療に活用できるシステムは、世界初となります。
このフォトンカウンティングCTを当院だけでなく、地域における質の高い医療環境のインフラの一つとし、地域の医療機関との連携に基づき、有効活用していくことを目指しています。

超高精細CTを用いた画像診断の可能性

当院が導入したフォトンカウンティングCTの最大の強みは、超高精細な画像が撮影できる点にあります。よって、細い血管の病変の診断精度の向上や、動脈瘤の詳細な解析などに非常に役立つとされています。
心臓を動かす筋肉(心筋)に血液を運ぶ血管が狭くなる「冠動脈狭窄」の評価を行う心臓CTでは、冠動脈が2~4mmと非常に細いため、従来のCTでは診断精度に限界がありました。しかし、フォトンカウティングCTでは、鮮明に写し出すことができ、より細かい病変や構造まで正確な評価が可能です (図3)。
今後は、冠動脈狭窄の診断でもフォトンカウティングCTを積極的に活用し、診断の質向上につなげていきたいと考えています。

また、循環器疾患だけでなく、フォトンカウンティングCTは様々な病気の診断に有用です。耳鼻科の領域では、人体の中でも最も小さな耳小骨という骨が溶けてしまう真珠腫性中耳炎などの疾患がありますが、超高精細な画像を得られれば、そのような小さな耳小骨の状態も正確に把握でき(図4)、治療方針の決定に有用な情報が得られます。

間質性肺炎と呼ばれる肺疾患においても画像診断の役割は大きいですが、フォトンカウティングCTによって、肺の異常所見がより明瞭に描出されることが最近の臨床研究で明らかとなっています。

その他、フォトンカウンティングCTの機能を活用することで、肝細胞がんや腎がん、膵がんなどの様々な腫瘍の診断精度向上が期待されますので、積極的に活用していく予定です。

図3.  フォトンカウティングCTによる超高空間分解能画像。従来CTに比べ、冠動脈病変を詳細に評価できます。
図4. フォトンカウティングCTによる中耳や内耳の画像。
従来CTよりも大幅に空間解像度が向上し、微細な骨構造が明瞭に描出されます。

より効果的な治療の実現に向けた画像診断の取り組み

研究を通じた有益な画像診断法の構築

三重大学病院の放射線科は、心疾患の画像診断において、これまで世界をリードする先進的な取り組みや研究を行ってきました。
その一つとして当科の医師が中心となって開発した「包括的心臓CT」は、一回の心臓CT検査から、心疾患の診療に役立つ様々な病態(冠動脈狭窄や心筋の虚血、梗塞、線維化などの病態)が評価できる検査手法で、精度の高い心疾患の画像診断法として国内外から注目されています。

また、当院放射線科では、最新のAI(人工知能)によって画質や読影精度の向上させる技術を活用し、より質の高い画像診断を提供する取り組みを推進しています。AIを利用したCT画像再構成法(断面画像の生成方法)や肺病変の自動検出システムが、すでに当院の診療で日常的に運用されています。
今後は、フォトンカウンティングCTによる超高精細で詳細な画像のデータ解析にも、AIの活用を進める予定です。また、これまで視覚的評価が中心だった冠動脈狭窄などの画像診断を、ディープラーニングを活用した定量的解析法を産学連携で開発していきたいと考えています。

当科には、ハード、ソフト、人という面で先進的な環境が揃っています。患者さんにとってより有益な画像診断の構築の取り組みを引き続き続けていきます。

画像診断を患者さんのために活かす

体内の状態を画像化する画像診断検査には、病気の「早期発見」、「正確な診断」、「治療効果の判定」という3つの主な役割があります。
当院では、2023年10月現在、CT 6台、MRI 5台を保有しており、国内トップクラスの台数と質を誇ります。MRIは、5台中3台が磁場の強い(3テスラ)高精度のタイプで、様々な精密検査に対応しています。
これら最先端の装置の長所を活かし、画像診断の有用性を診療の現場で、つまりは患者さんのために発揮していくことが、放射線科医に課せられた大きな使命です。そのためには、他診療科との連携が重要で、多数の院内カンファレンスに当科の専門スタッフが毎日参加しています。
また、皆さんは、通常、主治医から画像診断の結果を聞くと思いますが、その診断結果を主治医に報告しているのが、CT、MRI、PETなどの最先端画像診断に熟知した放射線科医です。放射線科医は、診療放射線技師や放射線科看護師とチームを組み、画像検査を受けられる患者さんに、少しでも身体的・精神的な負担を軽減した上で、安心して検査を受けていただけるよう、日々、画像検査の管理や診断に当たっています。
放射線科医が直接患者さんにお会いする機会は少ないですが、今後も医療の質を陰から支えていきます。

放射線科 画像診断部門
准教授 市川泰崇

放射線科医を志したのは、医学生として臨床実習を行っていた時期に、医療現場における画像診断の重要性について気付き、強く興味を抱いたのがきっかけでした。画像診断には、病気の”影”から、その病態を”見抜く・推理する”という要素がありますが、その過程に大変魅力を感じました。
画像診断は、人体の内部構造や病態を詳細に視覚化し、正確な診断と適切な治療方針決定において不可欠です。フォトンカウンティングCTの登場で、今まで以上に、より詳細な画像評価が放射線科医に求められると感じています。画像診断技術の進歩は日進月歩であり、私自身も放射線科医としてのスキルと知識を常にアップデートして、患者さんに最適な医療を提供する一員となれるよう今後も努力していきたいと考えています。

三重大学病院は、特定機能病院として、また地域医療の拠点として、三重県や近隣県の患者さんに安全で質の高い医療を提供するために、さらには、研究や人材育成を通じて日本のみならず世界の医療の発展に貢献するために、いろいろな活動に取り組んでいます。
「取り組み」のコーナーでは、こうした活動をピックアップしてご紹介しています。

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