CANCER MEWS(キャンサーミュース)

がんをピンポイントに攻撃する高精度放射線治療

─ IMRTや県内唯一の小線源治療で多様な症例に対応

昨今、放射線治療はよりピンポイントにがんを狙う⾼精度放射線治療が主流になっています。治療効果を⾼めるとともに、副作⽤を最⼩限に抑えることが期待できます。
三重⼤学医学部附属病院は、IMRT(強度変調放射線治療)における県内随⼀の症例数を持ち、さらに県内で唯⼀、⼩線源治療を提供しています。また、内科や外科との連携により、薬物療法や⼿術療法を組み合わせて治療効果を最⼤化する取り組みも進んでいます。
放射線科放射線治療部⾨の豊増泰助教に聞きました。

放射線科 放射線治療部⾨ 助教 豊増 泰

放射線科 放射線治療部⾨
助教 豊増 泰

放射線療法は、⼿術療法、薬物療法とともに、がん三⼤治療法の⼀つと位置付けられてきました。

放射線治療は、主に悪性腫瘍、いわゆるがんの治療や緩和に⻑年⽤いられてきましたが、治療精度はより⾼まってきています。放射線を照射する際にどうしても出るズレで⾒ると、10数年ほど前までは1〜2cm程度と想定されていたものが、現在では、通常3〜5mm以内、⼀部の部位では1〜2mm以内となり、⾼い精度でよりピンポイントに治療ができるようになっています(図1)。

実際、⼀部のがんでは⾼い治療効果が⽰されていますし、従来の⽅法であれば難しいとされた病変が治るなど、⽇々の診療においても治療効果の向上を実感しています。

⾼精度放射線治療に伴う放射線治療範囲の縮⼩の変遷
図1. ⾼精度放射線治療に伴う放射線治療範囲の縮⼩の変遷
IMRTやSRTを導⼊することで、放射線治療の効果や適応症例が広がっている。

⾼精度で治療効果が⽰されている放射線療法とはどのようなものですか。

例えば、IMRT(強度変調放射線治療)は、病変が複雑な形状をしていても、不要な場所に放射線をあてることなく治療ができ、副作⽤の軽減が可能です。
また、⽐較的⼩さな病変に対して⾼線量を集中して照射できるSRT(定位放射線治療)は、照射回数が1〜5回と1週間以内で治療が完了し、⾼い確率で病変を治すことが期待できます。
以前なら形状や⼤きさから放射線療法に限界があると判断されたような場合でも、IMRTやSRTなら治療対象となり、効果を得られる患者さんの幅が広がってきています。
⼀般的に、放射線治療は同じ場所に1クール*のみの治療と考えられていますが、副作⽤が少ないIMRTを適切に⽤いれば、2クール⽬の治療が可能となることがあり、様々な症例で放射線治療を効果的に組み合わせるようになっています。
*1クール:症例により決められた回数の照射を⾏う⼀期間。

従来難しいとされた症例でもIMRTとSRTを組み合わせた治療で長期間制御できている患者さんもいます。
また、県内唯一の小線源治療にも取り組んでいます。

三重⼤学病院でも⾼精度放射線治療ががん放射線療法の主流となっているのですか。

当院は、複数の⾼精度放射線治療を実施できる外部放射線治療装置(リニアック、図3)を県内の医療機関で最⼤数の3台装備しており、症例数としても年間800例以上と県内随⼀です。その60%以上がIMRTやSRTなどの⾼精度放射線治療によるもので、難治性のがんをはじめとした治療に積極的に取り組んでいます。
最近では、従来であれば制御が難しかった⾻転移、リンパ節転移、肝転移などの病変を対象に、IMRTやSRTを組み合わせて治療を⾏い(図4)、⻑期間病変を制御できている⽅も当院の患者さんの中にいます。
また、当院には県内で唯⼀の⼩線源治療の装置があります。⼩線源治療においても治療⽅法が進歩しており、これまで制御が難しいとされてきたがんの治療で効果が⽰されています。

外部放射線治療装置(リニアック)
図3. 外部放射線治療装置(リニアック)
IMRTやSRTなど年間800症例の⾼精度放射線治療を⾏う外部放射線治療装置(リニアック)
胸椎転移に対するSRT(定位放射線治療)
図4. 胸椎転移に対するSRT(定位放射線治療)
背⾻の胸の位置にあたる胸椎にできた複雑な形の転移病変(⾚く囲った部分)に対し、ピンポイントで照射する。

⼩線源治療とはどういったものでしょうか。

⼩線源治療とは、放射線を出す数ミリの⼩さなカプセル(線源)をがんの病変内もしくは近くに挿⼊して、体内からがんに直接放射線をあて、がん細胞の消滅を⽬指すもので、病変のみに放射線を効率的にあてることができます(図5)。⼦宮頸がんや前⽴腺がんの治療に⽤いられ、⾼い治療効果が認められています。
当院は、⼦宮頸がんに対する⼩線源治療において、東海地区で1、2番⽬に早く画像誘導⼩線源治療(CTなどで撮影した画像をベースに正確に⼩線源を挿⼊)や組織内照射併⽤腔内照射(がん組織や周辺組織に⼩線源を直接挿⼊)を取り⼊れており、先進的な治療を⾏っている施設です。

画像誘導⼩線源治療や組織内照射併⽤腔内照射により、様々な病変の形状にあった治療を⾏うことが可能となり、合併症のリスクを下げながら、従来の治療では難しかった病変も治すことができるようになってきています。
全ての症例で治療適応となるわけではありませんが、症例によっては、他の放射線治療との⽐較において⾼い効果が期待できる治療法です。

放射線療法は、⼿術療法や薬物療法と連携して⾏う場合が多いそうですね。

特に膵がんのような難治性がんでも、病変が⼩さければ⼿術で切除することができ、治癒する可能性が⾼くなります。よって、⽐較的⼤きな病変で根治切除が難しい場合、⼿術前に病変を⼩さくするための化学放射線治療を⾏うことで、根治を⽬指した治療が可能になることがあります。
また、治療後にQOLが低下しやすい肛⾨近くにできた直腸がんに対して、当院では⼿術前に化学放射線治療を⾏っています。これにより、治る確率が⾼くなると同時に、肛⾨を温存した術式が採⽤できる症例が格段に増えています。なかには、化学放射線治療後にがんの病変が消失(寛解状態)となる⽅もおり、⼿術⾃体を省略
する取り組みを消化管外科と放射線科が協⼒し
て⾏っています。

⼩線源治療のイメージ
図5. ⼩線源治療のイメージ
⼩線源治療装置
図6. 三重県内唯⼀の⼩線源治療装置
画像を⾒ながら⼩線源を挿⼊する場所を正確に特定し、体内での安全で効果のある放射線治療を⾏う。
精度の⾼い治療には、綿密な治療設計に加え、放射線治療医、看護師、技師、そして他科との連携が不可⽋

病気が治る確率を高めるためには、チーム医療が重要。
他科だけでなく、放射線治療医、看護師、技師が連携し、よりよい治療を提供できるよう努めています。

他の治療法、他の科との連携がさらに治療効果を⾼めることにつながるのですか。

最近のがん治療は、チーム医療が重要です。放射線治療のみで治癒や緩和を⽬指すというよりも、抗がん剤や⼿術と組み合わせて、病気が治る確率を⾼めるという考え⽅です。
また、治療適応の判断において正確に病状を把握することが重要となりますので、他科だけでなく、同じ放射線科内の画像診断部⾨の医師とも密に連携しています。
ピンポイントでの放射線治療を⾏うには、ミリ単位での精度管理が必要となります。そのためには患者さん⾃⾝の治療に対するご理解や、治療中になるべくリラックスしながらじっとしていただくなどの協⼒も不可⽋です。患者さんにより良い治療を提供できるよう、放射線治療医と看護師・診療放射線技師も連携に努めています。

放射線治療を受けられる患者さんの中には不安を抱えている⽅もいると思います。

放射線治療の前に、患者さんから「なんとなく怖い」、「痛くないですか」など不安の声を聞くことが多いです。⼀番の理由は、「どのような治療かわからない」ということではないかと思います。副作⽤についても、適切にケアすることで軽減することができますし、放射線をあてることによる痛みはありません。
安⼼して受けていただくためには、医師の診察や看護師からのオリエンテーションの際に質問をしていただくなどして、治療に対する理解を深めていただき、ご⾃⾝の中にある不安を取り除くことが重要と思っています。不安なことがあれば、なんでも遠慮なく聞いてください。

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