CANCER MEWS(キャンサーミュース)

小児がん拠点病院に再指定

─ 多職種のチームで、小児がん診療の中心的な役割をこれからも ─

国内の小児がん診療の中心的な役割を担うため、関連の医療資源を集約した「小児がん拠点病院」。厚生労働省が様々な条件を定期的に審査し、現在全国で15の医療機関を指定しています。当院は、この制度が始まった2013年から指定を受けており、三重県を中心とした東海北陸地域の小児がん診療の拠点となってきました。
この春、3回目の指定を受け、さらにどんな取り組みを進めていこうとしているのか、当院の小児科の平山雅浩科長と小児・AYAがんトータルケアセンターの岩本彰太郎センター長に話を聞きました。

平山 雅浩

小児科 科長・教授
平山 雅浩

岩本 彰太郎

小児・AYAがんトータルケアセンター
センター長 岩本 彰太郎

まず、小児がん拠点病院とはどういうものでしょうか。

小児がん拠点病院というのは、小児がんの診療に関わる技術、知識、経験、人材、設備など必要な医療資源が集約された、いわば日本の小児がん診療の中心的な役割を担う病院と言えます。
新規の小児がん患者の発生数は年間約2500例と、成人のがんに比べて圧倒的に少なく、希少疾患です。だからこそ、質の高い医療と支援を提供するためには、一定の医療資源と経験値の集約化が必要です。
そこで、地域バランスなどを考慮し、厚生労働大臣が整備指針に基づき、2013年から小児がん拠点病院を指定しています。定期的に各医療機関の体制などが審査され、2024年度からの4年間について、改めて当院を含む全国15 か所が指定されました。
中心となる「拠点病院」と、それらと連携する病院として別途指定されている「連携病院」の協力体制も進んできています。

全国の小児がん拠点病院

三重大学病院は、2013年の初回の指定から今回まで、連続して小児がん拠点病院に指定されています。

指定要件には、多くの評価項目があり、それを満たしている必要があります。
その中でも、当院は、診療実績に加えて、小児がん診療スタッフの人員配置、緩和ケア診療支援体制、小児がん経験者の長期フォローアップ診療支援体制、将来自分の子どもを授かる可能性を残すための妊孕性温存療法の提供体制、および多職種による相談支援体制の充実が特に高く評価されてきました。

厚生労働省が定める小児がん拠点病院の要件概要

小児がん拠点病院として、さらに取り組みを進めていることはありますか。

主な小児がんの長期生存率は約75%となり、治療成績は、成人がんと比べ良好とされます。しかし、子どもにとって過酷な入院治療経験は、その後の成長発達に影響を及ぼします。また、闘病生活から離れても、治療に関連する合併症(晩期合併症といいます)を患う小児がん経験者も多くみえます。
そのため、当院では、小児がん経験者の課題を細かく把握し、テーマ毎に小児がん院内チームを構築しています。そして、多職種によるこのチームが、それぞれの課題を解決するためにどのようなケアやサポートが必要なのか継続的に検討しています。
これは、今後も当院の小児科におけるとても重要な取り組みとして、さらに強化し、小児がん自体の治療を終えた後も、医療面だけでなく、心理面、社会面を含めて、しっかりと長期的なフォローアップを提供できるようにしていきたいと考えています。
また、小児がんの癌腫が多い思春期・若年成人(AYA世代)のがんに対する支援体制についても、院外との連携を含め、さらに強化と充実を進めているところです。

具体的にはどのような取り組みがあるのでしょうか。

一例を挙げると、学ぶ機会の確保があります。子どもたちが長期の入院により失いかねないのは、途切れることなく教育を受けられる権利です。
当院では、特に、この権利を守るために、院内で保育士、チャイルド・ライフ・スペシャリスト、臨床心理士、院内教室の教員が、療育・教育を提供し、子どもたちがこれに参加できる機会を保障することに力をいれています。

三重大学病院の院内学級
三重大学病院の院内学級には、県立学校の教員5名が小中学生の学習指導のために配置され、また、同校高等部教員が高校生の授業を担当している。病棟と連携しながら子どもたちの学習保障に努めるとともに、オンラインで前籍校と交流するなどの機会を作り、退院時のスムーズな復学をめざしている。

入院中の子どもたちが院内で学べるのですね。

三重大学病院の中には、実は、小学生や中学生が学べる小中学部の「学級」が早くから設置されています。それに加え、2022年度からは、全国でもまだ事例が少ない高等部を院内に整備し、高校生が学べる教育環境も拡充しています。
教育は、子どもたちの社会生活の中心でもあり、その後の社会活動に影響が大きい領域です。一見、病院の機能ではないように見えますが、医療を中心に据えながらも、子どもたちをトータルに、また長期にケアし、サポートするという視点に立つと、欠かせない機能だと言えます。

三重大学病院の小児・AYAがんの主な診療・サポート体制

治療という面では、何か最新の動きはありますか。

小児がんは、成人とは異なる種類であること、発症数が少ないことなどから、これまで新規治療の開発が遅れがちでした。しかし、昨今、遺伝子情報に基づいて治療法を選択するゲノム診療の普及、新規薬剤の臨床試験の増加、および免疫細胞療法という新たな治療法の実装などにより、小児がんの治療の選択肢が拡がってきています。

そうした新たな治療法に関わる三重大学病院の取り組みはどうでしょうか。

当院では、こうした新たな治療法を提供できる体制がすでにできています。
ゲノム診療については、ゲノム医療連携拠点病院である当院のゲノム診療科と一緒に、小児に向けた迅速かつ適正な提供体制を整えています。
また、免疫細胞療法として、遺伝子改変T細胞輸注療法(CAR-T療法)*も輸血細胞療法部と協働し、可能となっています。
さらに、治療中の子どもの体力を維持し、治療後の生活復帰をスムーズにするために、小児がんリハビリテーションをリハビリテーション科と議論し、提供するなど、科を超えた連携で、より総合的なケアを受けていただけるよう取り組んでいます。

*遺伝子改変T細胞輸中注療法(CAR-T療法)とは、患者さん自身の血液から、がんを攻撃するT細胞という免疫細胞を採取し、その力を遺伝子改変でさらにパワーアップさせて、点滴で体内に再投与する治療法。

治療面や教育面をはじめ、三重大学病院の小児科の強みとしてきた多職種によるトータルなサポートが重視されているのですね。

単純に「病気を治す」ということだけでなく、子どもさんががんの治療を乗り越え、その後、逆にその経験を生かして、その子らしく、その人らしく人生を送っていけるようにサポートするトータルな体制がとても大事だと、当院では考えています。
そのために必要なのは、多職種の知識と経験です。当院の小児科、また院内の診療科や部門と連携して、本当に幅広い職種によるチームを作っています。また、学校など院外の施設や機関などとの連携も広がっています。
この多職種・他機関の連携をいかして、小児がん拠点病院としての役割を今後もしっかりと果たしていきたいと思います。

Message

当院は、全ての小児がんの子どもや家族の方々が安心して最新・最良の治療と支援を受けられるように、小児がん拠点病院としての体制整備がなされています。長期フォローアップ体制も充実し、小児がんを克服した後の生活の質の向上にも努めています。また、多職種のスタッフが患者さんやご家族の様々な不安にも寄り添ったケアやサポートを提供しています。
他院で治療を受けられる予定の方や受けられた方からの、当院の妊孕性温存療法や長期フォローアップ外来についてのご相談も受け付けています。気になることがあれば、ご相談ください。


当院の小児がん・AYAがんの診療やサポートに関する取り組みについては、当院広報誌 MEWS Vol.31「小児・AYA世代とがん」(PDFが開きます)でもご紹介しています。
合わせてご参照ください。

関連記事

ページ上部へ戻る