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膵がんの集学的治療

─ ⽇本でも有数の治療成績を持つ三重⼤学病院の取り組み

早期発⾒や治療の難しさから、難治性がんとして知られる膵がんにおいて、全国でも良好な治療成績をあげている三重⼤学病院。
肝胆膵・移植外科の⽔野修吾科⻑に話を聞きました。
それを可能にしているのは、様々な診療科や職種の専⾨性を結集したチーム医療と全国最多の肝胆膵外科⾼度技能専⾨医を擁する⼿術体制です。

教授・科⻑ ⽔野修吾

肝胆膵・移植外科/⼀般外科
教授・科⻑ ⽔野修吾

膵がんは、“難治性のがん”と⾔われます。

膵臓は、胃の背中側に位置しており、⼀般的な検診で⾏うレントゲンや胃カメラでは⾒つけられません。また、⾎液検査でも膵がん発症の診断は困難です。発⾒のためにはCT検査など⾼度な検査が必要となる、早期発⾒のとても難しいがんです。

さらに、進⾏がんである場合が多く、⾎管へも浸潤しやすいため、がん細胞が⾎流にのって肝臓や肺に転移してしまい、発⾒時には⼿術適応外の状態であることも少なくありません。

もう⼀つ、膵臓の⼿術は、すぐ近くに動脈や⾨脈という⾎管があることや、⾎管の切除や吻合といった⾼度な技術を必要とすることから、腹部臓器の中で最も難易度が⾼いとされます。このような特徴が、膵がんは難治性のがんと⾔われるゆえんです。

治療法の確⽴はまだまだなのでしょうか。

国⽴がん研究センターのがん情報サービスによると、全国の膵がん全症例の5年⽣存率は、2008年に6.8%でしたが、2021年は11.3%と発表されました。この改善は、⼗数年の中での抗がん剤や⼿術⼿技の進歩によるものと⾔えます。しかしながら、同データの⼤腸がん70.4%、胃がん68%に⽐べるとまだまだ低く、治療法のさらなる進展が待たれます。

手術と化学放射線療法を組み合わせた集学的治療。
これまで500人以上の患者さんが良好な成績を示しています。

そんな中で、三重⼤学病院の治療は全国的にも注⽬されているそうですね。

当院は、⼿術と化学放射線治療を組み合わせる「集学的治療」(図表1)を取り⼊れています。集学的治療は、現在多くのがん治療で⾏われていますが、進⾏膵がんについては、組み合わせのバランスやタイミングの判断が難しく、多様な視点が必要であるため、実施する医療機関はあまり多くありません。

当院では、まず腫瘍の縮⼩と転移の抑制を⽬的として抗がん剤と放射線による治療を実施し、その後、外科的に切除をします。抗がん剤や放射線による治療は、⼿術前の2ヶ⽉弱⾏いますが、⼼配される副作⽤の頻度は低く、ほとんどの患者さんは外来通院で受けられています。

これまでに500⼈以上の患者さんがこの治療を受けられ、良好な成績を⽰しています。

図表1. 三重⼤学病院がチーム医療で取り組む膵がんに対する集学的治療

どのくらい良好な成績なのでしょうか。

当院で化学放射線治療の後に⼿術を⾏った患者さんの5年⽣存率をステージ別に⾒ると、ステージI:100%、ステージIIa:50.5%、ステージIIb:38.9%、ステージIII:25.5%となっています(図表2)。
先ほどご紹介した国⽴がんセンターの膵がん全症例(全国・全ステージ)での5年⽣存率11.3%と⽐較すると、ステージIIIの患者さんであっても、当院での集学的治療が良好な成績であることがわかります。

図表2. 三重⼤学病院の集学的治療による膵がん患者さんの5年⽣存率

診療科や多職種の連携と国内最多レベルの肝胆膵外科高度技能専門医を擁する高い外科手術の体制。
ワンチームで一人ひとりの膵がん患者さんの治療にあたります。

そうした結果を導き出せている理由は、どんなところにあるのでしょうか。

⼀つは、肝胆膵・移植外科だけでなく、内科や放射線科など病院全体としてのチーム医療があると考えています。
膵がんがわかると、まずは、できるだけ早期に消化器内科で確実な診断を⾏い、次に、放射線科にて、⾎管への浸潤や転移について調べ、ステージ分類をします。正確な診断は、適切な治療に不可⽋です。その上で、ステージと個別の状態に合った⼿術前の化学放射線治療を⾏います。

治療においても、医師だけでなく、看護師、薬剤師、栄養⼠、また⼿術前後ではリハビリを担当する理学療法⼠など、多職種のスタッフがワンチームで⼀⼈ひとりの膵がん患者さんの治療にあたります。

難しいがんだからこそ、いろいろな科や職種の専⾨性を結集する必要があるんですね。

その通りです。また、膵がんの⼿術は難易度が⾼いとお話ししましたが、当科には、⽇本肝胆膵外科学会が認定する肝胆膵外科⾼度技能専⾨医が現在9名在籍しています。この専⾨医の数は、全国の医療機関の中でトップです(2022年6⽉末現在)。
さらに、早期に診断ができた場合は、患者さんへの⾝体的負担が少ない低侵襲なロボット⼿術も⾏なっています。これについても、東海地区で唯⼀、膵臓分野の内視鏡外科技術認定医を有しており、最先端の⼿術も安⼼して受けていただける体制です。
チーム医療に加えて、こうした⾼い外科技術を備えた体制も先ほど⽰した治療実績につながっていると思います。

三重⼤学病院の肝胆膵・移植外科には、国内医療機関の中で最多となる9名の肝胆膵外科⾼度技能専⾨医の他、膵臓分野の内視鏡外科技術認定医も在籍している。

そうした強みを⽣かし、今後はどのように膵がん治療に取り組んでいきますか。

膵がんに対する薬物治療が進化しつつありますが、早期に発⾒することと、進⾏がんであっても化学放射線治療の組み合わせで⼿術を⾏える状況にすることが重要です。
現在、当院の消化器・肝臓内科とともに、「膵がん早期発⾒プロジェクト」という名の下、県内のクリニックと連携した早期診断の仕組みづくりを進めています。
また、放射線科などと協⼒して、新たな薬物や放射線治療を組み合わせたより効果的な集学的治療を研究し、さらに治療成績を向上させたいと考えています。

早期発見のきっかけは、腹痛、腰背部痛、黄疸、急な体重減少、新規または悪化の糖尿病など。
ぜひ、定期的な検査を。

膵がん治療のカギとなる早期発⾒のために、気を付けるべきことはありますか。

膵がんが疑われる症状は、腹痛、腰背部痛、⻩疸、急な体重減少です。また、新規の糖尿病、または糖尿病の急な増悪なども、早期発⾒のきっかけになることが多いです。親族に膵がんになった⽅がおられる場合も注意が必要です。ぜひ定期的な検査を受けていただきたいです。

最後に患者さんへメッセージをお願いします。

膵がん治療の病院選びについて質問を受けることが多いですが、重要なのは、1)専⾨医が何⼈在籍しているか、2)5年⽣存率などのデータをホームページなどで公表しているかの⼆点です。膵がんの外科⼿術は難易度が⾼く、命の危険を伴う合併症も報告されています。安⼼安全な⼿術と良好な予後に反映する治療を受けられることが⼤事です。
当院は、そうした条件を満たし、三重県だけでなく県外からの患者さんも受け⼊れています。膵がんに対する⾼度な先進治療を希望される⽅は、安⼼してご相談ください。

教授・科⻑ ⽔野修吾

肝胆膵・移植外科∕⼀般外科 教授・科⻑
臓器移植センター⻑
消化器病センター⻑
⽔野 修吾

少年時代に漫画『ブラック・ジャック』を読み外科医を⽬指した。⼿術を含む治療の際には、常に「もしこの患者さんが⾃分の家族だったら」と問う。学⽣時代から続けているテニスの腕を活かし、三重⼤学の硬式テニス部で⻑年顧問を務めている(コロナが落ち着いたら、朝練などにも参加したい)。
海のない岐⾩県出⾝だからか、海を⾒るのが⼤好き。三重⼤学病院から眺める伊勢湾の静かな海も良いが、東紀州や伊勢志摩地⽅で⾒る太平洋の⼤海原には、いまだに感動を覚える。お酒好きとしての最近のマイブームは、焼き⿃と焼酎ソーダ割り。⼈⽣最⾼の⼀品は、福岡県で⻝べた醤油とんこつラーメン。

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