健康一言アドバイス

ピロリ菌

強酸性の胃の中でも生き延び、棲みつくピロリ菌。本名は「ヘリコバクター・ピロリ」です。日本では、年齢が高いほどピロリ菌に感染している割合が高いことがわかっています。
感染していたとしてもすぐに症状が出るものではありませんが、がんの原因になることがわかっているため、早めに感染の有無を検査することをお勧めします。また、感染していても多くの場合は、服薬により除菌することが可能です。

ピロリ菌とは?

幅0.5~1μm、長さ3.0μmのらせん型の菌です。胃の中は、食べ物を消化するために、生物が生息できないほどの強酸性の状態となっていますが、ピロリ菌は、自身でアンモニアを出し、胃酸を中和することで、胃内での生息を可能にしています。
1982年にオーストラリアのウォーレン博士とマーシャル博士が発見し、この功績により2005年、両博士はノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
その後の研究により、ピロリ菌が胃・十二指腸潰瘍や胃がんの原因となることが明らかにされました。

ピロリ菌は、どこからやってきて、胃に棲みつくのか

ピロリ菌の感染源として、かつては、井戸水の可能性が報告されていました。しかし、上下水道が整備されている現在の日本では、「ピロリ菌に感染しているヒトの胃」が感染源であると考えられています。
感染のほとんどは家族内で起こっており、その感染経路として、「離乳食の口移し」などの口を介した濃厚なスキンシップによる母子感染の可能性が指摘されています。

ピロリ菌が招く様々な疾患

ピロリ菌感染は、慢性萎縮性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、胃がん、胃過形成性ポリープなどの消化器疾患に加えて、特発性血小板減少性紫斑病や鉄欠乏性貧血、慢性蕁麻疹(じんましん)、パーキンソン病、アルツハイマー型認知症、糖尿病などにも関連していることがわかってきています。

ピロリ菌が引き起こす主な消化器疾患

ピロリ菌を追い出すには

ピロリ菌の除菌は、薬を服用することで多くの場合可能です。
ピロリ菌の感染により発症した慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、早期胃癌内視鏡治療後、特発性血小板減少性紫斑病においては、除菌治療が保険適応となっています。
従来は、一次除菌治療として、胃酸を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬)と2種類の抗菌剤(アモキシシリン、クラリスロマイシン)の計3剤を7日間内服する3剤併用療法が主流でしたが、最近は、プロトンポンプ阻害薬の代わりに、より除菌効果の高いボノプラザンという薬が用いられるようになり、除菌成功率が90%以上まで上がっています。

何らかの理由により抗菌剤が効かず、この方法で除菌が不成功となった場合は、2次除菌治療として、クラリスロマイシンを別の抗菌剤であるメトロニダゾールにする方法が取られ、高い除菌成功率が報告されています。

極めてまれですが、2次除菌治療でも除菌成功に至らない場合や、抗菌剤による薬剤アレルギーがあり、通常の除菌治療薬が使用できない場合は、保険診療外ですが、ピロリ菌の薬剤感受性や薬剤アレルギーに応じた薬剤を使用する除菌治療が行われることがあります。

ピロリ菌とがん

WHO(世界保健機関)が、ピロリ菌は「確実な発がん因子である」と認定しています。
日本における10年間にわたる追跡研究でも、ピロリ菌に感染していた方の2.9%で胃がんが発生した一方、感染していなかった方では一人も胃がんの発生が認められなかったことが報告され、ピロリ菌感染により胃がんの発生が増えることが明らかにされました。

逆に、ピロリ菌に感染していても除菌治療を行えば、胃がんの発生を軽減できることもわかっており、2013年にピロリ菌感染胃炎に対する除菌治療が保険適用となりました。ピロリ菌に感染していることがわかったら、まずは除菌治療を早めに受けることが重要と考えられます。

消化器・肝臓内科 濱田康彦

消化器・肝臓内科
濱田康彦

Message

ピロリ菌を除菌したからといって完全に胃がんの発生を防ぐことができるわけではありません。除菌後も定期的に胃がん検診を受けることが必要です。

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