健康一言アドバイス

睡眠時無呼吸症候群

睡眠をとっているはずなのに、昼間にやたら眠いと感じるなら、「睡眠時無呼吸症候群」である可能性があります。睡眠中に繰り返される激しいいびきや10秒以上の無呼吸により、身体が低酸素状態になってしまうため、様々な不調や合併症を引き起こします。ときには突然死の原因になることもあります。
睡眠時無呼吸症候群の診断指標の一つでもある「日中の眠気チェック」もご紹介しますので、ご自身でも一度チェックしてみてください。

睡眠時無呼吸症候群とは

睡眠時無呼吸症候群とは、文字通り寝ているときに呼吸が止まったり、弱くなったりする病気です。これが繰り返されることによって健康に悪影響を与える可能性があります。
睡眠(Sleep)・無呼吸(Apnea)・症候群(Syndrome)の頭文字をとってSAS(サス)と呼びます。以下では、SASと表記します。

症状と合併症

空気の通り道がせまくなるといびきをかきます。これがひどいと呼吸が止まったり、弱くなったりするので、SASの患者さんは「いびきがうるさい」という症状が特徴的です。
また、本来からだを休めるはずの睡眠中に呼吸が止まって低酸素状態になってしまうので、「ゆっくり休めた感じがしない」、「日中に眠気が強い」、「集中力がわかない」などの症状があります。

SASが原因で新幹線の運転手が就業中に睡眠してしまった、などというニュースも過去にありました。このような症状を放置してしまうと様々な合併症を引き起こします。
主な合併症に、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病、不整脈、心臓病、脳卒中があり、ひいては突然死などのリスクにつながりかねません。

睡眠時の症状、覚醒時の症状、SASによる合併症のイラスト

図1 睡眠時無呼吸症候群の症候と主な合併症リスク

原因

SASの多くが、空気の通り道がせまくなったり、ふさがったりすることで起こります。これを閉塞性睡眠時無呼吸症候群(Obstructive Sleep Apnea Syndrome:OSAS)といいます。
一方、頻度は少ないですが、脳の呼吸中枢が障害されて起こる中枢性睡眠時無呼吸症候群(Central Sleep Apnea Syndrome:CSAS)もあります。
SASのリスクを高める要因には、肥満、喫煙、アルコール摂取、高血圧などがあります。よってこれを改善すれば、リスクを低減することができると言えます。

正常な呼吸と閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)を比較したイラスト

図2 閉塞性睡眠時無呼吸症候群の原因

診断

1)エプワース眠気尺度(ESS)

SASは、睡眠時の症状であることから、自分では気づきにくいものです。そこで、一般的に「エプワース眠気尺度(Epworth Sleepiness Scale:ESS)」という問診表がよく使用されます。

この問診表を使って、まずは日中の眠気について評価してみましょう。
それぞれの項目ごとに最も当てはまるものを一つ選び、最後のそのポイントを合計し、その数値を基に日中の眠気の程度を見ていきます。11ポイント以上であれば、SASの可能性が高いと思われます。

 日中の眠気チェック項目ほとんど
眠る
しばしば
眠る
たまに
眠る
ほとんど
眠らない
座って読書中
テレビを見ているとき
会議、劇場などで積極的に発言などせずに座っているとき
乗客として1時間続けて自動車に乗っているとき
午後に横になったとすれば、そのとき
座って人と話をしているとき
アルコールを飲まずに昼食をとった後、静かに座っているとき
自動車を運転中に信号や交通渋滞などにより数分間止まったとき
小計
合計
  • 合計が0~5ポイント:日中に眠気少ない
  • 合計が5~10ポイント:日中に軽度の眠気あり
  • 合計が11ポイント以上:日中に強い眠気あり

Johns MW: A new method for measuring daytime sleepiness; The Epworth sleepiness scale. Sleep 14: 540-545, 1991より引用改変

2)簡易検査(アプノモニター)

上記で紹介したエプワース眠気尺度(ESS)とは別に、「日中の眠気が強い」、「家族からいびきや睡眠中に呼吸が止まると指摘された」、「原因不明の高血圧症がある」などの状況があり、SASが疑われた場合は、「簡易検査(アプノモニター)」を行います。
この検査は、モニター装置をご自宅に持ち帰って、就寝時にご自身で装着してもらい、寝ている間の血中酸素飽和度や呼吸状態を調べるものです。

3)睡眠ポリソムノグラフィー(PSG)

アプノモニターでもSASの可能性が高いと判断されれば、入院のうえ「睡眠ポリソムノグラフィー(polysomnography:PSG)」という精密検査を行います。PSGでは、睡眠中の脳波、血中酸素飽和度、心電図、気道における空気の流れ、胸部や腹部の動きなどを観察し、睡眠の質を詳しく評価します。
呼吸については、10秒以上の呼吸停止、もしくはそれに相当する低呼吸を測定し、1時間あたりの回数をAHI(Apnea-Hypopnea Index)として数値化し、診断していきます。AHI≧5(1時間あたり5回以上の呼吸停止もしくは低呼吸がある状態)でSASと診断され、5〜15を軽症、15~30を中等症、30以上を重症と判断します。

治療

治療は重症度によって変わります。
軽症であれば、まずはダイエットや生活習慣の改善で症状の改善を期待します。歯科装具(マウスピース)をつけて睡眠中の気道を確保するという治療方法もあります。

しかしながら、AHIが20を超える中等症以上の場合は、CPAP療法(Continuous Positive Airway Pressure:持続的気道陽圧法)が必要となってきます(図3)。CPAP療法とは、マスクを用いて持続的に気道へ圧をかけて空気を送り込み、睡眠中に気道が狭くなることを防ぐ治療です(図4)。
その他、鼻中隔弯曲症や扁桃肥大など、鼻やのどに問題がある場合、耳鼻科の診察を受けていただくこともあります。

CPAP療法の装置 (写真提供:帝人ヘルスケア)
図3 CPAP療法の装置 (写真提供:帝人ヘルスケア)
CPAP療法による閉塞の改善
図4 CPAP療法による閉塞の改善

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療を受けなければどうなるの?

厚生省研究班の調査によると、AHIが20以上の場合、5年生存率は84%と報告されています。これは5年以内に16%の方が亡くなるということです。
CPAP療法をすると、その死亡率が低下し、健常人の死亡率とほぼ同じになると言われています。よって、積極的な治療を受けることが推奨されます。

呼吸器内科 副科長・講師
藤本 源

呼吸器内科 副科長・講師
藤本 源

Message

睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、ただのいびきや日中の眠気といった「ありふれた症状」ですが、放置すると命にかかわる大変危険な病気です。症状や発症機序から、精神神経科や耳鼻咽喉・頭頚部外科を受診いただく場合もありますが、最近では心臓病との関連が注目され、循環器内科領域でとても精力的に検査や治療が行われています。
みなさんもただの「いびき」や「眠気」と思わずに、不安に感じたら検査を受けていただくことをおすすめします。

「健康一言アドバイス」では、医療や健康など皆さんに身近な疾患や気になる話題を取り上げ、その領域の専門家がわかりやすくお伝えしています。

関連記事

ページ上部へ戻る