災害医療と応急手当 「骨折編」
- 2023-10-6
- 医療と防災
- #災害拠点病院, #災害対策推進・教育センター, #応急⼿当, #災害医療
大規模災害が起こった際には、軽傷、重傷を問わず、多くの傷病者が発生することが想定されます。そのような状況下では、傷病者全員がすぐに治療環境の整った場所で、医療者に治療を受けられるとは限りません。
そんな時に役に立つのが、自分たちでできる応急手当の知識です。
「医療と防災」の6回目は、災害時の応急手当についてお話しします。
応急手当の目的
災害発生時における応急手当の目的は、“苦痛を緩和”し、“症状悪化を防ぐ”ことです。
災害医療の現場では、できる限り多くの命を救うため、医療者は重傷者の治療を優先して行うことになります。そのため、軽傷であればあるほど、治療まで長い時間待たなければならないような場面も出てくることが考えられます。
その時は直ちに治療の必要がないような軽傷でも、そのまま放っておけば傷は痛みますし、後で症状が悪化しないとも限りません。そこで、自分や周りの人たちが助け合って行う応急手当が非常に重要な役割を果たします。
できるだけ早く適切な応急手当を施すことができれば、治療を受けるまでの間、少なくとも痛みや不安を軽減することができますし、専門的な治療まで悪化を最小限に留めておくことができます。
では、応急手当とは具体的にはどのようなことをしたらよいのでしょうか。応急手当には、医療者が治療に用いるような特別な道具や物品を使わなくとも、身近なものを工夫して活用することができます。
骨折が疑われるときの応急処置
今回は、骨折が疑われるときの応急処置に焦点を当てて解説します。
骨折した際は、患部を安静にする必要があるため、動かしてしまわないように固定するのが基本です。
では、どのような時に固定が必要と判断すればよいのでしょうか。秋の「多数傷病者受入訓練」で、トリアージに基づく黄色エリアの医師リーダーを担当した整形外科の淺沼邦洋先生のアドバイスをご紹介します。
患部の固定が推奨されるケース
- 関節ではないところで変形し、明らかに骨折とわかるとき
手、足が関節ではないところで曲がって変形している場合は、高い確率で骨折です。固定が絶対に必要なケースです。 - 変形が見られないが、骨折の疑いがあるとき
変形していない場合は、骨折かどうかの診断は難しいです。「酷い腫れがある」、「痛みで手や足を動かせない」、「足をついて歩けない」などの症状があれば、骨折の可能性がありますので、固定を行いましょう。
固定することで、痛みが改善したり、動けるようになったり、搬送時の疼痛が楽になったりします。 - 骨折でなくても、固定が望ましいとき
骨折の可能性に関わらず、安静にしているのに痛みや腫れがある場合にも、固定で症状が軽くなるようであれば、固定をしましょう。打撲や捻挫でも、安静と固定で改善効果が期待できます。
また、災害時には逃げたり、移動したりする必要があるため、固定することで移動がスムーズになるならば、迷わずそうしましょう。
身近なものでできる固定の仕方
固定は、意外に身近なもので行うことができます。基本は、何か「そえ木」となるものを装着させて、患部を動かせないようにすることです。
そえ木には、雑誌、新聞紙、段ボール、折り畳み傘などを使うことができます。新聞紙や段ボールは、ある程度厚みを持たせられるように数枚を折り重ねて使います。
固定には、粘着テープが使いやすいので、防災リュックの中に一つ入れておくと安心ですね。テープがなくても、布を裂いてヒモ状にして巻き付けることもできます。
また、固定するときは、患部に体重をかけないようにすることも大切です。
固定の仕方は、写真を参考にしてください。
(協力:三重大学医学部医学科学生)
三角巾の使い方
上肢(肩関節、腕、肘関節、手関節、手指)の骨折の場合は、固定をして三角巾を使用し、骨折部位の安静を保ちます。
三角巾もスカーフや風呂敷、大判のハンカチでも代用可能です。また、ビニール袋も三角巾として使用することができます。
患部固定は、工夫次第でいろいろなものを活用することができますので、訓練として一度身近なもので試してみてください。
三角巾の使い方
(協力:三重大学医学部医学科3年生 岸上君、村瀬君)
持ち手つきポリ袋を用いた三角巾の作り方
(協力:三重大学医学部医学科3年生 森井君)
地域の防災力向上に向けた取り組み
三重大学病院災害対策推進・教育センターでは、市民のみなさまの防災力の一つとして、応急手当についても公開講座などを通じてお伝えしていきたいと考えています。
今年開催した市民公開講座(3月)や「みえ防災塾」(7月)では、応急手当の実演を行い、参加者の皆さんに体験していただきました。
今後も、10月に三重大学附属小学校の生徒と保護者の方を対象にした防災教室、また12月には、地域の方々を対象とした「三重大学・防災アカデミー」(名張)でも同様に体験型の講座を行う予定です。
災害対策推進・教育センター 担当:[はるか]
三重大学病院は、万が一の災害時に地域の救急医療を担う「災害拠点病院」に指定されています。
災害発生時に、災害による負傷者への対応だけでなく、入院患者さんの医療を継続するという複数かつ重要な役割を適切に実行できるよう、当院では平時から様々な取り組みと準備を行っています。
Online MEWS「医療と防災」では、当院の防災対策やみなさんに役立てていただける防災のヒントをお伝えしています。