夏は腎臓の健康に要注意
私たちのからだの中の老廃物や余分な水分・塩分をろ過し、尿として排出させる機能を持つ腎臓。大量のろ過作業を通じた排出機能だけでなく、からだの状態を見ながら、必要なものはちゃんとからだに戻すといった、ハードなマルチタスクをこなしています。
そんな腎臓、実は夏にダメージを受けやすいってことをご存じでしたか。
悪化しても気づきにくく、さらに一度悪化すると元に戻すのが難しい腎臓。猛暑のダメージから守り、いたわるためのヒントについてアドバイスします。
すごいぞ腎臓
腎臓は、非常に賢く重要な臓器です。1分間に100ml、1日に144Lもの血液をろ過して、尿のもと(原尿)を作り、そのうち大半を再吸収し、最終的に1~1.5Lの尿を排泄します。
このようにたくさんの血液のろ過を行うことで、身体の中の水分量を含めた、様々な物質のバランスを一定に保とうとしてくれます。
夏は腎臓がダメージを受けやすい季節
過去100年で平均気温は1.2℃上がり、毎年のように観測史上最高といった文字を目にします。
暑くなると、人間は汗をかいて体温を下げようとします。このとき重要な反応として、皮膚表面へたくさんの血液を流し、熱の放散と発汗を促がそうとします。
これにより、体内の水分・塩分の喪失につながり、内臓への血流が低下します。特に、血液が常時豊富に循環しているはずの腎臓で血流低下が起こると、老廃物を排泄できなくなり、結果的に腎不全になってしまう場合があります。
よって、汗を多くかく夏は、腎不全のリスクがとても高まるのです。
その他にも、夏は、体内の水分不足により尿量が減少してしまうことで、膀胱炎をはじめとした尿路感染症や、尿路結石になる可能性も増えます。
腎臓病の方はさらに高リスク!
この腎臓への血流低下については、様々な薬剤の作用が関連するので、慢性腎臓病を含め、薬剤服用中の方は、さらにその危険性が高くなってしまいます。
また、腎臓病がある場合には、もともと腎臓での水分や塩分の処理能力が低下しているので、容易に水分や塩分の「過剰」、または「不足」を起こしやすくなるため、余計注意が必要です。
夏に腎臓の悪化リスクを避けるには?
このように、汗をかくことによる水分と塩分の不足が、腎臓の負担を増やします。問題は、「夏が暑いこと」なので、悪化のリスクを避けるには、体温管理が基本になります。
日差しを避ける方法としては、外出中なら、なるべく日陰を選んで歩いたり、日傘や帽子を使ったりしましょう。
屋内においては、カーテンで直射日光を避け、積極的に扇風機やエアコンを使いましょう。
熱がこもらないような襟元が緩めのものや、吸湿性・速乾性に優れた涼しい服装を選ぶことも効果があります。
また、最近では、冷却タオルや首元に巻くことができるような冷却剤などもありますので有効活用しましょう。なお、冷却シートをおでこに貼るだけでは不十分です。
大量の汗が出るため、水分・塩分摂取は重要な対策です。食事制限を受けていない方は、アルコールやカフェインの多いものは避けてください。
水分のみの補給では、体内のバランスが崩れることが想定されるので、スポーツドリンクなど少量の塩分が含まれているものが有用です。ただ、スポーツドリンクなどの飲料には、塩分のほかに糖分も含まれていますので、塩分や糖分の制限を指導されている方はかかりつけの医師にご相談ください。
腎臓病の方の水分・塩分補給は「少しずつ」が基本
腎臓病の方は、水分の過剰摂取からむくみが増悪して、かえって病気を悪化させてしまうことも考えられます。一気にたくさんではなく、こまめに少しずつ補給することを意識してください。
また、先に述べたように、腎臓の血流に関係する薬剤、水分不足・塩分不足の状況で腎臓に悪影響を及ぼす薬剤があります。
まずはご自分の飲んでいる薬を把握しておきましょう。そのうえで、熱中症に限らず調子が悪くなった時に薬をどうするか、事前にかかりつけの先生もしくは薬剤師さんにご相談いただくと、いざというときに腎臓を守れます。
症状がないまま悪化が進む腎臓
初めに腎臓を賢く重要な臓器と表現しましたが、我慢強いという特徴も持っています。
悪くなってもなかなか症状が出ず、「これが腎機能悪化の症状です」という特徴的なものはありません。結果、「症状が出た」と思ったら、腎代替療法(主に透析)が必要な状況です。
そのため、血液検査と検尿で現在の腎臓の状態を常に把握していくことが、とても重要になります。これが、悪化のサインを逃さず、今以上悪くさせないための唯一の方法です。
水分不足・塩分不足の判断の目安
よって、暑さでダメージを受けたとしても、実際には「暑かったから、腎臓も弱ってしまったなぁ」といった症状があるわけではありません。
ただ、体内の水分量・塩分量については、体重、血圧測定、足のむくみの有無などにより、体液量の減少・増加を推し量ることで評価ができます。
その他、脱水になったときの目安としては、口の中・舌・腋窩の乾燥、皮膚ツルゴールの低下(前額部、前胸部を皮膚でつまんでしわが寄ったままの状態になってしまうこと)があります。
腎臓の健康維持のために、通年で気を付けるべきこと
腎臓は、夏にだけ悪化するものではありません。腎臓の病気、慢性腎臓病は、一年を通じた生活習慣の結果、つまり「生活習慣病」と言えます。
そこで、腎臓病であってもなくても気を付けていただきたい点をいくつかご紹介します。
食事
食事については、食塩摂取量の削減、適切なエネルギー摂取量、栄養バランスの維持になります。
運動習慣
身体活動・運動については、日々の歩数の増加(万歩計を使っていただいてもかまいませんし、スマートフォンを利用していただいてもいいです)につながる散歩や運動習慣を持てるようになると素晴らしいと思います。
飲酒を控える
過度の飲酒は控えるようにしましょう。適正なアルコール量は20gまでと言われており、ビールだと中瓶1本、日本酒だと1合になります。
禁煙
禁煙も大事です。自力で難しい場合には禁煙外来などを利用いただくといいでしょう。
口腔衛生
口腔内の健康は、実は腎臓の健康に関係します。口腔内の衛生環境に気を付けましょう。
定期的な健康診断
これらはどなたにも共通する健康管理の基本になります。そのうえで、病気の早期発見のために健康診断を受けましょう。
慢性腎臓病の方に留意していただきたいこと
すでに慢性腎臓病と診断された方においては、減塩(1日3~6g)、血圧管理(病気や年齢によって目標とすべき値が異なりますので、担当の先生にご質問してください)、禁煙、適度な運動習慣が大事になってきます。
そのうえで先に述べた注意に気を付けながら、普段はしっかりとお薬を飲むこと、自分の健康管理として体重の増減がないことを確認しながら、日々過ごしていただければよいかと思います。
腎臓内科 科長
血液浄化療法部 副部長
講師 村田智博
Message
ひとたび悪くなるとよくなることが少ない臓器、腎臓です。皆さんの生活で悪くしてしまうこともあれば、守ることもできます。
今回は夏場の注意点でしたが、冬場は冬場で注意が必要なことが出てまいります。健康診断を有効活用し、かかりつけの先生とも相談しながら、日頃の生活に注意しつつ、是非腎臓を大事にしていきましょう。
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