医療と防災イメージ

災害時にも赤ちゃんを全力で守る─ バッテリー搭載搬送用保育器(クベース)を導入

災害時に、特別なケアを必要とする赤ちゃんの転院搬送を想定して、最大6時間稼働可能とされるバッテリー付きのクベース(保育器)を導入しています。そこで、「医療と防災」の3回目は、そのクベース(保育器)についてご紹介します。

クベースとは?

早産や未熟で生まれた赤ちゃんは、体重に対して体表面積が大きいため、体温が下がりやすいのが特徴です。また、体温を保つのに必要なエネルギーを生み出す力が弱く、結果的に低体温になりやすい傾向があります。そうすると、呼吸や循環に悪影響を及ぼし、合併症が発生するリスクが高くなります。

そうしたリスクを持つ赤ちゃんを保温する医療用保育器が「クベース」です。
クベースは、体温調節が苦手な新生児や未熟児にとって、適切な温度と湿度を保ち、合併症のリスクを削減するという、とても大切な役割を担っているのです。

災害搬送用のクベース

クベースには、構造・用途から「閉鎖式」と「開放式」の2種類あります。
閉鎖式は、透明なフードで外気と隔離する型式で、丸い小窓から手を入れて操作し、電気ヒーターで加温した空気の流れにより保温しています。
開放式は、おもに分娩室や手術室用として使われ、クベース上部からの赤外線の放射熱によって保温します。

災害時には、クベースを必要とする赤ちゃんを防災ヘリなどで、インフラや医療物資が十分に足りている専門病院へ転院搬送するシナリオも想定されます。移送中や停電など、電源が確保できない場合に使用できるバッテリー搭載の「搬送用クベース」というものもあります。

最大6時間稼働できるバッテリー搭載型の搬送用クベースを導入

三重大学病院は、様々なリスクに基づき高度な医療や特別なケアを必要とする赤ちゃんを受け入れることが多い病院です。それを踏まえ、災害時用のクベースの整備は欠かせません。そこで、この春(2023年4月)、最大6時間稼働可能なバッテリーを搭載した搬送用のクベースを導入しました。
以前から導入していた搬送用のクベースにもバッテリーが装備されていましたが、より長距離の、または複数の搬送を想定して、6時間稼働できるバッテリーのものに変更しました。

クベースを使って防災ヘリでの搬送を想定した令和4年度防災訓練の様子1クベースを使って防災ヘリでの搬送を想定した令和4年度防災訓練の様子2
クベースを使って防災ヘリでの搬送を想定した令和4年度防災訓練の様子
導入したバッテリー付きクベース
導入したバッテリー付きクベース

いざという時の的確な運用のために

当院のNICU(新生児集中治療管理室)の中西師長は、「停電時やヘリ搬送の時に安全に移動できるようになったので、ホッとしています。いざという時の的確な運用のためには、スタッフが新しい機器に慣れることが大事なので、定期的な災害医療訓練だけでなく、日ごろから検査のときなどの搬送でも使用していこうと話しています。また、防災ヘリに搭載するには確実に固定をする必要があるため、医師、臨床工学技士(ME)と一緒に手順書も作成しました」と、機器の導入だけでなく、平時からの準備が必要であることを強調していました。

NICU中西師長
NICU 中西師長

おまけ)クベースって何語?

「クベース」という言葉を医療機関では普通に使っています。もともと「クベース」というのは、保育器を意味するフランス語です。英語ではインキュベーター(incubator)といいます。
医療機関で使われている言葉の中に、フランス語由来のものはそれほど多くないように思いますが、世界初の保育器を取り入れた未熟児室が作られたのがフランスのパリであったことで、クベースという言葉が普及したようです。
ちなみにその当時使われていた保育器は、もともとチンパンジーの赤ちゃんの保育箱にヒントを得たものだったとのことです。
そういえば、災害医療の現場で使うトリアージ(治療の優先度を判断すること)やリエゾン(連携すること)もフランス語です。

災害対策・教育センター 担当:[あ]

三重大学病院は、万が一の災害時に地域の救急医療を担う「災害拠点病院」に指定されています。
災害発生時に、災害による負傷者への対応だけでなく、入院患者さんの医療を継続するという複数かつ重要な役割を適切に実行できるよう、当院では平時から様々な取り組みと準備を行っています。
Online MEWS「医療と防災」では、当院の防災対策やみなさんに役立てていただける防災のヒントをお伝えしています。

関連記事

ページ上部へ戻る