マイコプラズマ肺炎
2024年の夏頃から、マイコプラズマ肺炎が全国的に流行しています。週当たりの発症者数は、現在の方法で統計を取り始めた1999年以降で最多となっており、その記録更新が続いている状況です(2024年10月13日現在)。
マイコプラズマ肺炎は、小児だけでなく、あらゆる世代で発症します。また、季節的な傾向を踏まえると、これから冬にかけてさらに流行が広がる可能性があるため、今一度、特徴的な症状や感染予防策を確認しておきましょう。
マイコプラズマ肺炎とは
マイコプラズマ肺炎は、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)という細菌により引き起こされるもので、特に学童期から若年成人の肺炎の原因として一般的です。
肺炎マイコプラズマは飛沫感染や接触感染により感染し、下気道感染症である気管支炎や肺炎を起こします。感染してから症状が出現するまでの期間(潜伏期間)は、通常2~3週間です。感染しても、肺炎に至らない気管支炎のケースも多くみられます。
胸部レントゲン検査で明らかな肺炎像があっても、起きて歩ける状況で、重症化しない場合が少なくないことから、英語で「walking pneumonia(歩く肺炎)」とも呼ばれます。
それでも飛沫などには菌が含まれるため、気づかぬまま周囲の人に感染させてしまいやすいと言えます。
大流行に匹敵する2024年の状況
マイコプラズマ肺炎は、感染症法に基づく感染症発生動向調査において5類感染症定点把握対象疾患*で、全国約500か所の医療機関(小児科および内科)から毎週の患者数(入院・外来の総数)が報告されています。
例年、患者報告数は全国的に秋冬頃に増加します。振り返ってみると、3~7年程度の周期で流行が起きており、最近では2015~2016年にも大きな流行が起きました。
2020~2022年は、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、社会全体で感染防止策が強化されたため、患者報告数は例年に比べ、とても少ない状況でした。しかし、2024年は5月頃から増え始め、過去の大流行に匹敵する状況となっています。
三重県内においても同様で、2024年6月頃から患者報告数が増え始め、増加が続いています。特に小児科の基幹定点医療機関からの報告数は過去10年で最多となっています。
[三重県感染症情報センターHP(https://www.kenkou.pref.mie.jp/weekly.html)参照]
*5類感染症定点把握対象疾患:
感染症法第14条に基づいて、都道府県知事により指定された機関から週/月単位で届け出られた発生数を基に地域的な発症状況の把握を行う5類感染症のこと。マイコプラズマ肺炎以外に、新型コロナウイルス感染症、RSウイルス感染症、感染性胃腸炎、水痘、手足口病などが含まれる。
2024年の大流行の理由
マイコプラズマ肺炎の流行の理由は明確ではありませんが、人における集団免疫の変化が影響していると考えられています。
一度大きな流行が起きれば、症状が出ない、もしくは軽症のケースも含めて感染者数が増加し、肺炎マイコプラズマに対する免疫を持つ人が増えるため、社会全体の抵抗力が増し流行が抑えられます。
しかし一度ついた免疫は生涯続くものではなく、期間は様々ですが数年で徐々に低下し、再び肺炎マイコプラズマに対して免疫を持たない人が増えるため、次の流行を引き起こすと考えられます。
こういった周期的な流行の背景に加えて、新型コロナウイルス感染症の5類感染症への移行に伴い、社会全体の基本的な感染防止策の緩和が、2024年現在の大きな流行の背景にあると見られます。
マイコプラズマ肺炎の症状
発熱や全身倦怠感、頭痛、咽頭痛、咳、皮疹などの症状がみられます。咳は、痰の絡まない乾いた咳が特徴で、解熱した後も長期間(3~4週間)にわたり続くことがあります。
そのほか、まれに中耳炎、胸膜炎、心筋炎、髄膜炎などの症状を合併することもあります。
大人もかかるマイコプラズマ肺炎
小児と20歳以下の若年成人の罹患が大多数ですが、いかなる年齢でも罹患しえます。
60歳以上の患者割合は例年1割程度を占めています。初期には痰の絡まない乾いた咳が特徴ですが、大人では次第に痰がらみの湿った咳に変わることがあります。咳がしつこく長期(概ね2週間以上)にわたり続いている場合は、医療機関への受診が必要です。
治療
マイコプラズマ肺炎の治療には、抗菌薬が有効です。一般的な細菌性肺炎の治療で用いられるペニシリン系やセフェム系の抗菌薬は効果が乏しいため、マクロライド系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系の抗菌薬で治療を行います。
抗菌薬の効果がある場合は、投与後2~3日以内におおむね解熱しますので、効果が乏しいと判断される場合には、必要に応じて他の抗菌薬が処方されます。
治療期間が短いと十分な治療効果が得られない可能性がありますので、医師の指示に従い服用しましょう。
重症例や、肺炎以外の症状にはステロイドが投与されることがあります。
感染予防
今のところ有効なワクチンはありません。
手洗いやうがい、咳などの症状がある場合にはマスクを着用するなどの咳エチケットの励行といった基本的な感染防止策が予防に有効です。
新型コロナウイルス感染症で行っていた予防策を思い出して、実行しましょう。
公衆衛生・感染症危機管理学講座
准教授 金井瑞恵
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季節の変わり目、風邪をひきやすい季節です。基本的な感染防止策を行い、十分な休息をとることがマイコプラズマ肺炎の予防にもなります。もし、若い方でも、2週間以上にわたり咳が続いておられる場合には、一度受診をお勧めします。
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