糖尿病(後編~治療と予防)
前回の「健康一言アドバイス」では、糖尿病の種類ごとの原因や合併症についてお話ししました。後編となる今回は、糖尿病の治療と、特に大事なポイントである予防についてご説明します。鍵となるのは、生活習慣です。
11月14日は、糖尿病についての啓発を目的とした「世界糖尿病デー」。この11月に、糖尿病の方も、糖尿病予備軍の方も、まだまだ心配ない方も、ご自分の生活習慣を振り返り、見直す機会にしてみませんか。
○ 薬物・食事・運動による治療
糖尿病に対しては、「体の中からインスリンが出にくいのか」、「インスリンが効きにくいのか」、「糖尿病になった原因は何か」、「併存症や合併症があるかどうか」などをさらに調べた上で、個人個人に合わせたオーダーメイドの治療をしていきます。
薬物治療
近年、糖尿病の薬が次々に開発され、個々の病気の状態や生活背景に合わせた、より理にかなった治療が可能となりました。
以前は、治療開始の際に入院が必要だったインスリン治療も、外来で安全に開始できるようになっています。できる限り、患者さんの仕事や生活に支障が出ないよう配慮して治療を行いますので、躊躇せず、必要な時に必要な治療を速やかに受けてください。
食事療法
食事も重要な治療です。もし過度にジュースやお菓子、果物など甘いものを過剰に摂取しているなら、まずこれらから減らしましょう。
糖尿病は食事を減らさなければならないと思っていらっしゃる方が多いように思いますが、実際は、「個々の適正量に合わせる」のが正解です。
肥満のある方は、現在より摂取カロリーを減らす必要がありますが、痩せている場合には、しっかり食事をとり、お薬で血糖値を適切に下げる必要があります。糖尿病治療は、血管のダメージを防ぐだけでなく、体をしっかり作るということも重要です。
運動療法
食事療法と並んで、運動も欠かすことはできません。肥満、メタボリック症候群の方は、有酸素運動を中心に体重を減らす運動をしましょう。
逆に、痩せている方は、レジスタンス運動(筋肉に負荷をかける動作を繰り返す運動、俗にいう“筋トレ”)を中心に、体重を減らさない運動をしましょう。
有酸素運動、レジスタンス運動のいずれも血糖値を低下することができます。
糖尿病の方は、太っているイメージがあるかもしれませんが、そんなことはありません。日本の糖尿病の方の平均体重は、実は「標準」です。特に、専門外来にはやせ型の糖尿病患者さんも多くいらっしゃいます。糖尿病は、サルコペニア(筋肉量の減少)、フレイル(寝たきり予備軍)にもなりやすく、世界一の長寿国である日本で社会的な問題となっています。
○ 治療の継続について
糖尿病の薬物治療を開始し、いったん血糖調整が良くなった後に、すっかり治ったと勘違いしたり、仕事や家庭の事情などで、通院を中断し、服薬をすべて中止してしまう方がいらっしゃいます。糖尿病治療は薬を使って血糖値を下げますが、残念ながら糖尿病になりやすい体質自体を治しているわけではありません。まずはお薬を中止できるまでしっかり通院を継続してください。お薬を中止できる状態なった後も、生活習慣の乱れや、加齢等で再び悪化する場合もあります。引き続き主治医の助言に従って定期的に通院、または健診を継続し経過観察してください。
○ 発症と悪化を防ぐには~食事・運動・健診がカギ
糖尿病の発症と悪化を防ぐには、食事と運動を中心とした生活習慣の改善が何よりです。
そして、発症を見逃さない定期的な健診を受けることです。前編でもお伝えしたように、万が一発症したとしても、早期発見・早期治療ができれば、合併症を避け、健康に過ごしていくことも可能です。
食事を見直しましょう!
- 甘いもの摂り過ぎに注意
お菓子、ジュース、果物などの糖分の多いものの摂りすぎは、肥満や栄養の偏りの原因になります。また、急激な血糖値の上昇をおこします。1回に食べる量を減らす、食べる/飲む回数を減らすなどの工夫を取り入れ、暇だからだらだら食べるのではなく、特別なお楽しみとして取り入れましょう。
また、のどが渇いた時には、ジュースや牛乳ではなく、お水やお茶など糖分の入っていない物を選ぶこともポイントです。 - ゆっくり噛んで食べる
食事は、ゆっくりよく噛んで、時間をかけて食べると、満腹感を感じやすく、食べすぎの防止になります。 - ベジファースト
食事には、繊維がたっぷりの野菜をしっかり摂ります。また、野菜を食事の最初に摂ると、血糖値が急激に上昇するのを抑え、結果的に、体内で血糖が脂肪として蓄えられにくくなることが期待できます。
野菜の中でも、カボチャやイモは糖分が多いので、少し後にします。 - 肥満の方は摂取カロリーを減らす
肥満やメタボリック症候群のある方は、食事量(総カロリー)を減らしましょう。主食を1/4程度減らすだけでも続ければ効果が出ます。
また、量が足りなければノンカロリーの食品(キノコ、海藻類、こんにゃくなど)、低カロリーの葉物野菜などでカサ増しすることをお勧めします。
ダイエット効果を謳う高価なサプリメントや健康食品を増やすより、食事量を少しでも減らした方が効果的です。「食事もお金も追加するより削る」です。 - 瘦せの方はむしろ増やす
痩せている方は、大きな筋肉と丈夫な骨を持つしっかりとした体を作るため、食事量を減らさず、むしろ増やす必要があります。特に高齢の方は、やせていることが、ふらつき、転倒、骨折のリスクとなりますので、体重が減りすぎないよう、より気を付けましょう。
定期的な運動を取り入れましょう!
本来は、ウォーキングやスポーツを習慣的に取り入れることが望ましいのですが、時間を取りにくいなどの制約がある方には、下記がお勧めです。生活の中に組み込んで、毎日歯を磨くように運動しましょう。
- 座っているときに、おなかに力を入れて、足を浮かせる。
- 座りっぱなしを避けるため、30分ごとに立ち上がる。
- 歯磨きしながらつま先立ちでストレッチ。
- 家事、特に掃除を積極的に行う。(かなりの運動量です!)
- 別の階のトイレを利用して、ぐるっと歩いて行って・戻る。
- 駐車場ではできる限り遠くに駐車する。
健診は毎年受けましょう!
2型糖尿病の場合、発症する何年も前から血糖値が徐々に上がってきます。そのサインに早めに気づき、「糖尿病予備軍」である自覚を持つためには、健診を毎年受けることが大事です。特に血縁者に2型糖尿病の方がいる場合は要注意です。
健診で、糖代謝が「経過観察」となったら、特にメタボリック症候群や肥満の方は、まずご自身で、先にご紹介したように、食事や運動などの面から、生活習慣を見直し、改善に取り組み始めましょう。こうした取り組みが、糖尿病の発症を先延ばしできたり、うまくいけば、発症を防ぐことにもつながります。
○ 三重大学病院での診療体制
三重大学医学部附属病院の糖尿病・内分泌内科では、他の重症疾患や重度の合併症のある方、手術や出産の前後にある方など、専門的な糖尿病治療が必要な患者さんを中心に診療を行っています。
特に、合併症がある場合には、その状況に合わせて当院の様々な診療科と連携し、治療に当たれるようにしています。また、糖尿病療養指導士による糖尿病治療サポートや透析予防サポート、フットケア、管理栄養士による栄養サポートも行っています。
当院に受診を希望される場合は、まずはかかりつけ医へご相談ください。
○ みえ糖尿病サポートねっと(糖サポねっと)
三重大学病院では、糖尿病に関する情報サイトを運営しています。糖尿病のことを学べるだけでなく、糖尿病に関するイベント情報や、糖尿病診療が可能な三重県内の医療機関を検索することもできます。
今回ご紹介した糖尿病の原因、予防、治療についてもより詳しくご紹介していますので、ぜひご覧ください。
みえ糖尿病サポートねっと
https://mie-dm.net/
糖尿病・内分泌内科
三重大学保健管理センター 講師
古田範子
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食事、運動療法等、生活習慣の改善は糖尿病だけではなく、ほとんどの疾患に有効です。また、アンチエイジングにもつながります。
糖尿病には、立ち向かうより、うまく長く付き合っていくことが大切です。
無理をしすぎてストレスになったり、体を痛めたり、結局リバウンドしてしまうより、毎日少しずつ、できることを、できる範囲で継続していくほうがよいでしょう。
未来の自分への投資と考え、まずは今すぐ、何かひとつはじめてみませんか?
「健康一言アドバイス」では、医療や健康など皆さんに身近な疾患や気になる話題を取り上げ、その領域の専門家がわかりやすくお伝えしています。