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災害時の健康を守るために ~災害用トイレの必要性~

大規模地震や水害が起こると、電気・ガス・水道などのライフラインが断絶する可能があります。なかでも深刻な問題となるのが、水、特に生活用水の確保です。地震などにより給水ポンプの停止や水道管の破損が生じると、トイレが使用できなくなる事態に直面します。災害時にトイレが使えないことは、単なる不便さにとどまらず、衛生環境の悪化や健康被害につながります。
そのため、災害時のトイレについては、事前の備えが極めて重要です。

「医療と防災」の33回目では、災害用トイレと健康をテーマにお話します。

下水道の被害想定

2024年津市業務継続計画(BCP)によると、理論上最大クラスの南海トラフ地震の場合、下水道は発災から1日後で処理人口の68.6%、約8.7万人に支障が生じると想定されています。

トイレが使えないことによる健康への影響

災害時にトイレが使えない、避難所のトイレは使いにくいなどという理由で、実際に被災地では排泄を我慢したり、水分をとること自体を控えたりして、様々な健康上の問題を抱えたという方はとても多くいます。

例えば、排尿を我慢することで膀胱炎などの尿路感染症になりやすかったり、排便を我慢することで便秘が悪化したりします。また、水分を控えることで、脱水や血栓症(エコノミークラス症候群)のリスクが高まります。

感染症の観点から考えると、排泄物が適切に処理されない環境や不十分な手指衛生の状態が続くと、ノロウイルスなどの感染性胃腸炎や食中毒が広がりやすくなります。

このように、災害時にトイレ環境が整備されていないことは、避難生活の質を著しく低下させ、場合によっては命に関わる健康被害につながってしまいます。

災害時のトイレ対策

では実際に、健康を守るためにはどのような対策が必要でしょうか。

トイレ対策は、水道の復旧状況によって変わります。

上下水道が使用できない場合は、水が不要な災害用トイレが最適です。下水道のみ使用可能な場合は、既存のトイレにバケツなどで水を流して使用できます。しかし、流す水が必要なことに加え、下水道が使用できるかどうかの判断は難しいため、上下水道の状況に左右されず使用できる災害用トイレを備えておくことが安心です。

皆さんの中にも自宅や勤務先、あるいは地域で災害用トイレを用意しているという方は多いかもしれません。使用にどのような環境が必要なのか、どのように使用するのかを今一度確認しておくことをおすすめします。

ここでは、当院で備蓄している災害用トイレを例にその使い方を簡単にご説明します。

1)簡易トイレ:簡易便座にビニール袋を被せて使用

  1. 簡易便座を組み立て、ビニール袋を被せる
  2. 排泄する
  3. 凝固剤を入れ、ペーパーも一緒に固める(排便のみの場合は浸かる程度の水を加える)
  4. 中の空気を抜きながら袋を結ぶ(2重に結ぶと臭気が漏れにくい)
  5. 付属の持ち運び袋に入れて廃棄する
※着色した水を使用しています

2)携帯トイレ:既存のトイレにビニール袋を被せて使用

  1. 既存のトイレの便座を上げて汚染防止ビニール袋を便器にかぶせる
  2. 便座を下ろし、汚物用ビニール袋(黒)をかぶせる
  3. 凝固剤を入れる
  4. 排泄する
  5. ビニール袋(黒)を便座から外し、空気を抜きながら結ぶ
  6. 防臭袋(白)に⑤を入れ袋をねじりながらしっかり結び廃棄する

3)自動ラップ式トイレ:熱圧着によって、排泄物を1回ごとに個包装して排泄物を密閉

  1. リモコンのランプが緑に点灯していることを確認する
  2. 凝固剤を入れる
  3. 排泄する
  4. 便座から立ち上がり、リモコンのボタンを押し自動ラップを開始する
  5. 約1分後終了音(ピッピッピ)が鳴ると切り離し完了
  6. ラップ済み袋を取り出し廃棄する
※着色した水を使用しています

このように、災害用トイレには様々な種類があり、性能や使用方法も異なります。当院では、排泄物に直接触れずに袋に密封できる自動ラップ式トイレを病棟ごとに100回分を備えています。使い方をあらかじめ知っておくと、実際に使うときの心配を減らすことができます。

災害用トイレと感染症予防

災害時は、排泄物を流す・処理する仕組みが正常に機能せず、衛生対策が不十分な場合、感染症が蔓延する恐れがあります。そこで、避難所の環境を保持するために、トイレ使用時の感染症予防について重要なポイントを3つお伝えします。

1.トイレの使用方法を守る

まずは、災害用トイレの使用方法を守ることが大切です。
正しく排泄を行うことで、飛散や汚れを最小限にすることができ、感染予防につながります。

2.手指衛生

感染症、なかでもトイレ周辺で感染しやすい感染性胃腸炎を防ぐためには、石鹸と流水による手洗いが最適です。
しかし、水が使用できない場合は、手指消毒用アルコールをたっぷりと手に取り乾燥するまで擦り込み手指衛生を行います。

3.感染予防のための清掃

大勢が利用するトイレから感染を拡大させないために、定期的な清掃は欠かせません。
清掃を行う人は、感染から身を守るために使い捨てのマスク、手袋、可能であればエプロンやアイシールドも装着することが望ましいです。
拭き取りの消毒水は次亜塩素酸ナトリウムを希釈したもの(水2Lにハイター®キャップ1杯)を準備します。水が使用できない場合に備え、次亜塩素酸ナトリウムと比較すると消毒効果は劣りますが、除菌シートなども準備しておくと安心です。

感染管理認定看護師 塚脇師長よりコメント

水が自由に使えないことが想定される災害時、トイレ環境の悪化は感染症の直撃を招くだけでなく、排泄を我慢することによる脱水やエコノミークラス症候群といった健康被害にも繋がります。

感染管理の視点から最もお伝えしたいのは、“目に見えない菌を広げない”という意識です。この記事の中でも紹介している手指衛生は、自分自身を守るだけでなく、ドアノブなどを介して他の人にうつさないための大切な配慮です。また、清掃時に次亜塩素酸ナトリウムを使用するのは、アルコールが効きにくいウイルスにも有効だからです。

事前の備えと正しい知識が、避難所生活を守る盾となります。一人ひとりが「感染させない・広げない」主役となり、皆で安全な環境を保っていけるといいですね。

個人や家庭でできる備え~自助の取り組み~

災害において「自助」とは、発災時に自分や家族の身を守ることに加え、避難経路の確認や食料等の備蓄など日常から行う災害対策までを含みます。大規模災害が発生すると、行政や消防といった「公助」の機能が十分に行き届かない可能性があります。だからこそ、平時から自ら備える「自助」の取り組みが一層重要になります。

当院におけるトイレ対策については前述のとおりですが、災害時の「自助」として、家庭でできるトイレ対策についてもご紹介します。

  • 簡易トイレ・携帯トイレの備蓄
    院内で採用しているような凝固剤や防臭袋付きのタイプは衛生管理がしやすいです。コンパクトな商品が多いため、保管場所にも困りません。
  • トイレットペーパーの防水保管
    万が一、備蓄が浸水する可能性を考え、トイレットペーパーはチャック付き袋などに入れて保管しておくと安心です。
  • 手指衛生用品の準備
    断水で手洗いができない状況に備え、手指消毒用アルコールや除菌ウェットティッシュを用意しておきましょう。また、使い捨ての手袋やペーパータオル、ごみ袋なども準備しておくと衛生管理が行いやすいです。

これらを備えておくことで、災害時の排泄に伴うストレスや感染リスクを低減することができます。家族内で、備蓄場所や使用方法を事前に共有しておくことも重要です。

災害対策は、受け身で待つだけではなく、自ら進んで取り組んでこそ、命と健康を守ることができます。

防災といえば、食料や飲料水に焦点が当たりやすいですが、ぜひトイレにも目を向けていただければと思います。災害対策推進・教育センターは、皆さまが少しでも防災に興味を持ち、日頃の備えに取り組んでいただけるように今後も活動を続けてまいります。

災害対策推進・教育センター担当:[舞野]

三重大学病院は、万が一の災害時に地域の救急医療を担う「災害拠点病院」に指定されています。
災害発生時に、災害による負傷者への対応だけでなく、入院患者さんの医療を継続するという複数かつ重要な役割を適切に実行できるよう、当院では平時から様々な取り組みと準備を行っています。
Online MEWS「医療と防災」では、当院の防災対策やみなさんに役立てていただける防災のヒントをお伝えしています。

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