災害医療と応急手当 「切り傷と感染症対策編」
大規模災害時には、転倒して腕を骨折したり、火災に巻き込まれて火傷を負ったり、避難の際にガラス片を踏んで出血したりと、誰もが傷病者になる可能性があります。そんなときに役に立つのが応急手当の知識です。
そこで、「医療と防災」第6回目では、骨折が疑われる際の応急処置についてご紹介しました。骨折も災害時に多く見られる疾病ですが、もう一つ多いのが切り傷です。また、切り傷を介して感染症のリスクが高まることは意外に知られていません。
8回目の今回は、そんな切り傷に関わる応急手当と感染症についてご説明します。
なぜ切り傷が感染リスクを高めるのか
「骨折編」の際にも触れた通り、災害時の応急手当の目的は、“苦痛を緩和”し、“症状悪化を防ぐ”ことです。さらに、応急手当は、二次災害とも言われる感染症の予防の面でも重要な役割を果たします。
災害時には、感染症発症の要因である「免疫力の低下」「感染経路」「感染源」の3つがすべて揃っている状態になります。この中でも、切り傷は格好の感染経路となるため、その処置のあり方が感染リスクにも大きく直結するわけです。
切り傷は、消毒などの処置ができなままだとその傷口からウイルスや細菌などの感染源が侵入してきます。災害や避難というイレギュラーな状況下では、ストレスや休息不足により免疫力も低下しているため、感染リスクはより高くなります。
切り傷から感染する破傷風
大規模災害発生時に、特に発症者が増える感染症は「破傷風(はしょうふう)」です。傷口が泥流や土壌に接触し、土の中に存在する破傷風菌が体内に侵入することで感染します。
破傷風に感染すると、発熱や倦怠感の他に、口を開けづらくなったり、顔の筋肉がこわばったりといった神経麻痺の症状が出現し、重症になると呼吸ができなくなることもあります。
傷口からウイルスや細菌など病原体の侵入を防ぎ、破傷風をはじめとする感染症を予防するには、速やかに傷の部分を清潔にし、保護することが必要です。つまり、応急手当です。
出血の種類
それでは、具体的にはどのように応急手当を行えばよいのでしょうか。その基本は、1)出血している場合は止血を行い、2)その後、傷口を清潔にし、3)保護する、という3段階です。
出血は、動脈性出血、静脈性出血、毛細血管性出血という3種類がありますが、このうち、動脈性出血(動脈からの出血)は、大量出血となりやすく、失血によって臓器障害が起こる失血性ショックにつながる可能性があるため、すぐに止血を試みる必要があります。
真っ赤な血が噴出するように出血している場合は、動脈性出血であると考えられます。
止血の方法
止血の方法は、主に「直接圧迫法」と「間接圧迫法」があります。
止血を行う時に注意しなければならないのは、出血している人の血液に触らないことです。その理由は、自分以外の人の血液や体液に触れると、感染するリスクがあるからです。
患部を握る際には、ビニール袋を1枚挟むなどして、他者の血液に触れないようにしてください。
直接圧迫法
出血していたら、まずは直接圧迫法で止血を試みます。
直接圧迫法とは、傷口を押さえて行う止血方法です。
間接圧迫法
直接圧迫法によって止血できない場合には、間接圧迫法を行います。
関節圧迫法は、傷口より心臓に近い部分で動脈を圧迫して、止血する方法です。
(協力:三重大学医学部医学科3年生 村瀬君、森井君)
切り傷の応急手当
ケガをした部位は汚染されていることが多いため、傷口を清潔にしてから、保護することが大切です。止血が完了した傷や、止血の必要がないような傷については、下記の方法で、傷の応急手当を行っていきます。
包帯の代わりとして、ネクタイやバンダナ、タオル、ラップなどが活用できます。
他に活用できるものがないか、身近な人と一緒に是非考えてみてください。
切り傷の応急手当
災害対策推進・教育センター 担当:[はるか]
三重大学病院は、万が一の災害時に地域の救急医療を担う「災害拠点病院」に指定されています。
災害発生時に、災害による負傷者への対応だけでなく、入院患者さんの医療を継続するという複数かつ重要な役割を適切に実行できるよう、当院では平時から様々な取り組みと準備を行っています。
Online MEWS「医療と防災」では、当院の防災対策やみなさんに役立てていただける防災のヒントをお伝えしています。