多数傷病者受入とトリアージ
- 2023-8-7
- 医療と防災
- #災害拠点病院, #多数傷病者, #トリアージ, #災害対策推進・教育センター
大型災害時には、災害拠点病院をはじめとする医療機関では、多数の傷病者を受け入れることが想定されます。そんなとき、災害医療において重要な役割を果たすのが、傷病者に対する「トリアージ」です。
「医療と防災」の5回目では、当院の災害対策の中心的組織である「災害対策推進・教育センター」の看護師が、多数の傷病者受け入れの際のトリアージについて解説します。
多数傷病者が発生する主な災害
大地震、風水害、マスギャザリング*1時の多数傷病者事故、航空機事故、列車脱線事故、CBRNE災害*2などの際には、多数の傷病者が発生することが予想されます。
当院のマニュアルでは、「三重県津市で震度5強以上の地震が発生した場合」、あるいは、何らかの災害により「15名以上の歩行不能傷病者の搬送が必要となった場合」に、多数傷病者の受け入れ体制をとることになっています。
*1)マスギャザリング
コンサートや大規模花火大会のように、限定された場所に同一目的で同時に集まった多人数の集団。
*2)CBRNE災害
Chemical(化学)、Biological(生物)、Radiological(放射線)、Nuclear(核)、Explosive(爆発)を使用したテロや特殊災害のこと。
トリアージとは?
このような災害により、何十、何百といった多数傷病者が発生した際、医療現場で必要となるのがトリアージです。
トリアージは、傷病の緊急度や重症度に応じて、適切な処置や搬送を行うために、迅速に傷病者の治療優先順位を決めることを言います。災害時における限られた医療資源(人・モノ・場所)を活用し、いかに多くの人を救うかという前提に立った災害医療においてとても重要なプロセスです。
トリアージの実施方法
トリアージでは、決められたフローに沿って「歩行の可否」「呼吸」「脈」「意識」の4項目を評価し、傷病者を大きく4つのグループに分けます。
トリアージによる区分を分かりやすく表示し、その後の処置にスムーズに進めるために、傷病者に装着される識別表が「トリアージタッグ」です。
赤タッグ
緊急治療、もしくは直ちに病院搬送が望ましい病態で、生命の危機的状態にあるため、最優先で治療が必要。
腹腔内出血、血気胸、ショックなどが認められる状態。
黄タッグ
優先度第2位で、赤タッグの対応が終了次第治療にあたる病態。
2~3時間処置を遅らせても悪化しないと考えられる疾患であり、開放骨折、中度熱傷、脊髄損傷などが認められる状態。
緑タッグ
比較的軽症であり、優先度は低い。軽度熱傷や擦過傷、小骨折など、医師以外でも手当が可能と考えられる疾患。
黒タッグ
死亡もしくは回復の見込みがない病態で、窒息や高度脳損傷、心肺停止などが認められる状態。生命兆候のない症例であり、災害時には優先度は最も低い。
死亡診断と同等の判断にもなり得るため、慎重な判断を要する。
トリアージの歴史
トリアージは、「選別」という意味のフランス語「トリアージュ(triage)」を語源としています。戦争が頻発していたナポレオンの時代に、フランス軍が、多数の戦傷者の中から治療により再び兵士として戦闘に参加できる軽症者を選別することを目的に行われるようになったと言われています。
日本では、1995年に発生した阪神淡路大震災を機に、全国の医療機関でトリアージタッグの標準化が進みました。それ以前にも、トリアージのシステムはありましたが、阪神淡路大震災のような大規模災害で十分機能しなかったという教訓が、現在のようなトリアージの確立の背景になっています。
トリアージにおける医療者の思い
多数傷病者すべてに最善の医療を行うことが困難な災害時の医療現場においては、「最大多数に対する最大幸福の達成」を目指すことになります。よって、限られた医療資源で多くの傷病者を助けるという目的に対して、トリアージは有用な方法ですが、一方で、その実施の場面において、医療者は課題や葛藤に直面することもあります。
例えば、トリアージは一人でも多くの人を助けるために、「助かる可能性の高い重傷者から治療していく」という考え方であり、見方次第では、命の選別にあたるのではないかという葛藤です。
治療の優先順位が低い黒タッグと判断された場合でも、平時のように時間と医療資源を最大限費やせれば、もしかしたら助かる命かもしれません。しかしながら、黒タッグと判断すれば、災害時には、命の尊厳をもってフォローすることは難しく、医療者はハードな判断を求められることになります。
また、治療の優先度が低い患者さんは長時間待機してもらう必要があるため、ただでさえも不安な災害時に、不安やストレスを増大させてしてしまう可能性も課題として挙げられます。
様々な場面でたとえ患者さんの理解や協力を得られたとしても、医療者自身はこのように様々な思いを抱えながら、一人でも多くの傷病者の救命を目指してトリアージを行うことになります。
多数傷病者を想定した防災訓練
三重大学病院では、いざという時に備え、年間を通じて大小様々な訓練を行っており、その中でも最大規模となるのがトリアージ訓練を含む多数傷病者受入訓練です。その訓練を今年度は9月23日(土)に、津市消防本部(北消防署)、自治会などと共同して実施する予定です。
毎回この訓練では、前述したようなトリアージにおける葛藤や課題など気づいたことのディスカッションも行い、万が一の際に医療者として適切で最善の行動が取れるよう心構えを含め、訓練を行っています。
災害対策推進・教育センター 担当:[はるか]
三重大学病院は、万が一の災害時に地域の救急医療を担う「災害拠点病院」に指定されています。
災害発生時に、災害による負傷者への対応だけでなく、入院患者さんの医療を継続するという複数かつ重要な役割を適切に実行できるよう、当院では平時から様々な取り組みと準備を行っています。
Online MEWS「医療と防災」では、当院の防災対策やみなさんに役立てていただける防災のヒントをお伝えしています。