取り組み

三重大学病院の「医療DX」

DX(ディー・エックス)という言葉を最近よく聞くなぁという方も多いかもしれません。
DXは、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略語で、分析したり、組み合わせたりできるようにデータ化した情報、インターネットや人工知能(AI)といった様々なデジタル技術を駆使して、社会や暮らしの課題を解決し、よりよく変革することです。この考え方は、すでに医療の世界にも導入され、三重大学病院でも取り組みが始まっています。
診療の精度向上だけでなく、患者さんの体調管理や健康維持に寄与するために、三重大学病院が取り組む医療DXとは?医療DXセンターの北川覚也センター長がご紹介します。
それ行け!三重大学病院。それ行け!医療DX。

三重大学 みえの未来図共創機構  地域共創展開センター 教授
三重大学大学院医学系研究科 先進画像診断学講座 教授
三重大学医学部附属病院 医療DXセンター センター長
北川覚也

医療DXとは

DXとは、デジタル技術を活用して、ビジネスや社会、生活の形・スタイルを変えることです。
医療分野に取り入れる場合には、特に「医療DX」と言われ、患者さんの健康増進や利便性の改善、医療や関連サービスの質の向上、医療機関における業務の効率化などを目指してデジタル技術を活用する取り組みを意味します。また、こうしたDXを実践する病院の姿を「スマートホスピタル」と言います。

様々な情報を連携させ、質の高い医療の提供を目指す、住民の皆さんを中心に据えたスマートホスピタルのイメージ

三重大学が進める医療DX

三重大学には、2030年までの達成目標を示した『三重大学ビジョン2030 1)』というのがあるのですが、その中でも、医療は重点項目の一つとなっており、医療DXの推進が明記されています。

このビジョンに沿って、附属病院であり、県内唯一の大学病院として、全国でも先駆的なDX医療人材の育成と地域全体のスマートホスピタル化を通じて、県域の医療課題解決を目指すDX推進の旗頭となりたいと考えています。

三重大学ビジョン2030「4.先端医療の実施と医療人育成による地域医療の発展」より抜粋

1) 三重大学ビジョン2030とは:
三重大学が、地域社会発展の原動力となるべく地域共創大学として、2030年までに教育・研究・社会貢献・医療の各領域において達成すべき目標を示したもの。

三重大学みえの未来医療会議と桑名医療DXプロジェクト

三重大学の地域医療への取り組みについては、三重県、地域および関係団体から課題や意見を集約し、議論を行う場として、「三重大学みえの未来医療会議」が設置されています。

この会議で明確化した三重県が抱える医療課題を解決すべく、三重大学みえの未来図共創機構地域共創展開センターでは「桑名医療DXプロジェクト」を立ち上げました。

桑名市総合医療センターと連携した実証実験

桑名医療DXプロジェクトでは、当院と桑名市総合医療センターが協力し、さまざまな実証実験、例えば、電子カルテと連携したPHR(パーソナルヘルスレコード)2)の導入、遠隔画像診断支援、内視鏡検査の遠隔支援システム開発、ウェアラブルデバイスによる健康増進活動のモニタリングなどを進めてきました。

この実証実験の結果は、課題や成果といった側面から分析し、モデルケースを組み立てた上で、三重県全体に還元する予定です。

2) PHR(パーソナルヘルスレコード)とは:
Personal(個人の) Health(健康) Record(記録)の頭文字をとった略語で、一人ひとりの健康、病気・治療・服薬、介護などについて記録したデータのこと。これらをまとめて保管し、活用することで、よりよい医療や介護サービスを受けられたり、健康寿命を伸ばすことにつながると期待されている。

PHRを活用した医療情報管理

医療DXで目指す地域全体のスマートホスピタル化にとって、最初の重要なステップとなるのは、医療機関ごとにバラバラに管理されている医療情報を統合し、効率的に活用できる環境を作ることです。

ここで重要な役割を果たすのが、我々の実証実験でも取り組んでいる「電子カルテと連携したPHRの導入」です。
電子カルテには、病院での検査結果や処方薬が記録されています。こうした情報は誰のものかと考えると、当然、患者さんのものなのですが、これまで患者さんはせいぜいプリントアウトしたものを受け取ることしかできませんでした。

そこで、桑名市総合医療センターでは2023年5月から、三重大学病院では2024年3月から、『NOBORI』というPHRアプリを導入しました。このアプリは、電子カルテと密接に連携したものとなっていて、医療機関で受けた検査の結果や画像データ、通院予定、処方内容などを患者さんが自分のスマホで確認できるようになります。
『Google Fit』や『Appleヘルスケア』といったアプリやマイナポータルとも簡単に連携できますので、体重や血圧、歩数などのライフログと呼ばれる日常生活から得られる健康情報や医療費などもあわせて管理できます。

さらに、これらの情報をご家族や他の医療機関と必要に応じて共有することも可能です。
例えば、初めてかかったお医者さんに、いつどんな検査を受けてどんな結果だったのか、どんな薬が処方されているのかを口頭で伝えるのはとても難しいことですが、このアプリを使えば、情報共有の質や効率が大幅に改善されますので、より質の高い診療が受けられることも期待されます。

このように患者さんご自身の医療情報は、病院に預けっぱなしにするのではなく、ご自身でもPHRを使って管理し、そこから得られる情報を活用して、日々の生活の改善などに積極的に取り組んでいただきたいと考えています。

NOBORIの画面イメージ

医療機関利用における利便性アップにも

『NOBORI』を通じたPHRの活用の可能性はいろいろ広がりますが、もう一つ、個人的に便利だなと思っているのは、医療費後払い機能です。
窓口でのクレジットカードでのお支払いとは異なり、診察後に会計窓口で「医療費後払い:利用可能」というアプリ画面を提示していただくだけで、会計待ちをせずにお帰りになれます。当日の医療費は、後日、登録されたクレジットカードから決済されます。

PHRにおけるセキュリティ

PHRの活用については、情報漏洩などセキュリティ面の不安を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。
先ほどご紹介した『NOBORI』の利用においては、なりすましのリスクを抑えるために、当院では、対面形式で本人確認を行った方だけがご自身の医療情報を確認できるようにしています。スマホにアプリをインストールするだけでは、病院の医療情報を見ることはできないのです。
アプリ自体についても、十分なセキュリティレベルが担保されていることをサービス提供者に確認しています。

PHRを患者さんと三重大学病院のコミュニケーションツールに

実際に、このアプリを使われた患者さんから、「通院が便利になった」、「薬や検査結果を後から確認できて安心する」といった声を多くいただいています。
将来的には、PHRを患者さんと三重大学病院とのコミュニケーションツールとして発展させていきたいと考えています。そのためには多くの患者さんに利用いただくことが前提になります。

また、今後、県内の主要病院にも順次導入していただく予定ですが、このアプリ1つで他の病院のデータも管理できるようになりますので、ぜひ、ご利用ください。
最初の登録が面倒に思われるかもしれませんが、一度、使い始めると手放せなくなりますよ。

どこにでも質の高い医療を届ける遠隔医療

縦長な地形の三重県は、医療の格差が生まれやすく、実際に、三重大学みえの未来医療会議でも当県の医療課題の一つとして挙げられています。患者さんが三重県のどこにいても質の高い医療を受けられる体制をつくることは、当院の医療DXの重要なテーマの一つです。

そのテーマの下では、三重県の最南端に位置する御浜町にある紀南病院と当院をネットでつなぎ、内視鏡検査の遠隔支援を行うなど、すでに成果が生まれ始めています。

三重大学病院(津市)と紀南病院(御浜町)をネットでつないだ内視鏡治療の遠隔支援

このように、三重県の医療の質や患者さんの健康のさらなる向上を目指して、引き続き当院また大学全体で医療DXを進めていきたいと思います。

三重大学 みえの未来図共創機構 地域共創展開センター 教授
三重大学大学院医学系研究科 先進画像診断学講座 教授
三重大学医学部附属病院 医療DXセンター センター長
北川覚也

鈴鹿市出身。犬が大好きで、自宅にはミニチュア・シュナウザーがいる。最近のマイブームは朗読。

三重大学病院は、特定機能病院として、また地域医療の拠点として、三重県や近隣県の患者さんに安全で質の高い医療を提供するために、さらには、研究や人材育成を通じて日本のみならず世界の医療の発展に貢献するために、いろいろな活動に取り組んでいます。
「取り組み」のコーナーでは、こうした活動をピックアップしてご紹介しています。

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