取り組み

eスポーツで楽しく認知機能の改善を目指す「脳活っ塾」 スタート!
─認知症センターの新しい取り組み─

三重大学病院にある認知症センターは、認知症の予防、早期発見、治療、ケア、認知症の方が住みやすい地域づくりのためのネットワーク構築など幅広い活動に取り組んでいます。そんな認知症センターが新しく「脳活っ塾」を立ち上げました。ゲーム感覚で楽しく参加できるeスポーツと自宅メニューを組み合わせたプログラムで、軽度の認知機能障害を持つ方の認知機能の維持や改善を目指します。脳活っ塾の運営メンバーの一人、川北澄枝(医療ソーシャルワーカー)がその内容をご紹介します。
それ行け!三重大学病院。それ行け!脳活っ塾。脳と心の元気をサポートするために。

基幹型認知症疾患医療センター
医療ソーシャルワーカー 川北 澄枝

認知症センターが取り組む脳活プログラム

高齢者の5人に1人が認知症に

現在、日本では、高齢者の認知症者数は約600万人と推定され、2025年には高齢者の5人に1人に相当する約700万人に上ると予測されています。
さらに、まだ生活に支障があるほどにはない軽度認知障害(MCI)*の高齢者が現在約400万人いるといわれています。MCIは、認知症予備軍ではありますが、その全員が必ず認知症になってしまうわけではありません。
医療機関でMCIと診断された方のうち、5~15%程度の方が1年以内に認知症になる一方で、16~41%程度は健常な状態に戻ると報告されています。ここで重要なのが、早期からの適切な認知症予防の対策です。予防策が、健常な状態への回復や認知症への移行を遅らせると期待できるのです。

軽度認知障害(MCI)とは
もの忘れが見られるなど、認知機能が年齢に比較して低下しているものの、日常生活には支障がでるほどではない状態で、認知症の前段階とされる。

「脳活っ塾」スタート!

そこで、この秋、三重大学病院の認知症センターは、MCIからの脱出を応援する、週一の脳活プログラム「脳活っ塾」をスタートさせました。
脳活っ塾は、当院の「もの忘れ外来」を受診し、MCIと診断された方を対象に、楽しみながら、文字通り脳を元気に活性化させ、認知機能の維持や改善を目指すものです。

当院の認知症センターで認知症の診療や支援、研究を行う多様な専門家や外部の専門機関が組み立てたプログラムは、「運動・口腔・栄養」と「eスポーツ」をテーマにした6か月・全25講座となっています。

eスポーツで“楽しむ”を大切に

eスポーツとは、ビデオゲームやオンラインゲームを活用した対戦競技です。コントローラーを使って、ゲームの中の車を操作しドライビングを競ったり、リアルな太鼓を演奏して腕を競ったりします。普通のスポーツとは違って、体力を競うものではないため、シニアでも気軽に参加することができます。

このeスポーツを“楽しみながら”実施することで、脳の血流が促進され、脳の活性化につながり、認知機能(理解・判断・記憶など)の維持や改善に効果があると報告されています。
脳活っ塾のプログラムは、三重県eスポーツ連合にご協力をいただきながら進めています。 

6か月間、週一回の25講座。途中からの参加も受け付けています。

毎日に取り入れる体調管理も脳活っ塾

生活習慣が原因となって引き起こされる生活習慣病が、認知症と深くかかわっており、日常的な運動(週3回・週2時間以上)や口腔をきれいに保つ習慣、またバランスのよい栄養を摂ることなども認知機能の低下を防止する上で重要です。
実際に、糖尿病の方は、血糖値が正常な方よりも2.1倍アルツハイマー型認知症になりやすいというデータがあります。また、高血圧の方は、脳梗塞など、認知機能低下の原因となる脳血管障害の危険性も高くなります。

脳活っ塾では、週一回、eスポーツを中心とした会場でのプログラムに加え、ご自宅で血圧、脈拍測定、ウォーキングの歩数を毎日記録していただきます。また、自分で取り組めるストレッチ体操などをご紹介し、自宅で積極的に体を動かしていただくようにしています。 
運動プログラムは三重県作業療法士会のメンバーの方に、口腔と栄養プログラムは当院の言語聴覚士と管理栄養士に、それぞれご協力をいただき作成しました。

「楽しい」や「仲間」が続けるモチベーション

まずは、週1回の外出や社会参加のきっかけを持つということも張り合いにつながります。また、何かを続けるには、「楽しい」や「仲間」がモチベーションとなります。脳活っ塾でも、みんなでワイワイ言いながら、参加する楽しさを感じていただくことを大切にしています。
実際に、参加された方からは、「運動も一人では三日坊主になってしまうが、脳活っ塾では宿題が出されるのでがんばろうと思う」、「ゲームをするのは初めて。運転のゲームは、自分が参加するのも楽しいが、皆さんのゲームを見ているだけでも楽しい」といった声があがっています。

高齢化社会と認知症

ポジティブに考える

認知症は、加齢とともに発症のリスクが高まるため、高齢化社会においては誰もがなる可能性のある病気です。そんな中、高齢者が要介護状態になっても、住み慣れた地域で自分らしく安心して暮らしていけるような地域包括ケアシステムの構築も各地で進められています。
こうした社会システムもできつつあるので、認知症について強く不安を覚えたり、ネガティブなとらえ方をしたりするのではなく、「健康寿命」をのばせるような生活習慣にシフトする機会とボジティブにとらえていただきたいと考えています。そして、認知症と向き合うためには、まずは認知症を正しく理解することだと思います。

認知症予防・発見・ケア、地域ネットワークの構築

三重大学病院の認知症センターは、医師、看護師、医療ソーシャルワーカー、言語聴覚士、認知症連携パス推進員(院内外の橋渡しを担当)といった多職種が所属し、行政や医療機関、福祉施設などと連携をとりながら、認知症の予防、早期発見、治療、ケア、地域ネットワークの構築などに向けた活動を行っています。
中でも、認知症の早期発見・診断については、三重県医師会の協力を得て、認知症スクリーニングを実施するシステムを構築しています。
また、認知症と診断された場合の生活相談や介護相談に関わる相談窓口の開設、介護者支援の会の主催などを通じて、患者さんやご家族を継続的にサポートできるような活動も行っています。

1人で悩まない

認知症について、診断されたご本人も介護を行う周囲の方も様々な悩みを抱えやすいものです。でも、一人で悩まないでご相談ください。当院を含め、行政や地域の医療機関など、いろいろな相談窓口があります。
また同じ境遇にある人たちとお話することで、不安な気持ちや辛さを共有し、共感しあえる会も開催されています。自分だけではなかったと思える場所、気分少し気分が落ち着く場をぜひ見つけてください。

看護師や医療ソーシャルワーカーが対応しています。

認知症については、当院広報誌MEWS 29号「認知症」でも詳しく取り上げています。
合わせてご覧ください。

基幹型認知症疾患医療センター
医療ソーシャルワーカー
川北 澄枝

以前は、施設・在宅介護の現場や地域包括支援センターで社会福祉士として仕事をしてきましたので、この福祉現場での経験を認知症センターの相談業務に活かしていきたいです。
今年10月からスタートした「脳活っ塾」で拝見する参加者の皆さんの笑顔はとても素敵です!これはスタッフ皆のやりがいにもつながっています。患者さんや介護者の方が笑顔になれる時間が少しでももてるような空間を作っていきたいと思います。認知症センターの活動の一部は認知症センターのホームページに随時アップしていますのでご覧ください。

三重大学病院は、特定機能病院として、また地域医療の拠点として、三重県や近隣県の患者さんに安全で質の高い医療を提供するために、さらには、研究や人材育成を通じて日本のみならず世界の医療の発展に貢献するために、いろいろな活動に取り組んでいます。
「取り組み」のコーナーでは、こうした活動をピックアップしてご紹介しています。

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