ピアサポーター 生川晴美さん
三重大学病院のリボンズハウスのプログラムには、がん患者さんのピアサポートを行うピアサポーター*が、ボランティアとして参加してくださっているものがいくつかあります。
ピアは「仲間」「同じ立場」、サポートは「ささえる」「寄り添う」の意。ピアサポーターは、自身のがん治療や療養生活の経験をもとに、がん患者さんやご家族の悩みや不安に寄り添い、支え合う活動をしています。
今回のVOICEは、リボンズハウスの『なごみサロン』や『婦人科がんサロン』などで活動していただいているピアサポーター、生川晴美さんです。
*がんのピアサポーターとは:
自身のがんの治療体験での学びを活かし、がん患者さんの悩みや不安を傾聴し、ともに考えるのが主な役割です。同じ経験を持つ身近な相談役として、がん患者さんや医療機関からのニーズが高まっています。
ピアサポーター | |
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生川 晴美さん |
ピアサポーターとしての活動を始められたきっかけを教えてください。
私ががんになった時、リボンズハウスのイベントや患者会に参加し、他のがん患者さんに出会いました。彼らとは病気のことを素直に話せ、支えられたことを実感しました。
それからリボンズハウスや患者会と関わるようになり、私も同じ立場の方と支え合い、寄り添うことができたらと考えました。
また、患者会を支援してくださる医師に、日本癌治療学会でピアサポート活動や患者会活動について学ぶことを勧められたのも大きなきっかけです。
三重大学病院ではどのような活動をされていますか。
リボンズハウスで開かれている『なごみサロン』と『婦人科がんサロン』に参加しています。いずれも他のがん患者さんやピアサポーターとおしゃべりしたり、情報交換できるプログラムです。
仕事もあるので参加できないこともありますが、他のピアサポーターと連絡を取り合って、話したいと思っている患者さんが来てくださるのをお待ちしています。
“ピアサポーターだからこそできることや役割”をどんな風に考えていらっしゃるのでしょうか。
「あなたはがんです」と言われることは大きな衝撃です。人生の先が見えなくなる不安や何が始まるかわからない恐怖は、だれもが経験することだと思います。
同じ経験をしたから、気持ちを共有したり、体験に基づくアドバイスができたりすることがあるかもしれません。また、医療の場所ではないので、自分の気持ちを整理することやつらさを吐き出すことにゆっくり寄り添うことができます。
自分だけが社会から孤立しているような感覚から抜け出すお手伝いができたらと思います。「ひとりじゃないよ」って、お伝えすることが大切だと思っています。
他に、ピアサポーターとして活動するときに大切にしていることはありますか。
同じ病気と言っても、環境も症状も違います。自分がどうだったかに嘘をつかないことは大切ですが、それを必ず伝えなければならないとは思っていません。
来てくれた患者さんのお話をよく聞くこと、その人のつらさを和らげるにはどうしたらいいのかを一緒に考えることが大切だと思っています。
これまでの活動の中で、印象的なエピソードを何かご紹介いただけますか。
孤独感と不安がいっぱいで涙を流されていた方が、数年後、検査の受診時に、『なごみサロン』に顔を出してくれました。おしゃれをして、輝くような笑顔で言ってくださった「会いたかった」という言葉は、もう「不安だから一緒にいてほしい」という意味ではなく、「また人生を先に進みだした喜び」を伝えに来てくださったものだと感じました。嬉しいですね。
この記事に触れ、「私もピアサポーターとして活動したい」と思う方がいるかもしれません。ピアサポーターになるにはどうしたらいいのでしょうか。
自分も誰かを支えたいという気持ちがある方は、一度『なごみサロン』に参加いただくことをおすすめします。一緒にお話ししましょう。仲間が多い方が、今つらい時間を過ごされている患者さんの力になりやすいです。
医療行為に関する内容には踏み込まないこと。プライバシーを守ることなど、気をつける点はいくつかあります。三重県のがん相談支援センターで、ピアサポーター講習もあります。ウェブで受けられるものとしては、日本癌治療学会でがん医療ネットワークナビゲーター資格取得講座、また、NPO法人キャンサーネットジャパンなどで様々な学習の講座が設置されています。
生川さんご自身は、ピアサポーターだけでなく、さらに活動を広げていきたいと考えているそうですね。
日本癌治療学会が認定する「がん医療ネットワークシニアナビゲーター」の資格を2018年10月に取得しました。シニアナビゲーターは、「がん医療を受けるために必要な医療関連情報、生活支援情報等に関する適切な助言・提案・支援を行うに十分な知識と素養を修得した者」となっています。
今後は、この資格をいかして、がん患者さんをがん医療の適切・的確な医療情報につなげられるよう、活動の場を広げていければと思っています。
では最後に、ピアサポーターと話してみたい、相談してみたいと思っている患者さんへメッセージをお願いします。
三重大学病院1階のリボンズハウスの『なごみサロン』にぜひいらしてください。
治療に伴う小さな生活上の困りごとも、もしかしたら誰かが経験をしているかもしれません。言いたくないことは言わなくても大丈夫です。
また、心配をかけてしまうから周りに病気のことを話せないと感じた時、ここに来てお話ししてください。少しでも心の重荷をおろして、前向きに治療に取り組んでいただければと思っています。
ピアサポーター
生川 晴美さん
松阪市出身。好きな食べ物は、さくらんぼとりんごで、苦手な食べ物は、鯛でんぶと杏仁豆腐。ポップスにロック、ブルースたまにはクラシック、音楽はなんでも聞きます。テイラースウィフト、P!NKはジムで走るとき、ハンバートハンバートはボーっとするときに。最近買ったアルバムは、グリムスパンキーと宇多田ヒカルのベスト。たまにウクレレを弾きます。
休日は川下りか山登り、雨が降ったら映画か読書、またはスパイスカレーつくり。絵本が好きで、蔵書は1000冊以上となりました。
今年の春、一人旅をして、ニュージーランドの世界遺産の中にある山を歩いて来ました。病気の後、これほど長く家族から離れたのは初めてな上、抗がん剤の副作用による痺れで、普段から階段を下りるのが苦手なので、夫は心配で仕方なかったと思いますが、思い切って行ってよかったです。美しい景色と可愛い鳥たちの声に癒され、どこまでも歩いて行きたくなりました。
「自分のしたいことを実現するのは自分」。病気をしてから常にこのことを意識して行動するようになりました。旅行も生き方も、次に何をしようか考えている時間がとても好きです。この夏は北アルプスの山に挑戦します。今、体力づくりのズンバにはまってます。
医療スタッフや事務職員、外部委託のスタッフを含め、三重大学病院の日々の運営に携わるのは、総勢約2500人。表から、裏から様々な形で関わるその一人ひとりの力や想いが、平常通りの診療を支えています。
安全な診療、優れた診療、質の高い診療、いずれも技術や設備だけでは成し遂げられません。
VOICEのコーナーでは、いろいろなスタッフの声を通して、三重大学病院の診療に欠かせない「人」としての側面をお伝えします。