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令和7年度 津市総合防災訓練への参加 ─三重大学病院DMAT隊・医療救護班

近年、「南海トラフ地震」という言葉をよく耳にしますが、日頃から強い危機感を持っている方は多くはないかもしれません。
南海トラフを震源とする大地震は、約100〜150年の間隔で繰り返し発生しており、前回(1946年)からすでに80年が経過しようとしています。政府の地震調査委員会によると、今後30年以内の発生確率は、計算方法により幅がありますが60~90%程度以上もしくは20~50%と見積もられており(令和7年9月26日発表)、いつ発生してもおかしくない状況だと言えます。

政府の南海トラフ巨大地震・被害想定手法検討会によると、最大クラスの南海トラフ地震が発生した場合、津市では最大震度7、地震発生から約57分後に津波が到達し、最大津波高は6mに達すると予想されています(令和7年3月31日発表)。

こうした南海トラフ地震に備えるため、津市では、行政、防災関係機関、そして市民が参加する「津市総合防災訓練」が毎年行われています。

「医療と防災」の32回目では、令和7年度の津市総合防災訓練における三重大学医学部附属病院の院外支援活動についてご報告します。

津市総合防災訓練の概要

今年度の「津市総合防災訓練」は、令和7年11月23日(日)、津市の香良洲高台防災公園にて実施されました。

香良洲地区は海と河川に囲まれ、津波発生時の甚大な浸水被害が懸念される地域の1つです。ここを会場に、「午前8時00分に南海トラフを震源とするマグニチュード9.0(最大震度7)の巨大地震が発生し、伊勢湾・三河湾予報区に大津波警報が発表された」という想定で訓練が行われました。

当院からは、DMAT隊および医療救護班が災害医療支援の訓練に参加しました。

訓練の概要

1部(8-9時)地域住民の避難訓練、避難行動要支援者の避難訓練
2部(9-11時)避難者受入訓練、救護訓練、搬送訓練
三重県警察、津市消防本部、陸上自衛隊久居、航空自衛隊白山、三重大学病院、日赤三重県支部、三重中央医療センターなど30機関以上が参加
・各種体験
・防災啓発
津市社会福祉協議会、防災コーディネーター津ブロック、中部電力三重支社、津地方気象台、津市水道局など20機関以上が参加

三重大学DMAT隊(倒壊ビル救助・救命・搬送訓練)

三重大学DMAT隊として、医師1名、看護師1名、業務調整員(薬剤師)1名が参加し、倒壊ビル現場において津市消防と合同で救助・救命活動を行いました。

訓練は、まず津市消防が倒壊建物内から傷病者を救出し、その後DMAT隊が駆け付け、初期治療・救命処置を行うという流れで進められました。さらに、傷病者をドクターヘリで三重大学病院へ緊急搬送するという想定の下、DMAT隊はヘリポートにて患者の引き継ぎを行い、円滑な搬送に向けて連携を図りました。

今回の訓練で設定された傷病者は、倒壊ビルの構造物により両下肢が長時間圧迫され、激しい疼痛、血流・感覚障害、血圧低下や頻脈を認める挫滅症候群(クラッシュ症候群)の状態という想定でした。災害時には、こうした病態に対し、迅速な判断と適切な処置が極めて重要とされています。

挫滅症候群(クラッシュ症候群):地震で建物の下敷きになるなど、手足が長い時間強く圧迫されると、血流が戻ったときに体の中に有害な物質が一気に広がり、急激な血圧低下や心臓の異常、腎臓の障害を引き起こすことがあります。命に関わる危険な状態となるため、救助後は早急な医療処置が必要です。

参加者コメント

「津市総合防災訓練にDMAT隊として参加し、搬送任務で情報伝達の難しさを実感しました。とても良い経験で大きな学びとなり、今後も経験を重ねて院内の災害対策に関わっていきたいです。」

(業務調整員/薬剤師)

三重大学DMAT隊
下敷きになった模擬傷病者(人形)

医療救護班(一時避難所における災害医療救護訓練)

医療救護班としては、医師1名(外科医)と看護師2名が参加し、一時避難所に設置された医療救護所で、医療を必要とする住民への支援訓練を行いました。

訓練では、実際に9名の住民の方々にご協力いただき、傷病者が救護所に来院する想定で、問診・診察・処置を実施しました。

傷病者の設定は、地震の揺れによる熱湯の飛散による熱傷、避難行動中の転倒による裂傷、ストレスに伴う胃痛、パニック症候群、インフルエンザなど、多様な症状が含まれていました。災害の急性期には、外傷だけでなく強いストレス反応による身体的・精神的な不調や、避難所での感染症が問題となることがあります。

発災後の時間経過とともに医療ニーズは大きく変化するため、救護所で対応する医療者にとって、災害のフェーズごとに想定される疾患や健康問題を理解しながら診療を行うことが非常に重要です。

参加者コメント

「今回、津市防災訓練に参加させていただき、有事の際に限られた物品やスタッフで患者さんに対応することの難しさを身をもって体験する事ができました。今後、病棟で働きながらも災害時には何ができるかを考えていきたいです。」

(看護師/病棟 危機管理リンクナース)

「“いつ起きてもおかしくない”という南海トラフ地震ですが、今回の訓練を通じて、その危機をより身近に感じることができました。実際に訓練を経験すると、想像以上に情報が錯綜し、時間や人手が不足することを痛感しました。この経験をもとにシミュレーションを重ね、マニュアル作成にも活かしていきたいと思います。」

(看護師/災害対策推進・教育センター)

医療救護班
傷病者の処置
医師による応急手当レクチャー

災害カルテ

災害現場では電子カルテが使用できないことがあり、「災害診療記録」という紙カルテを用いることがあります。

この様式は、東日本大震災の教訓をもとに日本医師会や日本災害医学会などで構成される「災害時の診療録のあり方に関する合同委員会」によって作成されたものです。統一された様式を使用することで、災害時にすべての医療チームが共通の記録を用いることができ、チーム間や地域医療への情報引継ぎが効率化され、継続的な医療提供につながります。

今回の訓練でも災害診療記録を使用しましたが、日頃は病院内の電子カルテに慣れていることもあり、診療や処置と並行して紙カルテへ記録する難しさを改めて実感しました。同時に、災害時における紙カルテ運用の実際を具体的にイメージする良い機会となりました。

災害診療記録 (「災害時の診療録のあり方に関する合同委員会」)

今回、三重大学病院は、DMAT隊と医療救護班という異なった医療班として2チームが参加しました。地域の皆さまの命を守るため、今回の訓練で得た知見を今後の災害対応に活かすとともに、地域との連携をさらに深めていきたいと思います。

災害対策推進・教育センター担当:[舞野]

三重大学病院は、万が一の災害時に地域の救急医療を担う「災害拠点病院」に指定されています。
災害発生時に、災害による負傷者への対応だけでなく、入院患者さんの医療を継続するという複数かつ重要な役割を適切に実行できるよう、当院では平時から様々な取り組みと準備を行っています。
Online MEWS「医療と防災」では、当院の防災対策やみなさんに役立てていただける防災のヒントをお伝えしています。

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