救命救急センター 新センター長
津市を中心とした地域の三次救急(重篤・特殊疾病の患者さんに対する救命救急)を担うとともに、ドクターヘリの運用を通じて、県内全域の救急医療にも携わる三重大学病院の救命救急・総合集中治療センター。秒単位で命に向かうその現場に、この6月、新しいセンター長が就任しました。
救命救急を「野球で言うと、ランナーを背負った状況でいきなり診療が始まるようなもの」と例えながらも、一番大切なのは「普通であること」と話す新センター長の想いとは。
それ行け!三重大学病院。それ行け!鈴木救命救急・総合集中治療センター長。チームの力で患者さんの鼓動を明日につなげるために。
救命救急・総合集中治療センター | |
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センター長・教授 | 鈴木 圭 |
まずは、救命救急・総合集中治療センター長就任に際しての抱負を聞かせてください。
三重大学病院の重要な中央部門の責任者に指名され、期待感とともに身の引き締まる思いでいます。やりたいことや成し遂げないといけないことは山積ですが、1)大学病院として最先端の医療を提供すること、2)地域の医療を守っていくこと、3)仲間を育成し、その人材を燃え尽きさせないこと、の3つを基本理念として、診療科の発展と、さらなる高みを目指していきたいと考えています。
これまで、救命救急とはどのように関わってきたのですか。
私は、感染症内科や内科の分野で約10年研鑽を積んでから、救急・集中治療医としてのキャリアをスタートさせ、長年、救急医療に関わってきました。
救急医療は、内科はもちろん、他の診療科とは少し違うように見えます。
私が経験してきた内科から見ると、救命救急は時間軸が違います。
一般内科はじっくり考える、あるいは、他の医師に相談しながら最善の手を考えることができます。しかし、救急は持ち時間の切れた早指し将棋のような感覚です。サッカーで言うと、失点リスクの高いバイタルエリアに攻め込まれた状況、野球で言うと、ランナーを背負った状況でいきなり診療が始まるイメージです。
しかしながら、逆にそこにこそ、飽くなき挑戦と感動が生まれると思っています。大変な現場ですが、瀕死だった患者さんが元気になって集中治療室から出て行く姿を見ると、また、がんばろうという活力が湧いてきます。
そんな救命救急は最近も人気ドラマで描かれ、憧れる未来の医師もいると思います。その領域の専門医に特に必要なスキルは何だと考えていますか。
よく同じ質問を受けるのですが、救急・集中治療医になるのに、特別必要な心構えもスキルも必要ありません。それらは一緒に仕事をしていけば、程度の差こそあれ自然と身についてきます。
技術、経験、知識、いずれも医師にとって大切なものですが、救命救急をしていくうえで私が一番大切だと考えていることは、「普通であること」です。
私が内科医だったときの上司は、「普通であること」をモットーにしていました。センター長になって少し時間がたった今、その意味がなんとなくわかってきました。
ちょっと意外な答えでした。
救急・集中治療領域では、特にチーム医療が不可欠です。ドラマに出てくるようなとんでもないスーパースターが一人いるよりも、コミュニケーション能力が高く、何事にも柔軟に対応できる医師が複数いる方が総合力としては高くなります。
医師としてのスキル、つまり技術力を磨き続けることはもちろんですが、それ以上に、それぞれが人柄を磨き、人脈を構築していくことが、緊急性の高い現場でのチーム医療の底力になると感じます。
それが、目指すチーム像でもあるのですか。
そうですね。当院の救命救急・総合集中治療センターは、様々な専門性を有する医療スタッフが、一つの診療単位としての「救急科」を構成しているという特徴があります。
よって、医師だけではなく、看護師や薬剤師、技師などあらゆる職種が、それぞれの専門性を発揮し合いながら、その総合力としての効果が最大限に活かされるようなチームを作っていきたいと考えています。
満塁でランナーを背負う場面からの逆転には、各プレイヤーの守備をつなげたチームとしての360度守備が欠かせないという感じですね。
当センターは、様々な専門領域を持った救急医の力を結集した体制をとっているので、まさにチームとしての守備範囲は非常に広いわけです。だからこそ、救急初療室から集中治療までをシームレスに行う「集中治療型救命救急」を実践することができています。そして、そこに救急医を目指すやりがいも出てくると思っています。
ドクターカーやドクターヘリ、ハイブリッドワークステーションなど、待っていては助けられない命に立ち向かうハードも充実してきました。幅広い専門性を併せ持った大学病院だからこそできる救命救急が、私たちのセンターにはあると確信しています。
救命災害医学の教授にも就任し、研究や人材育成といった面での任務も大きくなりました。
研究の構想はまだ始まったばかりですが、教室の目標として、世界レベルの救急医学や集中治療医学の専門家を養成するとともに、三重県全体の救急集中治療医学のレベルの底上げや革新的な医療体制の構築につながる研究を進めていきたいと考えています。
また、救急や集中治療というと、多発外傷や心筋梗塞、脳卒中といった疾患に注目が集まりがちですが、実は集中治療室での死因の第一位は感染症(敗血症)とされ、感染症対応が非常に重要です。感染症を専門とする救急・集中治療医は不足していますので、感染症内科の経験を生かしつつ、その育成にも取り組みます。
救命災害学は、救急・集中治療の診療だけはなく、病院前救護から、メディカルコントロール、災害対策、そのネットワーク構築まで多岐にわたります。臨床だけでなく、研究や人材育成においても実際の医療現場への還元を目標にしていきたいと思っています。
救命救急・総合集中治療センター
センター長・教授 鈴木 圭
座右の銘は「感動と挑戦」です。絶体絶命と思われた患者さんが集中治療室から退室し、さらに一般病棟での療養を経て退院するときに、「私、歩けるようになりました」と集中治療室を訪問して下さることがあります。そのようなときに、言いようのない感動と、命の最前線で仕事をしているという責任感と充実感、そして次への挑戦が生まれてきます。これからは、一緒に夢を見ることができる次世代を担う救急・集中治療医を大切に育成し、ともに成長していきたいと思っています。
下記の動画では、三重大学病院 救命救急・総合集中治療センターの取り組みをご紹介しています。(患者さんを含め実際の症例を撮影したものではありません。)
医療スタッフや事務職員、外部委託のスタッフを含め、三重大学病院の日々の運営に携わるのは、総勢約2500人。表から、裏から様々な形で関わるその一人ひとりの力や想いが、平常通りの診療を支えています。
安全な診療、優れた診療、質の高い診療、いずれも技術や設備だけでは成し遂げられません。
VOICEのコーナーでは、いろいろなスタッフの声を通して、三重大学病院の診療に欠かせない「人」としての側面をお伝えします。