医療と防災イメージ

多数傷病者受入訓練

大型災害が発災した際、災害拠点病院である当院は、発災による混乱の中でも、病院としての機能を適切に維持することが求められます。
日常とはかけ離れた状況下で診察や治療を行う場合にも、全スタッフが適切に動けるように、心構えを含めた日頃からの備えが非常に重要になります。
その備えの一つとして、9月23日(土)、当院にて、大型地震被害による多数の傷病者の受け入れを想定した訓練が行われました。当院の医療従事者・病院職員だけでなく、消防署や近隣自治会の方々にもご参加いただき、参加者約300名という大きな規模のものとなりました。
今回の「医療と防災」では、この多数傷病者受入訓練についてご報告します。

「災害対策本部」の立ち上げ

災害発生時には、災害状況を適切に把握し、その先を予測しながら、どう対応していくかの大きな方針を決定する中心的な組織が必要です。その役割を担うのが、「災害対策本部」です。
災害対策本部は、飛び交う多くの情報の中から正しい情報を収集し、整理する「情報管理機能」、対応方針を決定したり、院内の必要な部門やスタッフ、時には外部の関係機関との連携を進め、病院機能を維持するためのリソースの確保や指示を行う「マネジメント機能」など、コントロールタワーとしての重要な機能を果たします。

今回は、当センターで作成した災害対策マニュアルに沿って、地震発生後ただちに災害対策本部を立ち上げ、病院の方向性を決定し、病院全体の統率がとれるように訓練を行いました。

地震が発生したことが伝わると、災害対策本部の本部長を務める池田院長をはじめ、メンバーが集合し、地震の規模や当院の被害状況などを踏まえて、多数傷病者の受け入れを決定しました。
当院のような災害拠点病院では、万が一、災害が発生し、多数傷病者受け入れを行う際には、通常の外来患者数の5倍程度が短時間のうちに来院すると想定しています。当院の通常の外来患者数は、1日約1,500人なので、単純に計算すると7,500人となります。そうした状況を念頭において、どのように限りあるリソースを活用し、どう対応に当たるのかを適切に判断していく必要があります。

災害状況に関する情報の分析を基に検討を行い、多数傷病者受け入れを決定

その他にも、院内・院外の情報収集や各所との連携などを想定して訓練を行うことで、参加者それぞれが、災害発生時に果たす役割について理解を深めました。

各班から集まった情報の整理・共有を行う様子

各エリアの訓練

災害時には、多数傷病者受け入れに対応するため、診療や患者さんの待機場所となる臨時的なスペースを確保する必要があります。このスペースを「エリア」と呼びます。
エリア訓練では、エリアの設置から始まり、搬送されてきた傷病者にトリアージを実施して、「緑エリア」「黄エリア」「赤エリア」「黒エリア」で治療や対応を行う訓練を行いました。

病院に搬送されてきた傷病者には、まずトリアージエリアの入り口となる「トリアージポスト」で、患者さんの右手にトリアージタッグを装着します。そのまま、医師や看護師が、30秒という短い時間で素早くトリアージを行っていきます。

トリアージタッグの色の分類

各エリアでは、トリアージに基づき送られてきた多数の疾病者の対応を行い、改めて手順や機器の手配を確認しました。また、脈や呼吸がなく救命の可能性が低い人を受け入れる黒エリアでは、患者さんやご家族への対応やメンタルケアのあり方などについて検討しました。

トリアージ訓練の様子
緑エリア:腕を骨折した人や打撲の人など、軽傷者の手当てを迅速に行う訓練
黄エリア:治療エリアへの搬送
赤エリア:大量出血、意識がない人など、緊急性の高い傷病者の治療を行う訓練
処置室内:医師や看護師が連携し、検査の必要性の有無に応じて手配を行う訓練

訓練にはいろいろな目的がありますが、「課題の抽出」と「改善の実施」もその一部です。
今回は、訓練を2部制とし、第1部終了時点で振り返りの時間を設けて、反省点や課題について話し合い、その後、第2部として訓練を改めて実施しました。
どの部署も、第1部でエリア全体の流れや自分の役割を理解し、課題を確認できたことで、第2部では対応のスピードが格段に上がり、チームとしての動きもスムーズになりました。

近隣自治会からの訓練参加

地域全体に被害が広がる可能性のある災害時には、医療においても近隣住民の方々との協力は欠かせないものとなります。
そこで今回の訓練には、当院の近隣の自治会の皆さまにも参加いただき、見学にとどまらず、疾病者を担架付きリヤカーで搬送するなどの訓練も体験していただきました。
訓練終了後、ご参加者からは、「実にリアルな訓練であり、貴重な体験になった」、「病院全体で真剣に訓練に取り組む姿を見ることができてよかった」といった感想をお聞きしました。
自治会の皆さまと共に防災訓練を行うことは、当院にとっても災害時の地域連携について考える貴重な機会です。またこうした共同訓練の場を作り、近隣地域の皆さまに災害拠点病院としての当院の役割をご理解いただくとともに、一緒に災害に強い地域を作っていければと考えています。

地域の力を感じた、自治会の皆さまによる傷病者の担架付リヤカー搬送訓練。

災害対策推進・教育センター 担当:[はるか・しおり]

三重大学病院は、万が一の災害時に地域の救急医療を担う「災害拠点病院」に指定されています。
災害発生時に、災害による負傷者への対応だけでなく、入院患者さんの医療を継続するという複数かつ重要な役割を適切に実行できるよう、当院では平時から様々な取り組みと準備を行っています。
Online MEWS「医療と防災」では、当院の防災対策やみなさんに役立てていただける防災のヒントをお伝えしています。

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