多数傷病者受入訓練における外国人患者への対応
災害拠点病院である当院は、どんなときにも医療体制を継続できるよう災害対策の導入および運用に力を入れ、防災訓練を定期的に実施しています。
その備えの一つとして、9月28日(土)、当院にて、震度6強の地震により多数の傷病者が搬入された場合を想定した大規模災害対応訓練が行われました。当院の医療従事者・病院職員だけでなく、消防署や警察、近隣自治会の方々など約380名もの方に参加いただきました。
大規模災害訓練は毎年を行っていますが、今年度の新たな取り組みとして、日本語を母国語としない方々への対応についての訓練を取り入れました。外国人ボランティアの方に傷病者役として参加いただき、災害時における当院の医療通訳士の動きや通訳機器の活用などを確認しました。
今回の「医療と防災」では、この多数傷病者受入訓練における外国人患者への対応についてご報告します。
外国人患者への対応の必要性
三重県環境生活部の外国人住民国籍・地域別人口調査(令和5年12月31日現在)によると、外国人住民数は約6万人(62,561人)であり、県内総人口に占める割合は3.56%となっています。また、外国人住民の数は津市(10,339人)が四日市(11,983人)に続いて2番目に多く、前年比で9.5%も増加しています。
また、災害時には、このような外国人住民の方に加え、外国人観光者の方も搬送されることが考えられます。
災害時、搬送されてきた患者は、平時の患者さんのように事前に情報があるわけではありません。適切な処置や治療を行うためには、客観的な情報だけでなく、「どういった症状があるのか、どういった経緯で搬送されてきたか」といった傷病者本人からの情報も重要となります。したがって、言葉が通じない外国人患者であったとしても、“コミュニケーションを取る”ということが不可欠です。
医療通訳士との連携
当院には、ポルトガル語担当が2名、スペイン語担当が1名の計3名の医療通訳士が勤務しています。医療通訳士は、日常診療では、外来・入院時の通訳全般、窓口対応、支払い相談、翻訳、多職種連携を担当し、年間4,658件の対応実績があります(令和5年度)。
訓練では、外国人ボランティアの患者役に、医療者の「足は動かせますか」などの問いかけを訳したり、症状を聞いて医療者に伝えたりしていました。
訓練終了後、参加した医療通訳士からは、「1人の外国人患者に関わる拘束時間が長く、実際には、対応ができない患者も出てくるのではないかと危機感を感じた」、「地域に住む日本語を話すことができる外国籍の方と連携することも良いのではないかと思った」といった感想を聞きしました。
(写真左:向かって左側がスペイン語医療通訳士 写真右:中央に立つのがポルトガル語医療通訳士)
医療機関向けコミュニケーション支援サービス(MELON)
今回の訓練において、現場で対応できない言語については、医療機関向けコミュニケーション支援サービス(MELON)を活用しました。MELONは外国人との会話をサポートする通訳機器で、医療用語にも対応したチャット形式の「機械通訳機能」と、通訳者と直接通話できる「医療通訳機能」が搭載されています。
当院では、現在3台を運用しており、日頃の診療でも外国人患者さんとの円滑なコミュニケーションに繋がっています。
外国人ボランティアの参加
今回の訓練では、患者役として、スペイン語、ポルトガル語、インドネシア語、ベトナム語を母国語とする外国人ボランティアの方6名に参加していただきました。訓練の中では、日本語を話せない設定とし、それぞれの参加者が母国語で症状や経緯などを医療者に伝えていただきました。
参加された外国人ボランティアの方からは、「貴重な経験ができた」、「医療通訳士のおかげで意思疎通ができた」といった感想をお聞きしました。
また、参加した職員からも「外国人への災害時の対応を経験できてとても学びになった」という声をいただきました。
今回の学びや見出された課題について振り返りを行い、今後の訓練やマニュアル作りに繋げていきたいと思っております。
また、この訓練は、下記を含む複数の報道機関に取材していただきました↓
三重テレビ:
https://news.yahoo.co.jp/articles/f9ebd29b304a3eb80a9d178b2797a00bc7aa213d
毎日新聞 :
https://mainichi.jp/articles/20241001/ddl/k24/040/111000c
災害対策・教育センター 担当:[な]
三重大学病院は、万が一の災害時に地域の救急医療を担う「災害拠点病院」に指定されています。
災害発生時に、災害による負傷者への対応だけでなく、入院患者さんの医療を継続するという複数かつ重要な役割を適切に実行できるよう、当院では平時から様々な取り組みと準備を行っています。
Online MEWS「医療と防災」では、当院の防災対策やみなさんに役立てていただける防災のヒントをお伝えしています。