VOICE

佐久間 新病院長

4月1日、2025年度の始まりとともに、三重大学病院にも大きな変化がありました。それは、任期を終えた池田前病院長に代わり、佐久間病院長が就任、新しい体制が始まったことです。社会の変化や医療技術の進化への対応など、大学病院も日々アップデートし続けることが欠かせない時代。今回のVOICEは、三重県の医療の砦としての三重大学病院の舵取りをどう行っていくのか、佐久間新病院長へのインタビューです。
それ行け!三重大学病院。それ行け!佐久間病院長。県内唯一の特定機能病院として、患者さんに安全安心で高水準な医療を提供し続けるために。

病院長 佐久間 肇

院長就任からまもなく一ヶ月が経ちます。この間の正直なお気持ちは。

これまで通算8年間、研究・経営・診療といった領域を担当する副病院長職に就きながら附属病院の運営に参加し、2024年からは、三重大学理事として大学全体の視点から附属病院の経営に関わってきました。

附属病院が置かれている状況については詳しく把握できる立場にありましたので、今回病院長という重責を担うことになって日々身の引き締まる思いです。

重責を感じる裏には、大きな抱負もあるのではないでしょうか。

三重大学医学部附属病院は、県内唯一の特定機能病院として、高度な医療を安全に提供し、三重県における「医療の砦」としての役割を果たしています。

そんな中、現在、社会情勢はデフレからインフレへの転換が進み、物価や人件費などが大きく上昇しています。一方、病院の収入である診療報酬には物価などの上昇が反映されていないため、医療機関の経営は公立・公的・一般病院を問わず非常に厳しくなっています。

また、今後10年間の三重県の推計人口をみると、伊賀区域や松阪区域以南では総人口が9~20%減少するだけでなく、医療需要の高い65歳以上人口も減少します。一方、津地域では65歳以上人口はほぼ横ばいで、北勢医療圏ではやや増加すると予測されています。

当院が人口減少時代にも特定機能病院として中長期的に発展し、私たちの理念に直結する「安全で質の高い先進的な医療」、「人間性豊かな医療人材の育成」、「医学研究の推進」、「地域医療への貢献」の使命を果たしていくためには、安定した病院経営がどうしても必要で、その達成が病院長としての”抱負“ということになりますね。

地域の「医療の砦」であり続けるために、診療面ではどのような進化を目指していきますか。

がん診療についてお話すると、高齢化に伴って、循環器疾患や脳神経疾患、糖尿病、腎疾患を合併するがん患者が増加しており、がん診療専門の診療科だけでなく、病院全体の診療科を含めた総合的な能力が求められています。

その一つとして、当院は高度のがん診療を提供できる「がんセンター」としての機能を拡充し、高齢人口が増加傾向にある北勢地域をはじめ、三重県の皆さんのニーズにもっと応えていく必要があります。

また、県民の皆さんが遠方の医療機関に出向かなくても、国内最先端の医療が受けられように、当院では先端的な医療機器の整備も進めています。

ロボット支援下手術では、現在、ダビンチ3台体制でがんの種類に応じた最適な手術を提供しています。そのうち一台は、さらに低侵襲で深部の手術が可能な「ダビンチSP」で、これを導入しているのは、現時点で国内国立大学病院では当院のみです。

放射線治療では、IMRT(強度変調放射線治療)1の実施件数が国内国立大学病院で1位となっており、3次元的に動きながら多方向からX線を照射できる新世代の放射線治療装置「OXRAY」や、AIによる即時適応放射線治療が可能な「ETHOS Therapy HyperSight」などの導入も進めているところです。

  1. IMRT:多方面から放射線照射を行うことができるため、複雑な形状の腫瘍であっても治療効果が高く、正常細胞へのダメージ低減が期待できる。
  2. AIによる即時適応放射線治療:胸部・腹部・骨盤部などにおける呼吸などで動く腫瘍を内蔵の高画質CTで捉え、変化する腫瘍や正常組織の位置に合わせてAIが即時に作り直す治療計画に基づき毎回照射することで、腫瘍に対する治療効果を高め、正常組織への副作用を軽減できる先端技術。

県内の医療ニーズに応えていく体制強化が進んでいるのですね。

三重県の医療体制を考えたとき、医師の地域偏在や診療科偏在の問題に対する取り組みも三重大学が果たすべき地域貢献の最重要項目の一つです。

特定機能病院の中でも、特に大学の附属病院に対しては、医師派遣を通じて地域医療を支える機能がますます重視されるようになってきます。県内の関係医療機関や三重県・市町村、医師会などと連携して、地域医療の課題解決にも取り組んでいきたいと考えています。

池田前病院長からは、新病院長へのエールとして、病院経営の最適化や医療DXの推進などに触れたコメントが届いていました。

病院の健全な経営体制があってこそ、「医療の砦」として質の高い医療を提供し続けることが可能です。

池田病院長のもと、麻酔・手術体制はコロナ前の状態に回復し、手術件数は過去最高となっています。今のところ2期連続の赤字決算が予想されていますが、令和6年度の当院の収支はかなり改善し、42国立大学附属病院の中では比較的上位に位置しています。

こうした流れを止めることなく、適正化に向けた様々な施策を進め、できるだけ早期に黒字化を達成したいと考えています。

また、三重大学では、地域共創の重点項目として「三重医療DXプロジェクト」を実施しており、国立大学病院の中で最も早く電子処方箋を導入し、PHR(パーソナルヘルスレコード:個人の医療や健康に関する情報)の活用を推進するなど、医療DXに積極的に取り組んでいます。

人口減少が進む中で、三重県全体の医療を維持・発展させるためには、医療DXの活用が不可欠です。今後も県全体の医療DXの展開を推進してまいりますので、よろしくお願いいたします。

では、新院長から患者さんへのメッセージをお願いします。

当院には毎日たくさんの外来患者さんが来院されていますが、朝の道路の渋滞、受付や会計の待ち時間など、まだまだ改善する点が多いと考えています。その一つとして、PHRによるカード払いも導入しており、登録をしていただくと、会計を待つことなくお帰りいただけますので、ぜひご利用ください。

その他にも、現在、スマホによる外来受付などの導入も検討しており、DXの活用を通じて、病院での待ち時間短縮をはじめ、患者さんが少しでも快適に病院で過ごすことができるよう努めてまいります。

そして、医療を取り巻く環境は急速に変化していますが、何よりも県民の皆様の期待にわれわれ附属病院がしっかりと応えて、安全安心かつ高水準の医療を提供するために、教職員一同がんばっておりますので、皆様のご支援とご協力をどうかよろしくお願い申し上げます。

病院長
佐久間 肇

伊勢赤十字病院の前身である山田赤十字病院で生まれ、幼稚園から大学まで津で育ちました。学生時代は海外へのあこがれは強くはありませんでしたが、結果的にサンフランシスコ(University of California San Francisco)に4年半滞在し、海外の友人がものすごく増えました。
趣味は旅行で、『月間エアライン』を毎月読んでいます。好物はイカやヒラメ、牛肉ハラミ、生グレープフルーツハイ。苦手な食べ物はねぎと玉ねぎです。休日の楽しみの一つは、スーパーやショッピングセンターに出かけること。
小6の時に父が胃がんで亡くなる前、塩浜病院(現在の県立総合医療センター)でお世話になった外科医がかっこよかったというのが医師を目指したきっかけです。学生時代は循環器に興味を持ち、心臓の新しいイメージングの研究を自由にできると思い放射線科医を目指しました。
座右の銘はないですが、“出る杭は打ってはいけない”と考えて後輩に接してきました。

医療スタッフや事務職員、外部委託のスタッフを含め、三重大学病院の日々の運営に携わるのは、総勢約2500人。表から、裏から様々な形で関わるその一人ひとりの力や想いが、平常通りの診療を支えています。
安全な診療、優れた診療、質の高い診療、いずれも技術や設備だけでは成し遂げられません。
VOICEのコーナーでは、いろいろなスタッフの声を通して、三重大学病院の診療に欠かせない「人」としての側面をお伝えします。

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