取り組み

病院間の連携チームによる三重県の周産期医療

三重大学病院のチーム医療は、院内のみで行われるものばかりではありません。地域全体の医療の質を高めるために、他の医療機関と連携し、三重県という大きな枠組みの中で進めることもあります。その一つが、周産期医療です。
かつて三重県には、周産期の赤ちゃんの死亡率が比較的高い時代がありました。しかし、地域連携を地道に進めたこのチーム医療により、2019年に「お産が最も安全な県」となりました。
当院の玉石産科病棟医長が、そのチーム医療についてご紹介します。
それ行け!三重大学病院。それ行け!三重県の周産期医療チーム。おかあさんとあかちゃんの命を守るために。

産科婦人科

助教・産科病棟医長玉石雄也

周産期とは

「周産期」とは、妊娠22週から、分娩をはさんでその後7日未満までの期間を言います。
周産期は、おかあさんが合併症を起こしやすくなったり、あかちゃんにとっても大変な仕事となる分娩があったりと、産前産後のうち、母子ともに生命に関わるリスクが最も高くなる時期です。

そして、この周産期の母子に対する医療を、特に「周産期医療」と呼びます。

周産期医療で地域連携が大切な理由

周産期のリスクには、地域の産科クリニックで対応できるものもあれば、大学病院にあるような周産期母子医療センターで対応すべきものもあります。

おかあさんやあかちゃんの状態に応じて、必要があれば地域内で周産期医療の移行がスムーズに行われる必要があります。そのためには、地域の医療機関が普段から密に連携し、いつでも相談しやすい環境を整備しておくことが大切です。

8つの医療機関による三重県周産期医療チーム

三重県では、現在8つの医療機関がチームを組み、こうした地域の周産期医療体制を構築しています。

チームに参加するのは、高度な周産期医療に特化した「周産期母子医療センター」のある三重大学病院、桑名市総合医療センター、市立四日市病院、三重県立総合医療センター、三重中央医療センター、伊勢赤十字病院に加えて、ヨナハ丘の上病院、済生会松阪総合病院で、医師数にすると総勢約80名です。

この8つの医療機関がシームレスにつながった一つの“周産期医療チーム”のようになっていて、平日は毎朝、各機関をつなげたテレビ会議システムでカンファレンスを行っています。

このカンファレンスでは、産科だけでなく、婦人科腫瘍、生殖・内分泌など、女性医学に関わる幅広いテーマについて意見交換や情報共有をします。

お産が安全な県へ

カンファレンスでは、それぞれの地域で注意を必要とする妊産褥婦さんについて、最善の治療方針をとれるよう情報共有も行っています。

また、事例を振り返ることで、対応が適切であったか、さらによい選択肢はなかったかなど、様々な視点から検討しています。周産期医療は、迅速な対応が必要になることが多いので、より迅速に、よりスムーズに、病院の垣根を越えて周産期医療を提供できるよう目指しています。

各地域のクリニックや医療機関による日々の尽力が背景になっていることはもちろんですが、カンファレンスを中心としたこの地域連携を2013年に開始して以降、比較的高かった県内の周産期死亡率は大きく改善し、2019年には、全国で最も低い2.0を記録して、三重県は「お産が最も安全な県」となりました。
その後も、2020年は2.9(全国11位)、2021年は2.8(全国5位)、2022年は2.9(全国8位)と高い安全水準を維持しています。

周産期死亡率:年間の出産1,000件に対する周産期死亡の件数

三重県下8つの医療機関による“周産期医療チーム”に欠かせない毎朝のカンファレンス

コロナ禍にも力を発揮したカンファレンス

2021年には、新型コロナウイルス感染症が周産期領域にも拡大し、県内では感染が原因と考えられる子宮内胎児死亡や常位胎盤早期剥離の症例を経験しました。

全国的に、新型コロナウイルス感染症妊婦の収容先が決まらないなどの非常に大きな混乱を招いていた中で、三重県では情報を集約し、収容先を決定する体制を取りました。そのベースとなったのもこの毎日のカンファレンスでした。

日々、感染妊婦の状況を徹底的に共有し、最善の収容先を決定することで混乱を最小限にとどめることができたと思います。

「断らない、弾力性を持ち、教え合う」

この周産期医療連携は、現在病院長を務める池田智明先生が教育とコミュニケーションの促進を目的に始めたものです。日々の診療も、「断らない、弾力性を持ち、教えあう」という当科の3つの方針の下で行っています。

特に「教えあう」という点は当科の伝統であり、先輩医師が後輩に対して持っている知識や技術を惜しみなく伝えることを皆で推奨しています。

症例だけでなく、様々な知識や新しい情報を共有する毎日のカンファレンスは、病院の枠を超えて「教えあう」を実践する場にもなっているのです。

カンファレンスは、病院の枠を超えて互いに教え合い、学び合う場にもなっている。

より多くの施設との連携を目指して

当院は、この三重県の地域周産期医療体制を継承し、より高度な医療を提供できるように、その要となっている病院間のカンファレンスをとりまとめ、チームリーダーとしての役割を引き続き果たしていきたいと考えています。

現在も地域の産科クリニックが近隣の周産期母子医療センターにいつでも相談できる体制をとっていますが、今後は遠隔でも参加できるテレビ会議システムを有効利用し、各地域のクリニックなど、より多くの施設と連携を図ることができればと考えています。

そうして、よりよい環境を整えることで、患者さんにとっても、医療従事者にとっても、安心安全なお産にのぞむことができると考えています。

妊婦さんへのメッセージ

出産は人生の中で最も特別な瞬間のひとつです。

分娩に関して、不安や緊張を誰もが感じていると思います。描いていた理想のお産とは程遠い、困難なお産になることもありますが、私たちは一丸となり最善の選択をして、特別な瞬間を皆で祝福できるようサポートいたします。

マタニティライフは人生の中で大変貴重な期間です。長いようで短いこの期間を十分に楽しんでください。

産科婦人科
助教・産科病棟医長 玉石雄也

伊勢市出身の一児の父です。実家は産婦人科のクリニックで、赤ちゃんの産声を目覚まし代わりに育ちました。
「伊勢志摩地域の女性が困らないような医療を提供したい」という思いから医学部に進学し、産婦人科医となりました。「ひとりでも多くのハッピーな出産を」をモットーに、丁寧な診療を心がけています。

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