CANCER MEWS(キャンサーミュース)

腎機能温存を目指す腎細胞がん治療

ロボット手術やアブレーション治療など、患者さんごとに最適な治療法を提供

腎泌尿器外科 
副科長・准教授 西川晃平

腎細胞がんとは

国内の腎細胞がんの発症者が増えているそうですね。

腎細胞がんは、腎臓の実質(尿をつくる実質的な働きをするところ)に発生するがんです。
1年間で人口10万人当たり男性で7.1人、女性で3.1人に発症するとされており、男性に多いがんです。

腎細胞がんの危険因子として、欧米型食生活や運動不足などに伴う生活習慣病(肥満・高血圧・糖尿病など)や喫煙が知られており、これらが国内の発症率の増加にもつながっていると考えられます。さらに長期透析も危険因子であるとされています。

また、腎細胞がんと関連する疾患として、遺伝子の変異が原因で発症するフォン・ヒッペル・リンドウ病などもリスクとして知られています。

腎細胞がんの初期症状としては、どのようなものがあるのでしょうか。

腎細胞がんは初期には無症状であることが多いですが、進行すると血尿が出たり、背中・腰の痛みや腹部のしこりが認められたりするようになります。

最近は、健康診断や他の病気の疑いがあって行う検査で、無症状のうちに偶然に発見されるものがほとんどです。しかし、中には肺や骨、肝臓、脳に転移したがんが見つかり、検査の結果、腎細胞がんが発見されることもあります。

治療を受ければ、根治が期待できますか。

転移がない腎細胞がんの場合は、治療によってがんを根治させることも可能です。

一方で、転移がある腎細胞がんは根治が難しい場合が多いですが、最近は新しい薬が数多く開発され、治療成績が向上してきています。

当院のデータで見ると、がんの大きさが7㎝未満で転移がないステージⅠでは、5年生存率が95%以上と非常に良好ですが、遠隔転移を有するステージⅣになると40%程度となってしまいます。

このことからも、積極的に健康診断や人間ドックを受けて、早期発見・早期治療を目指すことが重要であることがわかります。

ロボットや腹腔鏡による腎細胞がんの治療

2種類のダヴィンチや腹腔鏡を適材適所で用いることによって、より患者さんの病状にあった腎部分切除術を行っています。

転移がなければ根治も可能とのことでしたが、どのような治療が行われるのですか。

転移が無い腎細胞がんの場合、以前はがんが存在する方の腎臓を全部取り去る「根治的腎摘除術」が標準的な治療でした。
しかし、最近では、腫瘍の直径が4㎝未満の小さい腫瘍に対しては、腫瘍とその周囲の部分のみを切除し、正常な部分を温存する「腎部分切除術」が主流となっています(図1)。

また、CTで確認をしながら腫瘍に治療用の針を直接刺して焼灼・凍結させ、死滅させる「アブレーション治療」も一般的になっています。これらの方法により、腎臓の機能を可能な限り温存することが可能となります。

図1. 腎細胞がんの切除術

10年以上前、三重大学病院で最初にロボット支援下手術を行ったのは、腎泌尿器外科でした。腎細胞がんに対するロボット手術の活用はさらに広がっていますか。

当科は、国内の腎細胞がんに対するロボット手術においても早くから取り組んだ病院の一つです。現在では、腎臓の温存を最大化するための部分切除を全て手術ロボットであるダヴィンチで行っています。

例えば、腫瘍が大きく、一般的には根治的腎摘除術が検討される場合でも、腎臓の機能が悪かったり、腎臓が一つしかない患者さんでは、できるだけ温存できるように、部分切除術を行うことがあります。

この手術では、腫瘍と正常な腎臓をしっかりと見極め、切除を行い、また十分な止血のために精密な縫合を行うことが非常に重要ですが、当科は、拡大視野とスムーズな操作性を得意とするロボット手術により行っています。この手術は、当院で今までに300人以上の患者さんが受けられています。

新たなロボット手術の導入も進んでいますね。

三重大学病院では、2024年1月から、国内導入7台目となった最新ロボット(ダヴィンチSP、図2)が稼働しており、より低侵襲な手術が可能になっています。

図2. ダヴィンチSPサージカルシステム(インテュイティブサージカル社ホームページより)

これは、単一のポートからすべての手術器具を挿入するもので、腎部分切除術の場合、従来のダヴィンチ手術に比べて、ポートのサイズは3㎝程度とやや大きくなるものの、傷口を2つにまで減らすことができます(図3)。

当科では、この最新ロボットを用いて、現在までに20人(2024年10月末現在)の患者さんに対して腎部分切除術を行っています。やはり、手術の後の痛みが少ないこと、傷が圧倒的に小さいことがこの手術のメリットだと思います。

図3. ダヴィンチによる腎部分切除術を行った場合の傷口(左腎の場合)

切除術だけでも選択肢が増えているのですね。

ただ、ダヴィンチSPでは切除しにくい腫瘍があることも事実で、その場合には従来のダヴィンチで手術を行っています。一方、大きな腎細胞がんに対する根治的腎摘除術では、ダヴィンチよりも腹腔鏡下手術が適切な選択肢となることもあります。

このように、当科では、2種類のダヴィンチや腹腔鏡を適材適所で用いることによって、より患者さんの病状にあった腎細胞がんに対する手術を行っています。

また、手術以外にも、放射線科と連携をして、経皮的アブレーション治療や放射線治療などに対応しています。

放射線科と連携したアブレーション治療や放射線治療

アブレーション治療や放射線治療が優先的に選択される場合もあるのですか。

経皮的アブレーション治療は、CTなどの画像でがんの位置を確認しながら、体外から直接腫瘍に針を刺し、それを通じて、腫瘍部分を60℃以上に温度を上げて死滅を目指す「ラジオ波焼灼術」と、-20℃以下に下げて死滅を目指す「凍結治療」があります。

この治療の利点は、局所麻酔で行え、腎部分切除術に比べて体への負担が少ないことです。そのため高齢者や他の疾患を併発している患者さんに対しても比較的安全に治療を行うことができます。

局所での再発率は腎部分切除術よりやや高いですが、再発腫瘍に対して繰り返し治療を行い制御することが可能です。一般的に直径3㎝以下の腎細胞がんに対する治療選択肢の一つとなっています。

三重大学では、アブレーション治療は、放射線科Interventional Radiology(IVR)部門の医師が行っています。2023年度だけでも、凍結治療を14件、ラジオ波焼灼術を23件行っており、全国的に見ても多くの治療実績を持っています。

図4. 腎細胞がんに対する経皮的アブレーション治療

放射線治療が選択肢になるのはどのような場合でしょうか。

放射線治療は、侵襲度が極めて低いため、手術やアブレーション治療ができない方には、選択肢の一つになり得ます。

実は、放射線治療は、腎細胞がんには効果が少ないと言われてきました。しかし、回数を少なくして1回に照射する放射線量を増やすことで効果があることが判明し、本邦でも腎細胞がんに対しての定位放射線治療が保険適応になりました。

*⽐較的⼩さな病変に対して⾼線量を集中して照射する放射線治療。当院における定位放射線治療(SRT)については、下記の記事でもご紹介しています。合わせてご覧ください。
「がんをピンポイントに攻撃する高精度放射線治療」

多様な治療を可能にする体制

腎泌尿器外科と放射線科の緊密な協力体制が、患者さんの状態に応じた治療を可能にしており、当院の強みであると思います。

三重大学病院では、ロボット手術からアブレーション、放射線まで、腎細胞がんに対して幅広い治療に対応しています。どのようにその体制を可能にしているのですか。

腎部分切除術や根治的腎摘除術などの手術は腎泌尿器外科で担当していますが、アブレーション治療と定位放射線治療は、それぞれ放射線科のIVR部門と放射線治療部門が担当しています。

これが可能なのは、腎泌尿器外科と放射線科の緊密な協力体制があるからと言えます。以前、この二つの科は一緒の病棟にあったこともあり、昔からつながりが強く、現在は、毎月、合同カンファレンスで意見交換を行っています。
この体制が、患者さんの状態に応じた治療を可能にしており、当院の強みであると思います。

また、この連携を生かし、アブレーション治療後の再発症例に対して腎部分切除術を行ったり、多発する腎細胞がんに対して両方の治療を併用して、治療と腎機能の温存を図るハイブリット治療も行っています。

腎細胞がん以外の疾患に対する治療についても聞かせてください。

先ほどお話したシングルポートのダヴィンチSPは、前立腺がんに対する根治的前立腺全摘除術や腎盂・尿管がんに対する腎尿管全摘除術の低侵襲化にも一役買っています。

さらに、腎盂尿管移行部狭窄症という良性疾患に対する腎盂形成術にも適応があります。この手術はダヴィンチSPを用いることにより下着に隠れる一か所の傷で施行可能であるため、特にメリットが大きい術式と考えられます。
(詳しくは腎泌尿器外科HPをご参照ください。)

このように、当科では、腎部分切除術に関わらず、多くの疾患に対してダヴィンチSPによる低侵襲な手術を提供できるようになっています。

どの疾患でも患者さんごとに最善の治療は違うからこそ、手術だけでも複数の選択肢を揃える。(左から2人目が西川医師)

腎細胞がん診療において、今後さらに力を入れていきたい取り組みはありますか。

先ほどお話したように、転移のない腎細胞がんに対しては、腎機能の温存や低侵襲化が図られるようになっています。

そして、遠隔転移のある患者さんへの薬物治療にも大きな進歩が見られています。特に免疫チェックポイント阻害薬と血管新生阻害薬の併用により劇的に腫瘍が縮小することも一部の患者さんで認められています。

そこで、手術だけではがんが根治できない腎細胞がんの患者さんに対して、先行して薬物治療を行い、腫瘍の縮小を待って二期的に手術を行うことが、生命予後の改善に貢献できるのではないかと期待されており、当科でも積極的に取り入れています。

このように、今後も効果が認められた治療法を取り入れ、腎細胞がん全体の治療成績を向上させるべく取り組んでいきたいと考えています。

最後に患者さんにメッセージをお願いします。

どのがんについても言えることですが、腎細胞がんも早期発見が最も大切です。健康診断や人間ドックなどを積極的に受診するようにしましょう。

腎細胞がんは、近年最も薬物治療が進歩したがんの一つです。転移がある腎細胞がんと診断されたとしても、しっかりとした検査を受け、適切な治療を受けることでその治療効果を最大限に生かすことが可能となると思います。
何か不安や疑問点がありましたら、当科までお気軽にご相談ください。

腎泌尿器外科
副科長・准教授 西川晃平

趣味は神社・仏閣巡りです。
ロボット手術以外の私のもう一つの専門が腎移植なのですが、泌尿器科医を目指したきっかけは医学生の時に泌尿器科の授業で腎移植のことを学び、強く興味を持ったことでした。
座右の銘は、西川きよし師匠の名言「小さなことからコツコツと」です。
医師として大切にしていることは、「病気だけではなく、患者さんを診ること」です。

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