いろいろな病気と治療

炎症性腸疾患

消化管外科
准教授 大北喜基

炎症性腸疾患とはどういった病気なのですか。

炎症性腸疾患とは、食べ物の通り道である消化管に慢性的な炎症が繰り返し起こる疾患の総称で、主に「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」の2つがあります。

両疾患ともはっきりした原因はわかっていませんが、免疫異常、遺伝的素因、腸内細菌の変化、食生活や環境要因などが組み合わさって発症すると考えられています。

日本でも患者数は増加傾向にあり、いずれも指定難病に指定されています。

それぞれどのような症状があるのでしょうか。

潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症や潰瘍が生じる慢性の炎症性腸疾患です。小腸に炎症が及ぶことはまれとされています。

主な症状は、下痢、血便、腹痛で、症状が良くなる「寛解」と悪化する「再燃」を繰り返すのが特徴です。

一方、クローン病の方は、口から肛門まで、消化管のどの部位にも炎症が生じうる疾患です。

特に小腸に病変がみられることが多い点が潰瘍性大腸炎と異なり、肛門に炎症や痔瘻などの病変がみられることも少なくありません。

腹痛、下痢、体重減少などが主な症状で、肛門病変がある場合には肛門の痛みを伴うことがあります。

図1 潰瘍性大腸炎とクローン病の特徴

年齢など発症の傾向はあるのですか。

潰瘍性大腸炎は、20〜30歳代での発症が多く、性別差はほとんどありません。しかし、近年は50~60歳代の中年〜高年でも新たに発症する患者さんが増えてきています。

クローン病については、10〜20歳代の若年発症が典型的です。男性にやや多い傾向があります。

冒頭で国内の患者数が増加傾向にあるという説明がありましたが。

2023年のデータによると、国内の推定患者数は、潰瘍性大腸炎が316,900人、クローン病 が95,700人と報告されています。2015年からの8年間で、いずれも1.4倍に増加しています。

「なぜ増えているか」の理由は明確にはなっていませんが、炎症性腸疾患が欧米で多い疾患であることから、食生活の欧米化による腸内環境の変化が影響していると推測されています。

また、診断技術の進歩による発見率の向上なども複合的に関与していると考えられています。

炎症性腸疾患が他の病気のリスクになる場合もあるのでしょうか。

炎症性腸疾患では、炎症が長期に続きます。これによって大腸がんのリスクが上昇することが知られています。

潰瘍性大腸炎では、発症から 8~10年以上経過し、大腸炎が広範囲に続いている場合ほどそのリスクが高くなります。従って、発症から8~10年以上経過した患者さんは、1~2年毎に大腸カメラを受けることがガイドラインで強く推奨されています。

クローン病では、肛門病変(特に痔瘻)を合併した患者さんにがんの発生頻度が高いことが最近報告されています。クローン病においても、肛門病変を合併した場合は、1~2 年毎の検査を受けることを推奨しています。

潰瘍性大腸炎については、どのような治療が行われますか。

潰瘍性大腸炎の治療は薬物療法が基本で、まずは5‐アミノサリチル酸(メサラジン)の内服が選択されることが一般的です。

5‐アミノサリチル酸の効果が不十分の場合には、ステロイド、免疫調整薬、生物学的製剤、JAK阻害薬、S1P受容体調節薬などを用います。

栄養療法(食事や栄養剤などによる治療)は、一般的に行いません。

また、重症である場合、薬剤が有効でない場合(内科治療抵抗性)、あるいはがんを合併している場合には、手術が選択肢となる場合もあります。

手術では、原則として大腸全摘術が行われますが、永久的な人工肛門になる可能性は低いです。

クローン病の治療についてはどうでしょうか。

クローン病では、軽症例に対しては5-アミノサリチル酸製剤や成分栄養剤を用いた栄養療法が主に行われます。

中等症から重症例、あるいは病勢が強い場合には、ステロイドや免疫調整薬、近年開発された生物学的製剤やJAK阻害薬を用いて症状の改善を図ります。

消化管の狭窄や肛門周囲膿瘍などを合併した場合には、手術が必要になることがあります。

いずれも指定難病であるのことですが、治療により寛解や完治を目指していけますか。

炎症性腸疾患は慢性疾患であり、現時点では「完治(根治)」を目指す治療法は確立されていません。

ただし、症状がほとんどない「寛解」の状態を維持することは十分に可能であり、適切な治療を続けることで日常生活をほぼ支障なく送れる患者さんも多くいます。

また、早期に適切な治療を開始することが予後改善につながると考えられています。

三重大学病院では、炎症性腸疾患の診療をどういった体制で行っていますか。

先にお話ししたように、炎症性腸疾患に対する治療は、内科治療だけでなく、外科治療を必要とする場合など個人の病気のタイプによってさまざまです。

当院では、消化器内科、消化管外科、小児外科が合同でカンファレンスを開催し、緊密に連携しながら炎症性腸疾患の患者さんの診療に取り組んでいます。こうした内科・外科の垣根を超えた体制が、患者さん一人ひとりに最適な治療方針を提供することにつながっていると考えています。

内科と外科の連携が重要なんですね。

はい。特に炎症性腸疾患に対する外科治療は専門性が高く、豊富な経験を有する外科医や対応可能な医療機関は限られています。

当院では、炎症性腸疾患に対して豊富な実績を有する外科チームが診療を支えており、万が一、緊急手術が必要となった場合にも迅速に対応できる体制を整えています。

このような外科的バックアップがあるからこそ、より積極的で質の高い内科治療の提供が可能であると考えています。

カンファレンスでは、消化器内科、消化管外科、小児外科など多診療科が連携し、患者さん一人ひとりに向き合いながら炎症性腸疾患や関連合併症に対する診療方針を検討している。

がんなど、合併症のあるケースではどうでしょうか。

実は近年、炎症性腸疾患に合併するがんは増加傾向にあります。

当院では、腹腔鏡手術やロボット手術をはじめとする高度な外科治療に加え、抗がん剤治療においても高い専門性を有する診療体制を整えています。

また、炎症性腸疾患は腸の炎症にとどまらず、眼や皮膚、関節など全身に症状が及ぶことがあるため、眼科・皮膚科・リウマチ膠原病内科といった複数の診療科が連携して診療にあたることが重要です。

当院では、炎症性腸疾患そのものの治療に加え、関連するさまざまな合併症にも対応可能な総合的診療体制を整えていることが大きな特徴です。

では、炎症性腸疾患を抱える患者さんにメッセージをお願いします。

炎症性腸疾患の症状は、患者さんの生活の質(QOL)に大きな影響を与えます。特にAYA世代と呼ばれる15歳から39歳までの思春期・若年成人の患者さんが多く、学業や仕事、家庭生活など、人生のさまざまな場面で負担となることが少なくありません。

私が炎症性腸疾患の治療に携わるようになってから、すでに20年以上が経ちました。その間、手術を受けた当時は小中学生だった患者さんが、健康を取り戻し、進学や就職を経て家庭を築いていく姿を見てきました。

そのようなお話を伺うたびに、医療者として大きな喜びを感じます。これからも生活面への配慮を大切にしながら、患者さんと共に最適な治療法を考え、選択していきたいと思います。

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