新興・再興感染症から人類を守りたい-次世代型ワクチンの作製-
今回取り上げるのは、三重大学大学院医学系研究科 感染症制御医学・分子遺伝学分野の野阪哲哉教授が進める次世代型ワクチンの研究です。
ワクチンと言えば、新型コロナウイルス感染症でも注目されたように、感染症の予防や重症化リスクの軽減を目的として、それぞれの感染症に対する免疫を体内で先回りして作ろうとするものです。
野阪教授は、より安全で迅速に作製できる次世代型ワクチンの作製技術の開発に、地元のベンチャー企業であるバイオコモ株式会社の福村正之代表取締役や大塚順平研究開発部長らとともに15年前から取り組んでいます。
感染症とワクチン
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、約3年間、全世界を大混乱に陥れました。古くは、1918~20年に大流行したスペイン風邪も歴史に語られる感染症です。
今後、人類存亡の危機に瀕するような恐ろしい病原体が出現するかどうかは、誰にもわかりませんが、1%でも可能性があれば、それに備えることが重要です。COVID-19で多く使われたmRNAワクチンは、こうした危機に対して強力な備えになりますが、副反応や利便性の問題など、まだ克服すべき課題があるとされます。
感染症ワクチンを迅速かつ安全に作製する独自プラットフォーム技術
ワクチンには、それぞれの感染症の原因となる病原体の抗原(やその設計図となる遺伝子)が含まれますが、それを体内に効率よく運び入れる機能を持たせることが必要です。
野阪教授らの研究の中心は、私たちに身近な風邪(ヒトの感冒)を引き起こすウイルスを害がないように改変(無害化)し、そこに抗原を搭載して運ばせようとする「ワクチン作製の独自プラットフォーム技術」です。
風邪のウイルスを改変したその独自のウイルスを研究チームでは、「BC-PIV」と名付けています。BC-PIVは、いろいろな抗原を迅速かつ自在に搭載できるだけでなく、風邪ウイルスの特徴を生かして、感染症ウイルスが入り込む入口となりやすい鼻や喉の粘膜に免疫をつくることも期待できるものです。
すでに、エボラウイルスワクチン、新型コロナウイルスワクチン(図1)を作製し、世界に向けて発表しています。この研究については、新聞やテレビでも多く取り上げられてきました。
(読売新聞の記事)
https://www.yomiuri.co.jp/medical/20211206-OYT1T50064/
国家プロジェクト選定を受け、研究開発を本格化
令和5年3月、この研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構の「ワクチン・新規モダリティ研究開発事業」に採択され、大型予算の支援を受けることが決定しました。これにより、同年5月、この独自のプラットフォームを活用し、針を使わず、鼻噴霧で投与できる新しい様式のワクチン開発プロジェクトが本格的に始動しました。
この事業で対象とする病原体は、今世界で最もワクチンが必要とされている感染症のひとつ「RSウイルス」です。
野阪教授の研究グループは、未知の病原体に人類が脅かされるような今後の感染症有事に備えて、この研究技術で世界に貢献したいと考えています。