ミライの医療研究室

非アルコール性脂肪肝炎-病態悪化の謎を解明-

第2回目の今回は、三重大学病院の消化器・肝臓内科の科長で、三重大学大学院医学系研究科の消化器内科学の中川勇人教授の研究をピックアップ。
この研究は、中川教授の他、東京大学医学部附属病院消化器内科の川村聡特任臨床医、松下祐紀大学院生、小池和彦名誉教授、藤城光弘教授らの研究グループが、現時点では確立された治療法がなく、またがんにも発展しやすいと言われる「非アルコール性脂肪肝(NASH)」の発症や病状のメカニズムを解明し、その治療法の確立を目指そうと取り組んでいるものです。

中川勇人教授

NASH進行は脂質バランスの崩れが引き金であることを発見

非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は、肝臓への脂肪沈着(脂肪肝)をきっかけに、炎症・線維化がおこり、肝硬変や肝癌に至る進行性の疾患です。しかし、進行の過程で何がおこっているのかは、これまで明らかになっていませんでした。それを明らかにすれば、治療において何にアプローチすればよいのかの答えにつながる可能性があります。

そこでこの研究では、進行したNASHで何か起こっているのか、どんな物質が増減し、進行に影響しているのかなどを様々な手法で細かく追っていきました。

その結果、肝臓の細胞内の脂質、特にリン脂質という脂質のバランスが崩れ、細胞が障害されやすくなっていることを解明しました。

NASHの治療法確立への一歩

この結果を踏まえると、肝臓内のリン脂質の補充やバランスの改善が、進行NASHの治療法の一つとなる得るという仮定を示したことになります。また、最近、肝臓内の脂質の合成プロセスを標的とした薬剤の開発が注目されているのですが、この研究により、そうした薬剤が逆効果になる可能性も浮かび上がりました。

この研究をさらに進め、治療においてリン脂質の補充やバランス改善をどのような方法で行うことが適切かなどを究明し、将来的には、各患者さんの進行ステージに応じた治療法の確立を目指していこうとしています。

この研究成果は、医学の進歩につながる生物医学系の基礎研究や臨床研究を取り上げる米国医学研究雑誌「The Journal of Clinical Investigation」に掲載され、世界に発表されました。

NASHの概要図

健康な肝臓と進行したNASHの肝臓で脂質がどのように働いているのかなどを細かく比較して、NASHの病態を解明を進めています。

この研究についてより専門的に説明したニュースリリースもあります。
進行した非アルコール性脂肪肝炎の病態の一端を解明 (mie-u.ac.jp)


*1 線維化

細胞が繰り返しダメージや傷を受けると、その修復反応の結果として硬くなってしまうこと。肝臓で線維化が進んだ状態が肝硬変。

*2 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)

肝臓に脂肪がたまる脂肪肝には、過度な飲酒が原因となる「アルコール性脂肪肝」と飲酒が原因とならない「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」に分けられる。NAFLDは、肝臓におけるメタボリックシンドロームの表現型ともいわれるが、そのうち、肝硬変に進行し、肝がんの発症リスクが高いものを「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」と呼ぶ。

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