ペルー外務省から「海外で活躍するペルー人女性」として表彰 医療通訳士 アラウコ・マリア
三重大学病院には日本語を母国語としない方にも安心して医療を受けていただけるよう3名の医療通訳士(スペイン語1名・ポルトガル語2名)が常駐しています。
その一人がペルー出身のアラウコ・マリアさん。医療だけでなく、後進の育成、文化や防災、国際交流など幅広い分野での活動が評価され、今年の春、ペルー外務省から表彰を受けました。
医療通訳士としては9年近くの経験を持つベテランですが、実は、高校生のときに「私には医療通訳はできない」と思った経験もあったそう。今回の受賞や医療通訳士として大切にしていることなどを聞きました。
それ行け!三重大学病院。それ行け!アラウコ・マリア医療通訳士。病院でもコミュニティでも人と人をつなぐ架け橋であり続けるために。
| 医療通訳士(スペイン語) | |
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| アラウコ・マリア |

『海外で活躍するペルー人女性』の表彰
春にペルー外務省より『海外で活躍するペルー人女性』として表彰を受けられました。おめでとうございます!
ありがとうございます。この賞は、ペルー外務省が、海外で社会やコミュニティの発展に貢献し、さまざまな分野で活躍しているペルー人女性を表彰しているものです。
私が受賞した理由としては、約19年にわたりコミュニティ通訳として活動し、その中で9年間は医療通訳士として外国人の医療アクセスを支援してきたこと、医療通訳士の育成や質の向上に取り組んできたこと、また、外国人防災リーダーズ代表として地域の防災活動や多文化共生の推進に携わってきたことが評価されたと伺っています。
さらに、講演活動を通して、多文化共生や防災の重要性を発信し、日本と外国人コミュニティをつなぐ架け橋として活動してきたことも、受賞理由の一つだと聞いています。
医療通訳だけでなく、人や文化をつなぐこれまでの幅広い活動が評価されたんですね。
受賞の知らせをいただいた時は、本当に嬉しかったです。何よりもこれまで続けてきた活動を認めていただけて、「続けてきてよかった」と心から感じました。
通訳という仕事は、単に言葉を訳すだけではありません。文化や価値観の違いから生まれる小さな行き違いや不安を取り除き、人と人をつなぐ役割があると思っています。
今回の受賞は、私が大切にしてきた「人と人をつなぐ架け橋」としての活動を評価していただけたものだと受け止めています。
また、この賞は決して私一人の力でいただいたものではありません。これまで一緒に活動してくださった医療通訳士の仲間たち、医療機関や行政、地域の皆さん、そして支えてくれた家族や多くの方々との積み重ねがあってこその受賞だと思っています。心から感謝しています。

医療通訳士を目指した理由
医療通訳士としての仕事についてもお聞きしたいのですが、目指したきっかけは何かあったのですか。
小学生の時に来日し、日本で教育を受けた私は、当時、日本語があまり話せなかった両親や親戚、またはその友人のために市役所や病院などで通訳をする機会が多くありました。
高校2年生の時、ある方から「子どもが入院しているので通訳をしてほしい」と頼まれたことがあります。
それほど深刻な状況だとは思っていませんでしたが、医師の説明を聞いていく中で、ことの重大さに気づき、大きな衝撃を受けました。お子さんの病気が白血病で、余命に関わる内容だったんです。
私自身が動揺してしまい、その様子で患児の母親をさらに不安にさせたようでした。
それでちゃんと専門知識をつけた医療通訳士を目指そうと?
実はこの経験があって、逆に「私には医療通訳はできない」と思い、その道を考えないようにしていたんです。
病気を受け入れるだけでもご家族にとっては大きな苦しみがあります。それに加えて、言葉が分からないことで不安や孤独を感じることがあってはいけない。「医療に関する大切な説明を正確に伝える人が必要だ」と感じる一方で、命に関わる内容を伝える責任の重さや怖さも感じました。
でも、その経験はずっと心の中に残り続けました。
そして、「誰かが正確に、そして寄り添いながら伝えなければならない」という思いが、時間をかけて少しずつ強くなっていきました。それが、医療通訳士を目指した私の原点です。
医療通訳士にはどのようになったのですか。
私は、三重県内の小中学校で外国にルーツのある子どもたちの適応指導員として、授業のサポートや通訳をしていたのですが、2017年に、友人から紹介された三重県国際交流財団(MIEF)の医療通訳育成研修を受講しました。
研修修了直後に、MIEFの職員の方から「三重大学病院でスペイン語の医療通訳士を募集しているので受けてみないか」とお電話をいただき、それからずっと当院で働いています。
三重県国際交流財団では、約20年前から医療通訳の育成に取り組んでおり、私を含め、現在、三重県内の医療機関で活躍している医療通訳士の多くが、この研修をきっかけにしています。

医療通訳士として大切にしていること
三重大学病院には、外国籍の患者さんも多くいらっしゃるのですか。
はい、とても多いです。
特に、当院にはスペイン語・ポルトガル語の医療通訳士が常駐していることが、ラテンコミュニティの中で広く知られています。そのため、「大きな病院を受診してください」と紹介される際に、「三重大学病院に行きたい」と希望される患者さんが多いと、実際に何人もの方から聞いています。
近年は、三重県内で最も外国人住民数が多いベトナムやインドネシア出身の患者さんが増えています。スペイン語・ポルトガル語以外の言語については、遠隔医療通訳システム「MELON」や翻訳機「ポケトーク」を活用して対応しています。
多様化する外国人患者さんに対応するためには、英語の医療通訳士や医療コーディネーターの配置も今後ますます必要になると感じています。
医療の現場で言葉が障壁にならないよういろいろな工夫がされているんですね。
言葉の壁があることで最も困るのは、もちろん患者さんです。しかし、必要な医療を安全に提供したいと考える医療スタッフも言葉の壁に直面しています。
医療安全の観点からも、医療通訳は患者さんだけでなく、医療スタッフを支え、安心して適切な医療を提供するためにも欠かせない存在だと考えています。
医療通訳士としてご自身で大切にしていることはありますか。
医療通訳士として私が最も大切にしているのは、「正確さ」と「中立性」です。
患者さんと医療者、双方の立場を尊重しながら、言葉だけでなく、お互いの考えや意図が正確に伝わるよう心がけています。
また、患者さんが医療用語や病名を十分に理解できていないと感じた場合は、私が説明をするのではなく、医師に「もう少し分かりやすく説明していただけますか」とお願いすることもあります。正確な理解につなげることも、医療通訳士の大切な役割だと考えています。
一方で、母国語で話せる医療通訳士は、患者さんにとって最も身近で頼れる存在になりやすいからこそ、適切な距離感を保つことも重要です。
個人的な相談や依頼まで引き受けるのではなく、医療通訳士としての役割を明確にし、倫理綱領や行動規範に基づいて行動するよう心がけています。例えば、患者さんや医療者から「これは訳さなくてもいい」と言われることがあっても、診療に関わる発言は、すべて正確かつ公平に通訳する責任があることを説明しています。
また、挨拶や笑顔、落ち着いた立ち振る舞いなども、安心して診療を受けていただくために大切にしています。
そして、医療通訳は、ときには患者さんの余命や重い病気、悲しい知らせを伝える場面に立ち会うこともあります。そのようなケースを一人で抱え込まないよう、医療通訳士同士で情報を共有し、お互いに支え合いながら心のケアにも努めています。
長く質の高い通訳を続けるためには、自分自身の心を整えることも大切だと感じています。
「医療通訳士」として、または「海外で活躍する女性」として、今後、チャレンジしたいことがあればぜひ聞かせてください。
今後チャレンジしたいことは、たくさんあります(笑)。
その中で一つ挙げるとすれば、スペイン語圏の国々の医療現場を実際に自分の目で見ることです。
私は日本で育ち、日本の医療現場で医療通訳士として働いてきました。これまで在住外国人の支援に携わってきましたが、スペイン語圏の医療制度や患者さんの価値観を現地で直接学ぶ機会をいつかつくりたいと考えています。
また、地域全体で外国人患者さんが安心して医療を受けられる環境づくりにも関わっていきたいです。病院だけでなく、地域の医療機関とも連携しながら、必要な方が必要な時に医療通訳につながる仕組みづくりにも貢献していきたいと思っています。
それから、今回の受賞を励みに、ペルーにルーツを持つ一人として、歴史的に長いつながりがある日本とペルー両国の交流や絆をさらに深める架け橋になっていければ嬉しいです。

医療通訳士(スペイン語)
アラウコ・マリア
私生活は子どもたち中心で、週末も長男の勉強に付き合ったり、次男のサッカーの応援に行ったりしています。三重県は東にも西にも移動しやすく、子どものサッカー遠征に便利です。また、私が暮らしている四日市市は、人とのつながりが温かく、とても住みやすい大好きな町です。
ありがたいことに、医療や防災に関する講演の機会も増えており、その準備に追われることも多いですが、「今だからできること」と思い、一つひとつご縁を大切にしながら楽しんで取り組んでいます。
ストレス解消とリセットのために、何も考えずに“無になる”時間や思い切り歌ったり踊ったりして、頭を空っぽにする時間をつくるよう意識しています。また、大好きな人たちと楽しい時間を過ごすことも私の元気の源です。職場でラテンBBQを企画した際も普段真面目な話をしている仲間たちが、音楽が流れた瞬間に笑顔で踊って楽しんでいる姿を見てとても幸せなになりました。
モットーは「やってみる」こと。そして、やるからには「全力でやる」こと。これからもさまざまなことにチャレンジしながら、多くの人との出会いを大切にし、一緒に楽しみ、成長していきたいと思っています。
医療スタッフや事務職員、外部委託のスタッフを含め、三重大学病院の日々の運営に携わるのは、総勢約2500人。表から、裏から様々な形で関わるその一人ひとりの力や想いが、平常通りの診療を支えています。
安全な診療、優れた診療、質の高い診療、いずれも技術や設備だけでは成し遂げられません。
VOICEのコーナーでは、いろいろなスタッフの声を通して、三重大学病院の診療に欠かせない「人」としての側面をお伝えします。






