健康アドバイス

食養・薬膳

私たちの健康を支えている大きな要素が食事だということは、誰もが知るところです。そして、食習慣の見直し自体が治療法となる病気もたくさんあります。
特に漢方医学では、からだのことを考えた食事が病気の予防や健康維持にとても重要だとする「医食同源」や「食養」「薬膳」といった考え方が根付いており、日々の暮らしの中でも参考にできるヒントに溢れています。

今回は、食養・薬膳について、三重大学病院の漢方医学センターの髙村光幸センター長が漢方の考えに沿って解説します。「特殊なものを食べることではない。自分の体質に偏りがあれば、それを作り出しているのは普段の食事の偏りなのではないかと考えてみること」が第一歩だそうです。

まず、みなさんは漢方というと、どのようなイメージをもたれるでしょうか。

“漢方薬を使って治療する古い医学”という認識が一般的かもしれませんが、それに限らず、漢方には、鍼(はり)やお灸、按摩(あんま)などの物理療法、また食事や睡眠など生活習慣の改善を含めた幅広い知識・知恵をも含んでいます。

医療の現場で実践される日本の伝統医学としての漢方医学は、病気になった人を治療することに主眼が置かれます。

一方で、病気になる前、すなわち薬物を使う以前に、日々の食事や睡眠・運動・心の持ち方など、各自が自身の生活を整えて病気にならないからだづくりをすることを「養生(ようじょう)」といいます。

養生という考え方の中で、からだのバランス調整を意識した食事が「薬膳」だといえるでしょう。

薬膳では、自分の体質や病気のタイプにあわせて、普段摂取する食物を考えることが基本になります。つまり、日ごろ食べている穀物や肉、野菜それぞれの性質を意識し、冷え性や暑がりなどといった体質の傾向に合わせて、多めに摂るべき、あるいは減らすべき食材を選ぶことから始まります。

薬膳について詳しくお話をするとき、まず「陰陽五行論(いんようごぎょうろん)」という古代中国の哲学的概念についてご紹介する必要があります(図表1、2)。

陰陽は、例えば「日なたと日陰」「昼と夜」「男と女」など、森羅万象を陰と陽という2つのものさしで分類する考えです。

一方、五行は5つの要素の相互関係で分類する考え方で、基本的には「木・火・土・金・水」、季節なら「春・夏・長夏・秋・冬」、色なら「青・赤・黄・白・黒」などに分類します。

ちなみに長夏は、中国では本来、夏と秋の間の湿度の高い時期を指しますが、日本では梅雨から夏にかけての時期と置き換えるといいでしょう。

図表1 陰陽を示す図
(陰と陽が相互に変化し、依存しあう様が込められている。)
図表2 陰陽五行論による分類の一例

これらはとても複雑な宇宙の現象を単純な要素に落とし込んで、それぞれの属性を結び付けて理解しようとする概念です。人体もいわば小宇宙であり、自然界と同じようにこれらの要素の相互関係でとらえることができると、古代より考えられてきたのです。

そして、日々の食事が我々のからだをつくり上げているわけですから、食材にもこのような考えが応用されて、適切なものを食することによってからだのバランスが調整されていくと考える。それが食養や薬膳につながっているといえます。

こうした概念の中で、陰陽の陽は温かくて動的な要素、陰は冷たくて静かな要素とされています。

そのため、食べるとからだが温かく感じて元気がでてくるような食材は陽の性質をもっていると考えて、一般的に冷え性でエネルギー不足の場合に向いている。反対に、からだの熱が過剰なときには冷やす陰の性質をもった食材がよさそう、といったように考えることがあります。

この他にも、「四性(しせい)」または「五性(ごせい)」といって、特にからだを“強く温める食材”から“強く冷やす食材”までを熱性・温性・(平性)・涼性・寒性というような段階に分ける考え方を用いることもあります(図表3)。

性質からだへの作用食材の例
熱性強く温める胡椒、生姜(加熱)、羊肉
温性穏やかに温める鶏肉、かぼちゃ、ねぎ
平性中庸でどちらにも偏らない米、山芋、人参
涼性穏やかに冷ますトマト、ほうれん草、梨
寒性強く冷ますきゅうり、スイカ、苦瓜(ゴーヤ)
図表3 五性の一例(分類は書籍によっても異なる)

たとえば漢方薬の構成生薬にも用いられるショウガ(生姜、生薬としてはショウキョウと呼ぶ)は、からだを温める性質があることを食してみて感じる人もいるでしょう。また、湯通しなどの加熱処理をしたショウガ(生薬としては乾姜・カンキョウと呼ぶ)は、さらに身体を温める力が強いとされています。

実際、ショウガに含まれる6-ジンゲロールや6-ショウガオールといった成分によって、エネルギー消費量(代謝)が高まる、血流量が増える、末梢体温が上昇することも証明されています。ただし、これはひとつの例であって、ショウガでも生の場合はからだを冷やすと書いてあるものもありますね。

食材の温冷などの分け方には、厳密な決まりがあるわけではなく、すべての食材で信用していいかはわかりません。強弱の差なども、科学的に検証されたものではないので、あくまで慣例的にそういう風にいわれている、という程度に考えて、妄信しないほうがよいでしょう。

もう一つ、食材を味によって5つに分類する方法もあります。酸・苦・甘・辛・鹹(かん)という「五味(ごみ)」というものです。

最初の4つは字のごとくですが、最後の鹹は塩からいという意味になります。こちらはからだの機能を表す五臓との密接な関連が伝承されていますが、あくまでこれも科学的に証明したものとはいえません。

つまり、食材ごとのからだに対する性質は、書籍などによっても違いがあるし、いわゆるエビデンスがあるわけではないので、おおまかにとらえて考えるべき内容にとどまります。

しかし、漢方医学の生薬の捉え方もこの考えに沿っていますので、五性も五味も全く信じられないでたらめなものではないという認識でよいと思います。数千年の経験に則った積み重ねがあるのですから、先人たちの知恵をうまく利用すればいいのではないでしょうか。

ご家庭で薬膳を取り入れてみようと思ったときに、まずご注意いただきたいのは、溢れる情報に惑わされ過ぎないということです

インターネットなどには、ある食材にはこのような性質があって、このような症状や病気によいと書いてあるものがたくさんあるわけですが、あくまで食材はそれぞれ固有の栄養素をもっているので、単純に限られたものを過剰に摂取することは適当ではありません。

また、食材だけでなく調理法によっても体質に合う合わないがあります。

実際に野菜がからだにいいと考えて、毎朝せっせと冷たいスムージーを作って飲んでいた人がいました。しかし、実はその人の悩みは冷え性やむくみでした。

薬膳の考えによると、生野菜の多くはからだを冷やす性質があるといわれます。また、スムージーのような冷たい液体にすると、胃腸を冷やし漢方的にはからだのむくみを助長します。インターネットで「むくみ解消のスムージー」といったレシピが見つかったりしますが、私からいわせるとそれは大いなる矛盾としかいえません。

漢方的に、胃腸など体内に冷えがある人に冷たい飲食物はそもそも合いませんから、どうせならからだを温める性質をもった食材を取り入れた温かいスープで野菜を摂るべきです。

反対に、常にカッカカッカと体内に熱を宿して興奮気味の人なら、キュウリやトマト、小松菜などの涼性の野菜をスムージーとして飲むのは適切かもしれません。

しかし、冷え性の人も熱性の人も、春・夏・長夏・秋・冬という五行の季節や状況、環境に合わせて摂る食材の量を加減するべきです。

特に近年は、日本の長夏と言える6月頃には湿度や気温が上がってきて、からだに余計な熱や湿気(水分)がたまりやすい時期になります。したがって、このときの食養はとくに気をつける必要が出てきているように感じます。

いずれにせよ一番明確で正しい食養・薬膳の考え方は、“自分のからだについてよく考えて、季節にあった旬のものを適度に摂ろう”ということだと思います。

先ほどもお話したように、冷えや熱に偏りのある人はそれぞれに適した考え方がありますが、基本的に我々のからだは血流をもって体温を維持しているので、からだを冷やすことはよくありません。

夏場の暑い時期でさえも、冷たい飲食物ばかり摂っていると、胃腸が冷やされてしまい、かえってだるさや調子の悪さの原因になることもあります。

もしいずれの季節でも、適度にからだの内側を冷やさないために摂るものであれば、生姜とネギのスープ、またはお粥はどうでしょうか。これなら季節を問わず、適量を食べるにはよいでしょう。

生姜とネギのスープ

【材料】
・生姜
・長ネギの白い部分
・塩 少々
・米

【作り方】

  1. 薄切りの生姜と小口大に切った長ネギに水を加え、沸騰したらとろ火にしてしばらく煎じる。
  2. 好みで塩で味付け。
  3. スープでそのまま飲むか、別に米からお粥を作っておき、スープと混ぜて熱いうちに食べる。

古代中国、それも紀元前何百年も前には、すでに「食医」という栄養管理の専門職があったことが知られています。当時は身分の高い人だけがその恩恵を受けられたわけですが、現代では誰もがいろいろな食材や食に関する情報を手に入れることできるようになりました。

しかし、食養・薬膳というのは特殊なものを食べることではありません。自分の体質をみつめ、「偏りがないか、偏りがあれば、それを作り出しているのは普段の食事の偏りなのではないか」と考えてみることが始まりです。

そこから、少しずつからだに合った食材を適度に摂ることで、調子がよくなる、なんとなくいい、と思えるような生活をすることが重要です。まんべんなく少量ずつ、いろいろなものを食べることが本来はよい食事だと思います。

そうした食事をするために、まず現代人が忘れてはならないのは、溢れる情報の中から正しい情報を選び、正しく理解して応用するリテラシーなのかも知れません。

漢方医学センター
センター長 病院准教授
髙村光幸

Message

自身の花粉症に漢方薬が著効したことをきっかけに本格的に漢方を学びました。最近は、「“痩せる”漢方はないか」とよく聞かれますが、飲むだけで都合よく痩せるような漢方薬は本来存在しません。体内のバランスをとって、余分なものを調整する力が漢方薬にはありますが、それ以前に食生活などの生活習慣を見直さない限り、健康なからだにはなれませんよ。

「健康一言アドバイス」では、医療や健康など皆さんに身近な疾患や気になる話題を取り上げ、その領域の専門家がわかりやすくお伝えしています。

関連記事

ページ上部へ戻る