それ行け!三重大病院(診療科・部門紹介)

総合診療科

目の前の患者さんと地域の専門家

少し前に、総合診療医を主人公にしたドラマが話題になりました。原因が特定できない症例に対して、まず一見病気には関係ないようなことを含め患者さんの話を聞き、いろいろな方向から不調を診断しながら、まるでパズルを解くように病気を特定していく総合診療医。そこには、特定の臓器のエキスパートとしての医師とはまた違った医療の姿がありました。
実は、そうした総合診療医が診る「総合診療科」が三重大学病院にもあります。「総合診療医は“目の前の患者さんの専門家”である」と言う山本憲彦科長がご紹介します。

それ行け!三重大学病院。それ行け!総合診療科。診断が困難な症例を抱える患者さんの想いに何とかして応えるために。

総合診療科
科長・教授 山本憲彦

総合診療科とは

ほとんどの診療科は、臓器ごとに分けられており、それぞれの“臓器を突き詰める専門家”が診るのに対して、総合診療科では、臓器に関わらず、“目の前の患者さん”の専門家、あるいはその“地域”の専門家が診ると言えるでしょう。

その上で、患者さんを全人的かつ横断的に診断し、症状を引き起こしている原因は何なのか正確に見極め、疾患を特定していく「鑑別診断」を行うのが総合診療科です。

場所により違う役割を求められる総合診療医

しかし、実はそうした診療を行う総合診療医に求められる役割は、勤務する場所によって違います。それは、それぞれの場所でニーズが異なるためです。

例えば、地域の診療所では、子どもから高齢者まであらゆる年齢の方を対象とします。扱う疾患も内科的なものだけでなく、小児科、婦人科、耳鼻科、整形外科など多様です。
さらに、学校医や予防接種など予防医療にも濃密に関わります。在宅医療などを担当することもあります。

一方、やや大きめの病院では、病院総合診療医として、主に内科疾患の担当、救急患者の対応を行います。

総合診療専門医は、このようなさまざまな状況に適切に対応できるように専門的なトレーニングを受けた医師です。

ただ、役割が変わっても総合診療医に共通する姿勢は、1) 問診や身体診察を大切にし、できる限りそこから鑑別診断を挙げようとすること、2) 常に患者さんの背景や想いに思いをはせることだと言えるでしょう。

患者さんだけでなく、「地域の専門家」として診る

特に地域の診療所の総合診療医は、患者さんのみならず、地域をまるごと診るという視点で医療にあたっています。

ある地域に1000人の住民が住んでいるとして、その中で医療機関を受診するのは4人に1人ぐらいです。つまり、診療所や病院で待っていても、7割以上の住民と接すことはできません。その中には、病院へ行くほどではないが知らぬ間に病気を持つ方や病気予備軍の方がいるかもしれません。

そこで、受診していない方を含めた地域全体に健康増進活動などを広め、できる限り発病より前の状態でアプローチし、地域全体の健康レベルを上げることを目指しているのです。

「診断がついていない症例」に対する総合診療医の診察

診断がついていない症例については、しっかりとした問診と身体診察が重要です。同時に、患者さんが何を求めて受診したのかを把握することも必要です。

しっかりとした問診を元に鑑別診断を挙げて、身体診察で確認していきます。必要であれば、画像検査や血液検査を行います。

当院のケースでは、こうした問診と身体診察だけで、院外の消化器内科より紹介された原因不明の激しい腹痛が消化器領域の疾患ではなく、違う疾患であると診断がついたこともあります。

専門診療科では、それぞれの専門領域の疾患を中心に鑑別診断を挙げ、総合診療医は、フラットな状態で鑑別診断を挙げていく傾向があるかと思います。それぞれの専門性の違いですが、総合診療医が診断に早く到達できることもあります。

総合診療医に求められるもの

そうした総合診療医に求められるものは、まず効果的な問診を行うための問診スキル、それを元に広く鑑別診断を挙げられる知識、適切に身体診察を行える能力、さらに、最近は超音波検査を使いこなす能力も必要です。

そして、何よりも目の前の患者さんのニーズを把握して、何とかしてその患者さんの想いに応えるという熱い思い、診断がすぐつかなくてもあきらめない粘り腰が重要でしょう。

患者さんが訴える症状に対して、すべて診断がつけられるわけではありません。そのような際にも、安全に適切にフォロウアップを行い、少しでも納得が行くように説明できることも必要かと思います。

三重大学病院の総合診療科

大学病院における総合診療科の役割

大学病院の総合診療科では、診断が下っていない症例や専門診療科に分類できない疾患、あるいは複数の疾患があり、どれがメインかわからない患者さんへの対応などを行っています。

当科も院外から未診断の症例についての紹介を多くいただいています。

また、救急科で受け入れた患者さんのうち、専門診療科に分類できない場合も当科が受け入れています。

病院全体で見ると、専門診療科が専門臓器を突き詰めていく縦糸とするならば、総合診療科は横糸と言えるかもしれません。総合診療科があるから専門診療科の医師にはそれぞれの領域の医療により集中してもらえる。それにより、どのような症例にも対応できる強固な医療体制を作れると考えます。

「専門診療科が縦糸なら総合診療科は横糸」。横断的な視点で丁寧な問診や診察を行い、専門診療科につなげていくのも重要な役割だ。

三重大学病院の総合診療科での診療

当科では、平日は毎日、初診と再診の外来を行っています。

初診は紹介状が必要となりますので、まずは、お近くのかかりつけ医を受診していただき、必要があれば当院につなげてくれると思います。

診断やマネジメントが困難である症例を何とかするのが当科の役割です。少なくとも「それはうちの科ではない」という答えはありませんので、あらゆる症例に関してご相談いただければと思います。

かかりつけ医の先生からは「三重大学総合診療科に紹介してよかった。」、患者さんからは「三重大学総合診療科に来てよかった。」と感じてもらいたいです。

地域医療に不可欠な総合診療医の育成

私たち三重大学病院の総合診療科は、厚生労働省事業である「総合診療医養成事業」を推進し、総合診療医の育成にも積極的に取り組んでいます。

その一つとして、医学部入学後できる限り早期から総合診療に触れることができるように、総合診療サークルのような形でメンバーを集い、総合診療医の勤務する施設への見学などを行っています。

また、県内の総合診療医と協力し合いながら「三重総診」として 0ne Teamで一丸となり、社会からのニーズがますます高まる総合診療医の育成を進めているところです。

その人の暮らしや思いまでを大切にする地域のかかりつけ医として

当院や地域の病院、クリニックにいる私たち全ての総合診療医は、「地域の皆さんのかかりつけ医」として、どんな小さな心配ごとでも気軽に相談してもらえる存在でありたいと考えています。

また、病気を診るだけでなく、その人の暮らしや思いを大切にし、必要な支援につなぐ役目を果たしていきます。

これからも身近で信頼できる総合診療医として、地域に寄り添い続けますので、どうぞ安心してお声かけください。

三重大学病院 総合診療科
初診外来・再診外来(平日毎日)
初診には紹介状が必要で、完全予約制となります。

総合診療科
科長・教授 山本憲彦

三重県いなべ市北勢町阿下喜の出身。自由な休日にはジムで有酸素運動や趣味の一つである筋トレをしています。好物は、すき家の「納豆まぜのっけ朝食」(コスパ最高!)と寿司。日本酒や焼酎の他、スモーキーでビートがきいているウイスキーが好きなので、いつかアイルランドとスコットランドを訪ね、現地のウイスキーを飲みたいと思っています。

総合診療医になったのは、地域医療の向上も建学の精神に謳われている自治医科大学で学び、地域医療に携わる中で、患者を一人の人として関わることの楽しさに目覚めたこと、また、大学病院での消化器内科としての勤務を通じて、専門診療科の集まりのみですべてカバーすることの限界を感じたことがきっかけです。もともと、総合的に患者を診たり、ひとりの患者と深く関わることが好きなため、大学病院でその役割を果たそうと総合診療の道に入りました。

座右の銘は「気合と気概」。日々心がけていることは、患者さんには「来てよかった。」、他の診療科の先生方や病院には「総合診療科があってよかった。」、そして、研修医の先生や学生には総合診療の楽しさ、魅力を存分に伝え、「総合診療医になりたい!」と思ってもらうことです。

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