
令和6年度中部ブロックDMAT(災害派遣医療チーム)実動訓練に参加しました
多数の傷病者の発生が予想される災害時にできるだけ多くの命を救うためには、迅速な医療機関への搬送と適切な医療提供が求められます。しかし、地上インフラのダメージや交通網の混乱があれば、ドクターヘリ、あるいは自衛隊や消防機関のヘリコプターを活用した航空搬送が必要です。また、専門的な訓練を受けたDMATの出動や地域間連携がとても重要となります。
こうした状況を想定して、中部ブロック9県(富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県)のDMATが参加する「中部ブロックDMAT実動訓練」が毎年行われています。
1月31日~2月1日に行われた令和6年度の同訓練には、これら9県から113隊(609名)のDMATと23施設が参加し、南海トラフ地震の発生により伊勢志摩地域で多数の死傷者が発生した想定で、各県のDMATが緊密な連携を図り、被災地における病院支援、医療搬送、救急医療等を迅速に実行できるよう実践的訓練が行われました。
三重県からは15病院と8社会福祉施設が参加し、当院からは、以下の3班にDMATがそれぞれ1隊ずつ参加しました。
- 航空搬送現場で実働する班(広域搬送拠点臨時医療施設での訓練)
- ヘリコプターによる傷病者搬送の調整を担当する班(ドクターヘリ調整部での訓練)
- ドクターヘリの運行を調整する班(ドクターヘリ本部での訓練)
本訓練における当院各班のDMATの活動と後日行われた検証会について紹介いたします。
当日の訓練内容
1)広域搬送拠点臨時医療施設(SCU)での訓練

薬剤部 薬剤師 注射剤・製剤管理室主任
日本DMAT隊員、三重DPAT隊員
三重県災害薬事コーディネーター
PhDLSプロバイダー
森川祥彦
空港や学校の運動場などの広い場所に臨時の医療施設を設置し、傷病者を集めて病院へヘリコプターなどを使って搬送する拠点をSCU(Staging Care Unit:広域搬送拠点臨時医療施設)といいます。
今回は、伊勢市にある県営サンアリーナの広域防災拠点に臨時の医療施設を設置し、傷病者の受け入れや他の病院への搬送訓練を実施しました。医師や看護師は、搬送されてきた患者の治療や搬送に向けた調整を担当し、業務調整員は患者の情報管理を行いました。
SCUにはさまざまな傷病者が搬送されてくるため、患者の症状に応じた治療や搬送手段の選択、重症度の判断による搬送の優先順位付け、搬送患者の情報収集と整理など、すべて欠かせない重要な役割を担います。
今回の訓練では、自衛隊のヘリコプター(UH-1)を実際に使用し、模擬患者の搬送を行うなど、より実災害を想定した訓練を実施しました。訓練を通じて、出動時の準備を効率的に進めることの重要性や、隊員間の情報共有の必要性を改めて実感しました。
さらに今回は、日本DMAT隊員に加え、三重県内での活動を主とするL-DMAT(ローカルDMAT)隊員もチームの一員として訓練に参加しました。



2)ドクターヘリ調整部での訓練

高度救命救急・総合集中治療センター 助教
災害医療センター 副センター長
日本DMAT隊員、統括DMAT、DMATロジスティックチーム隊員
新貝 達
今回の災害訓練では、私はドクターヘリ調整部の本部長を務めました。ドクターヘリ調整部は、三重県DMAT調整部に紐づく組織として三重県庁内に設置され、災害時の航空搬送調整を担います。その下部組織として、ドクターヘリ本部が三重大学医学部附属病院内に設けられ、三重県のドクターヘリに加え、他県から支援に来たドクターヘリの運行管理を担当します。
では、ドクターヘリ調整部の具体的な役割とは何でしょうか?
災害が発生すると、県内のさまざまな機関から航空搬送の依頼が寄せられます。その窓口となるのが、ドクターヘリ調整部に設置された「災害時ドクターヘリホットライン」です。
寄せられた依頼を精査し、ドクターヘリで対応すべき事案については、ドクターヘリ本部へ指示を出します。しかし、航空搬送のニーズが非常に多い場合、ドクターヘリだけでは対応しきれません。その際、消防防災ヘリ、自衛隊ヘリ、警察ヘリ、海上保安庁ヘリなど他機関の航空機との調整を行うのも、ドクターヘリ調整部の重要な役割です。
また、ドクターヘリ調整部は、三重県災害対策本部の「航空運用調整班」としての機能も担っています。そのため、防災航空隊、自衛隊、警察、海上保安庁などの担当者と協力しながら、被災地の航空搬送を円滑に進め、一人でも多くの命を救うための指揮を執ります。
今回の訓練では、私自身のフライトドクターとしての経験を活かし、実践的な航空機運用の訓練を行うことができました。
また、この訓練を通じて、三重県内における航空搬送の課題も明確になりました。今後の災害対策にこれらの知見を活かし、より迅速で的確な救助活動が行える体制を整えていきたいと考えています。


3)ドクターヘリ本部での訓練

高度救命救急・総合集中治療センター 副センター長・講師
統括DMAT、DMATインストラクター、社会医学系災害医学会 専門医・指導医
石倉 健
この訓練では、ドクターヘリ本部は三重大学病院ドクターヘリ通信指令室の横に設置されました。ドクターヘリ本部では、三重県ドクターヘリに加えて他県から応援に来てくれたドクターヘリの運行管理を行います。平時と同様に消防からの要請へ対応することに加えて、ドクターヘリ調整部からの依頼に対しても対応していきます。
平時は、消防の方々にランデブーポイント(ドクターヘリ離発着場所)が着陸できる状態かどうかの確認、安全の確保、ランデブーポイントから病院までの移動手段の確保について対応していただいていますが、災害時には、消防の方々は救助活動や消火活動を優先して行わなければいけないため、ドクターヘリの受け入れに関わる様々な作業を病院側へ具体的に依頼することになります。よって、実際にはヘリポートがない病院への出動は困難となります。
その他には、給油場所、受入れ病院の調整、他のヘリコプターと事故にならないような運航管理が災害時の課題となります。今回は、災害時ドクターヘリ運用の経験がある指導者が来院され、様々な課題提示をしていただき災害時に向けた具体的な準備内容を考えることができました。
三重大学病院の機能が限定的となった場合も含めて想定し、準備をしていきたいと思います。

訓練後の検証会
薬剤部 薬剤師 森川祥彦
訓練日から1週間後、Webを通して中部ブロックDMAT実動訓練の全参加者による検証会が行われ、今後の課題について話し合いました。訓練の目的は、その実施場所によって異なるだけでなく、広範囲にわたる多数の機関が参加することで、立場や所属によって訓練の見え方や捉え方も変わるという特徴があります。そのため、訓練を通じて各参加者が抱いた課題を共有し、意見交換を行うことで、有事の際の実践へとつなげることを目指しました。
また、院内スタッフのみでの検証も、全体検証会の前後に実施しました。今回は、当院において日本DMAT隊員に加え、L-DMAT隊員が初めて参加したため、より多角的な視点から訓練を振り返ることができました。その結果、準備段階から当日の動きまで、多くの学びを得ることができ、今後の備えとして具体的な改善につなげることができました。

担当:災害対策推進・教育センター長 岸和田昌之
三重大学病院は、万が一の災害時に地域の救急医療を担う「災害拠点病院」に指定されています。
災害発生時に、災害による負傷者への対応だけでなく、入院患者さんの医療を継続するという複数かつ重要な役割を適切に実行できるよう、当院では平時から様々な取り組みと準備を行っています。
Online MEWS「医療と防災」では、当院の防災対策やみなさんに役立てていただける防災のヒントをお伝えしています。