健康一言アドバイス

難聴

「聞こえ」は、家族や友人、職場でのコミュニケーションに欠かせないものであると同時に、周囲の状況を把握するうえでも重要です。聞こえが悪くなる、つまり難聴になると、そうした日常生活に支障が出てしまうことになります。また、認知症を引き起こす要因にもなると言われています。
さらに、耳は大きな音にとても弱いため、大音量で音楽を聴くといった若い人にも難聴が見られるため、全年代で注意が必要です。
耳は一度悪くなると回復は難しいため、普段から大切にしたいものです。今回の健康アドバイスでは、耳を守り、良い聞こえを保つためのアドバイスを紹介します。

「聞こえ」は、コミュニケーションに重要です。会話によるコミュニケーションは、耳でことばを聞くことから始まります。耳でことばを聞いて、脳で考えて、ことばで返事をする、というのが会話のプロセスです。

ことばを聴き取る力は、使い続けることで維持されますが、聞こえが低下した状態(難聴)が長く続くと、聞こえないことに脳が慣れてしまい、活動が減って、低下してしまいます。そして徐々にコミュニケーション能力も衰えてきます。

コミュニケーションのためだけでなく、周囲の状況を把握するためにも、音というのはとても大切な情報源です。

たとえば、後ろから近づいてくる車や自転車に気付かず、びっくりしたことはないでしょうか。軽い難聴でもこのような重要な音が聞き取りづらくなってしまいます。

車や自転車に乗っている人は、歩行者の聞こえの状態が分かりません。車や自転車が近づいていることを分かっているだろうと思い込んでいることもあります。そのため、自転車が近づいていることに気づかない歩行者が、後ろから来ていた自転車と衝突してしまう、などの危険な状況が起こり得ます。

では、難聴とはどのようなものなのでしょうか。

耳は、外耳、中耳、内耳の3つの部分から成り立ち、それぞれが協力して音を脳に伝えています。また、耳には体のバランスを保つ三半規管も含まれています。

「難聴」は、耳のどこに問題が生じるかにより、「伝音難聴」と「感音難聴」の2種類に分けられます。

伝音難聴は、外耳や中耳に問題が生じ、その先の内耳に音が伝わりにくくなるもので、治療や手術で改善が可能な場合もあります。

一方、感音難聴は、内耳や蝸牛神経の問題で起こり、音を感じ取りにくくなるというものです。一部は治療可能ですが、進行すると回復が難しくなります。

40代ではあまり自覚がないかもしれませんが、60代になると軽度の難聴を自覚する人が増え、70歳を超えると中等度まで聴力が低下することが多くなります。こうした加齢による難聴を「加齢性難聴」と呼びます。

加齢性難聴は、加齢によって主に内耳の有毛細胞がダメージを受けることが原因で、高音域から聞こえにくくなるのが特徴です。

有毛細胞は音を感知し、増幅する役割を担っており、障害が生じると音の情報を脳にうまく伝えられなくなります。加齢性難聴は、老化による聴覚機能の低下であるため、根本的な治療法は存在しません。

重要なのは、できるだけ早い段階で補聴器などを活用し、聞こえを改善することです。これにより、言葉を聴き分ける力を最大限に引き出すことができます。

最近では、認知症と難聴の関連について高い関心が集まっています。

そのきっかけとなったのは、2017年、世界的な認知症の専門家たちにより、難聴が高血圧、肥満、糖尿病等とともに認知症の危険因子の一つであると発表されたことです。

その後、2020年に、世界的医学誌『Lancet』で発表された「アルツハイマー病協会国際会議」の総説では、認知症の要因として予防可能なもの12項目のうち、難聴が最も大きな危険因子であると指摘されました。(片側だけの一側性難聴や先天性難聴は対象外)。

なぜ、難聴が認知症の要因になり得るのか?最近の研究により、難聴のため脳に伝えられる音の刺激や情報量が少ない状態になると、脳の萎縮や神経細胞の弱まりが進み、それが認知症の発症に大きく影響することが分かってきました。

* Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission, The Lancet Journal. Vol.396 (10248), August 08, 2020

会話がはっきり聞こえない、周囲の音が聞こえにくいと感じたときに、音や声の聞き取りを改善するために使われる管理医療機器が「補聴器」です。類似の装置として集音器がありますが、これらは全く違うものです。

補聴器を使うタイミングは、年齢や職業などによりますが、自覚として、人と会話をしているときに相手の言っていることを繰り返し聞き返すことが増えたとき、また、家族など変化に気づきやすい周囲の人からの指摘として、「聞こえにくくなったのでは?」と言われるようになったときに、補聴器の使用を検討してみるのが良いでしょう。

補聴器の効果には個人差があります。自分に合ったものを選ぶには、事前に聴力検査を行い、実際に補聴器を試してみることが大切です。それにより、効果や必要性を判断することができます。

軽度の難聴であっても、早期に最適な補聴器を装用することで、補聴器による聞こえに早く慣れることができ、より効果的に使用することが可能です。

逆に、補聴器を使用せずにいる期間が長くなると、聞こえに関する機能が衰え、補聴器をつけた際の聞こえに慣れるのが難しくなってしまいます。

日本では、65歳を過ぎると難聴の割合が増加しますが、補聴器の所有率が上がるのは75歳を超えてからです。つまり、多くの人は難聴に気づき、不便を感じていても、補聴器の使用を先延ばしにしてしまっているのです。

何年も難聴による不便を我慢しながら生活するのは、とてももったいないことです。また、補聴器を装用せずに過ごすことで、さらに聴く力が低下してしまうケースも多く見られます。聞こえに不安を感じたら、できるだけ早く対策を講じることをお勧めします。

耳は、大きな音に対してとても弱いという性質があります。よって、日常的に長時間・大音量で音を聴くことを繰り返すことで、徐々に聴力が低下していきます。

加齢ではなく、こうした生活習慣が原因となる難聴の代表的なものが「イヤホン難聴」です。
正式には、「音響性聴器障害」といいます。「ヘッドホン難聴」や「スマホ難聴」などと呼ばれることもあります。

イヤホン難聴は、進行が緩やかなため、聴力が低下していることに気づきにくい傾向がありますが、一度悪化するとほとんどの場合回復が難しいです。

イヤホン難聴は、年齢や性別に関係なく、生活習慣により誰にでも起こり得ます。世界保健機構(WHO)によると、世界の若者の約50%が将来的に難聴になるリスクを抱えているとされています。

いわゆるイヤホン難聴の実際の原因はイヤホンに限りません。再生機器の種類に関わらず、長時間・大音量で聴くことが難聴の主な原因です。

新型コロナウイルスの影響で、難聴リスクが増加しました。たとえば、オンライン会議や授業が長時間化したり、換気による騒音のためにイヤホンの音量を上げてしまったりするケースが挙げられます。

最大の予防策は、大きすぎる音を聴くのはやめることです。

今、日本の小学生の50%弱、中学生の80%がスマートフォンを持ち、おおよそ半分の若者は危険な音で音楽などを聴いていると言われています。

世界保健機構(WHO)は、『Make Listening Safe』の中で、安全な音量を小児では75dB、成人では80dBとし、聴く時間をそれぞれ1週間に40時間まで抑えることを推奨しています。周囲の騒音より大きい音量で音を聴くと、聞こえていると感じる音は適度でも、耳への負担は増えています。

ノイズキャンセリング機能がついたイヤホンを使用すると、音量を上げすぎずに音を楽しむことができます。
また、耳も長い時間使ったら、休ませてあげましょう。イヤホンを使ったオンライン会議なら、1時間ごとに10分休ませるといいでしょう。

耳鼻咽喉・頭頸部外科
助教 坂井田 寛

Message

難聴にはいくつかのサインがあります。何度も同じことを聞き返したり、テレビの音が大きすぎると指摘されたり、騒々しい場面で周囲の人との会話を聞き逃したりすることはありませんか。
日常生活の中で聞きづらさを感じるのであれば、早めに耳鼻咽喉科へ受診し、聴力検査を受けることをおすすめします。

「健康一言アドバイス」では、医療や健康など皆さんに身近な疾患や気になる話題を取り上げ、その領域の専門家がわかりやすくお伝えしています。

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