
次世代のがん治療法の開発を目指して ― 複合的がん免疫療法の研究開発 ―
- 2025-2-21
- ミライの医療研究室
- #がん免疫治療, #個別化がん免疫治療学
今回は、免疫をテーマに次世代のがん治療法の研究開発を行う三重大学大学院医学系研究科「個別化がん免疫治療学講座」の宮原慶裕教授の研究室を訪ねました。がん免疫療法に関わる3つの領域で研究を進め、副作用が小さく、さらに治療効果の高い次世代のがん治療法、“複合的がん免疫療法”の実用化を目指しています。
がん免疫療法の開発は世界で注目され、様々なアプローチを用いた研究が行われていますが、その中でも、この研究室では、固形がんの表面に発現する分子を認識できる免疫細胞(TCR遺伝子改変T細胞)を使ったヒトでの臨床研究に本邦で初めて着手しました。また、悪性血液疾患に有効性が証明されているCAR遺伝子改変T細胞を、新たな仕組みで固形がんに応用した世界初の臨床研究をスタートさせています。
「今後10年以内には実用化を目指したい」と話す宮原教授。多くのがん患者さんに届けるには、できるだけ安価での供給も欠かせないとして、すでに製造システムも構築しています。

個別化がん免疫治療学講座 教授
宮原慶裕
がんと免疫細胞
私たちの体に備わっている病気に打ち勝つための免疫システムは、免疫細胞や病気に関する情報を体内で共有するための情報伝達機能などにより支えられています。がんにおいてもこの免疫システムが発揮されますが、多くのがん細胞は、免疫細胞から逃げたり、弱らせたりすることで、免疫力を従来通り発揮できないようにすることが知られています。
そこで、がんに対して免疫力が的確に、または強力に働くようにするがん免疫療法が登場しています。がん細胞が免疫細胞を弱らせないようにする「チェックポイント阻害剤」、特に免疫機能の強いT細胞という細胞を培養し、患者さんの体内に投与する「CAR-T療法」、あるいは、がんの抗原を持たせたワクチンを投与し、体内のT細胞の攻撃力を高めようとする「がんワクチン療法」などがその例です。
これらの治療法により多くのがんの治療効果が格段に高まってきていますが、まだまだがん免疫療法は発展の途上にあります。
個別化がん免疫治療学講座における4つの研究領域
宮原教授の「個別化がん免疫治療学講座」の研究室は、日本のみならず世界的ながん免疫療法の研究者として知られた故 珠玖洋教授の研究室を前身としています。
現在、この研究室で行われている研究の領域は、「がんワクチン」、「CAR(キメラ抗原受容体遺伝子改変)T細胞輸注」、「TCR遺伝子改変T細胞輸注」、「T細胞エクソソーム」という4つ。がんの原因となる変異遺伝子のメカニズムの解明に基づき、投与するワクチンやT細胞の遺伝子改変や作製の方法を開発しています。さらにこれらを組み合わせる“複合的がん免疫療法”を確立し、がんの根治やまだ治療法のないがんの治療に寄与しようとしています。

「治癒」を目指す臨床研究
複合的がん免疫療法は、患者さんごとにオーダーメイドで行う“個別化治療”を目指しています。
「がん」と一言で言っても、その種類や原因となる変異遺伝子、進行度などは患者さんごとに様々です。それぞれの症例に合わせて、がんワクチンに組み入れる抗原を変えたり、T細胞の遺伝子情報を変えたり、また治療法の組み合わせ自体を変えて、効果を最大化しようとしています。
マウスを対象としたこの複合的なアプローチの研究では、それぞれを単独で行った場合に比べて、治療効果が飛躍的に高まることが明らかになりました。より高い有効性を持つ遺伝子改変T細胞を開発するため、すでにヒトを対象とした試験の第一ステップとなる第一相試験も始まっています。また、併用することで治療効果が高まることが期待できる全く新しいワクチンの開発にも取り組んでいます。
実用化を目指して
研究室では、この複合的がん免疫療法を10年以内には確立したいと考えています。また、できるだけ安価に治療法を提供し、多くの患者さんが選択できるようにすることが実用化において不可欠だとし、すでに薬剤製造の設備や手法などの構築も進められています。
