最新のがん生存率
2026年に入って新たな「がん5年生存率」が国から発表されました。これは、2016年に導入された「全国がん登録」に基づくもので、これまでのデータに比べ日本のがん医療の実態をより示すものとして各方面で注目されました。また、いくつかの部位では生存率の改善が見られ、がん医療の進展を示すものとなっていました。
がんと診断されると、こうしたデータを参考にされる方も多いと思いますが、当院のがん支援センターの水野センター長は「がん5年生存率は、あくまでもがん医療の改善点を検討するものであり、必ずしも個々の患者さんの予後を予測するものではない」と話します。
最新のがん5年生存率のポイントと患者さんが見るときの留意点、そして改めてがんの発症リスクを減らすためのヒントなどを聞きました。

がん支援センター センター長
腫瘍内科 科長 水野聡朗
「全国がん登録」に基づく日本のがん医療の報告
2026年に入って、厚生労働省が『2018年全国がん登録5年生存率報告』*を発表しました。これまでの5年生存率のデータと違う点があるのですか。
2026年度に公表された“2016年~2018年のがんの5年生存率“の報告は、これまでの報告より日本のがん医療の現状を正確に反映していると思います。
その理由は、2016年1月に施行された「がん登録推進法」のもと、「全国がん登録」が開始されたことによります。
がん情報の元となるがん登録は、2015年までは病院単位で集計する「院内がん登録」と都道府県単位で行う「地域がん登録」が行われてきました。このうち「地域がん登録」では、患者さんが他県に転居すると、その後の情報が集められないため、“がんになってからどのくらい生存しているか”という生存率に関する情報を正確に把握できないケースが発生していました。
2016年から「地域がん登録」に代わって導入された「全国がん登録」は、全ての病院と都道府県が指定する診療所に対し、がん患者の情報の登録を義務付けた制度で、国がデータをまとめて管理することが可能になり、より正確ながん情報を集めることできるようになりました。
より現状を反映したものということでしたが、生存率自体はどのような内容になっていたのですか。
2018年の報告書によりますと、5年生存率が高い部位は、男性の場合、前立腺、甲状腺、皮膚、乳房、喉頭でした(図表1)。女性では、甲状腺、皮膚、乳房、子宮体部、子宮頸部、喉頭でした(図表2)。この傾向は2016年、2017年も同様でした。
一方、5年生存率が低い部位は、男女ともに、胆のう・胆管、膵臓でした。これらの部位では、早期診断が難しいことや治療法、特に他部位に比べて薬物療法の開発が遅れていることが影響していると思います。

*|―|は、95%信頼区間。幅が小さいほどグラフで示された数値の信頼性が高い。

生存率に改善が見られたものもありましたか。
2016年と2018年の生存率の比較では、多くの部位ではあまり変わっていませんでしたが、肺がん、膵臓がん、多発性骨髄腫で改善が確認できました。
それら改善の背景としてはどういったことが考えられるのでしょうか。
がん検診の普及、診断技術の向上、がん治療の成績向上が考えられます。
特に、今回の調査期間である2016年以降には、免疫療法、抗体-薬物複合体(ADC製剤)など薬物療法の領域で画期的な新薬が登場したことが大きいと思います。
免疫療法は、多くのがんで重要な治療薬となっていますが、特に肺がんで大きな成果を上げています。これが肺がんの生存率に改善が得られた理由の一つだと思います。
膵臓においては、薬物療法の改良が一因だと思いますが、診断技術の向上による早期診断例の増加も貢献していると個人的には考えています。
また、医療の世界でも人工知能(AI)は目覚ましい進歩を遂げています。現状では課題はありますが、画像診断支援AIなど診断技術の向上により、今後さらなる生存率改善につながると期待しています。
先ほど紹介のあった生存率の高いがんは、そうした治療法がすでに確立されているということなのですか。
生存率が高い理由は疾患により異なりますが、治療面では、もちろん放射線や薬が効きやすい、治療の選択肢が多いといったことが挙げられます。
ただ、生存率が高いがんは、必ずしも治療法があるということだけではなく、病気がゆっくり進行する、体の表面付近にあり、自己検診で見つけやすい、がん検診による早期発見がしやすいといった要因もあります。
つまり、高い生存率はがん検診の重要性を示しているとも言えます。がん検診の対象となっている部位については、ぜひ検診を受けていただきたいと思います。
生存率の報告書は個人のがんの予後を予測するものではない
がんと診断された時、生存率の情報はとても気になります。私たちはこうしたデータをどのように受け止めればいいのでしょうか。
5年生存率を含めたがん登録で得られる情報は、国、地方自治体、病院などが、がん診療の問題点を抽出し、改善策を検討するために活用するものです。公表されている報告書を見ていただくとわかりますが、個人が活用にすることを想定してまとめられたものではありません。
もし、参考にされる場合には、ある程度の知識を持って見ていただくと良いと思います。
どういった知識が必要なのですか。
まず知っておいてほしい点として、5年生存率は「個人のがんの予後を予測するものではない」ということです。あくまで、「ある時期にがんになった“患者集団”のうち5年後に生存している“割合”」を示しているものだからです。
もう一つ重要なのは、“最新”と言われる2018年のデータでも5年以上前に病気になった患者さんたちのデータだという点です。その間には、診断技術や治療法において進歩を遂げていますし、いくつかの部位では実際に生存率は改善しています。
個々人に当てはめて考えない、ということなんですね。
そうです。
そうわかっても、がんに罹患、特に5年生存率が低いがんと診断された時、患者さんがデータを見ればかなり動揺されると思います。そのような場合でも、データに振り回されることのないようにしてください。
もし「数値とどのように向き合ったらよいのか」と不安になったら、一人で悩まず、主治医やがん相談支援センターのスタッフなどに相談してほしいと思います。
このOnline MEWSでもいろいろながん発症リスクの低減が期待できる生活習慣などをご紹介してきましたが、今回、統括として改めてアドバイスをお願いします。
がんという病気は、人体の設計図である遺伝子に傷がついて、遺伝子に変化が起きることで発症します。遺伝子に傷がつく原因には、加齢、遺伝的要因、環境要因などがあります。環境要因としては喫煙、放射線、化学物質、飲酒、ウイルス感染などが知られています。
がん予防について、まず個人で取り組むべきことは、環境要因の排除ではないかと思います。
喫煙に関しては、禁煙または分煙が社会でもかなり浸透していると思います。その一方で、飲酒については多くのがんのリスク因子でありながら、がん予防の観点からは対策が遅れています。
そんな中で、2024年に「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」(厚生労働省)が公表されたことは、とても重要な一歩と考えています。ガイドラインを参考にして、ご自身の健康管理に役立てていただきたいと思います。
また、冒頭でもお話した通り、多くのがんにおいて早期発見がとても重要です。ぜひがん検診を活用ください。


がん支援センター センター長
腫瘍内科 科長 水野聡朗
名古屋市出身。大学卒業後は消化器内科医としてキャリアを開始しましたが、卒後5年目に研修に行った国立がん研究センター中央病院で腫瘍内科学を学ぶ機会に恵まれ、それを機に腫瘍内科医に転向しました。
日頃の診療では、病気の性質や患者さんの希望に沿った「個別化治療」の実践を心がけています。






