肺がんに対するRFA(ラジオ波焼灼療法)
転移性がんや高齢者の治療にも繰り返し実施可能
三重大学病院の放射線科では、IMRT(強度変調放射線治療)やSRT(定位放射線治療)、⼩線源治療など、効果の最大化と副作用の低減化を両立した最新の放射線治療を行っています。
そして、放射線科がもう一つ積極的に取り組んでいるのが、RFA(Radiofrequency ablation:ラジオフリークエンシー・アブレーション/ラジオ波焼灼療法)です。体外から刺した細い針でがんを焼いて退治するもので、患者さんの身体的負担が軽く、繰り返し実施できるなどの利点から、特に転移性の肺がんなど、複数回の治療が必要となる場合に有効な選択肢になっています。
中心に取り組むのは、がんの位置や状態を正確に把握する画像診断技術と針やカテーテルを用いた治療技術の両方が求められるIVR(画像下治療)チーム。RFA治療の特徴や事例の多い肺がんでの適応について、山中隆嗣助教に聞きました。

放射線科 IVR部門
助教 山中隆嗣
RFA治療とは
RFA治療とはどういったものなのですか。
RFA治療は、CT画像を使って腫瘍の位置を確認しながら、直径1.5mm程度の細い電極針を腫瘍に穿刺し、約500kHzのラジオ波を通電して、腫瘍に熱を加えることで凝固壊死1させるものです(図1)。
焼灼は、腫瘍とその周り数mm程度の安全域を含む部分が範囲となります。例えば1cmの腫瘍を治療する場合には2cm程度を焼灼します(図1③)。安全域が少ないと腫瘍細胞が遺残し、再発のリスクとなります。
腫瘍を含めて凝固壊死した組織は、体内に残り、時間と共に縮小していきます。火傷した後の硬い瘢痕や傷跡のイメージです。
1.凝固壊死(ぎょうこえし):熱により細胞のタンパク質が変性することで、細胞の機能が失われ、再生できない壊死した状態になること。



図表1:肺に対するRFAのCT(右側を向いて横になった右側臥位での撮影)
RFA治療の主な利点は何ですか。
RFA治療の場合、通常、局所麻酔下で実施でき、3mm程度の傷口のため、患者さんの身体的負担が少なく、治療後の回復が早いことが最大の利点と言えます。
例えば、高齢者など心機能や呼吸機能が低く全身麻酔自体がリスクとなる場合、肝硬変や維持透析中などで大きな侵襲がリスクとなる場合、呼吸機能や肝臓の予備能を温存したい場合など、外科的切除が難しい、あるいは躊躇される場合にRFAが良い選択肢となります(図表2)。
局所麻酔下で実施可能
傷口は3㎜程度と小さく、
低侵襲腫瘍をピンポイントで焼灼

- 高齢者など全身麻酔がリスクとなる患者さんにも適応可能
- 肝硬変や透析中など侵襲性の高い治療が難しい患者さんにも適応可能
- 身体的な負担が少なく、治療後の回復が早い
- 呼吸機能や臓器の予備能の温存が可能
図表2:RFA治療の主な利点
具体的には、どういったがんが対象になるのでしょうか。
まず、現時点でRFA治療が保険適用になっているのは、肝臓、肺、腎臓、骨軟部、乳腺の悪性腫瘍、類骨骨腫です。
このうち肝臓と腎臓では、外科的切除と同じようにRFAが選択肢として検討されます。一方で、肺、骨軟部、類骨骨腫では、標準治療としての外科的切除、放射線治療、薬物療法が不適、あるいは不応2の場合に適応となります。
当院の場合、肺、腎臓、骨軟部、類骨骨腫は当放射線科、肝臓は消化器肝臓内科と当科、乳腺は乳腺センターで行っています。
2.不応:治療を受けていても効果が乏しく、腫瘍が増大する状態のこと。
腫瘍の大きさなどが適応かどうかの判断基準になることもありますか。
腫瘍サイズは、通常、肝臓の場合は3cm以下、腎臓で4cm以下、肺では2.5cm以下であればRFAの適応となります。骨軟部腫瘍については、サイズの制限はありません。
腫瘍の個数については、肝臓では通常3個までであればRFAの適応と考えますが、その他の臓器では制限はありません。
また、原発性・転移性のどちらも適応となり得ますが、病変が全身に広がっている場合には全身治療となる薬物療法が適している場合があります。
ただ、多発転移であっても、“出現してくる腫瘍の数”よりも“治療できる数”が上回る、つまり、治療により腫瘍の数が減っていくことが予想できれば適応となります。
その場合は、腫瘍自体が重要臓器に隣接・近接していないこと、安全な穿刺ラインが取れることなどの判断が必要となるので、CTや呼吸機能検査、臨床経過など含めて、関連診療科との協議の上、総合的に判断します。
| 部位 | サイズ | 腫瘍の数 | その他 |
| 肝臓 | 3㎝以下 | 3個 | 標準治療として検討可 |
| 腎臓 | 4㎝以下 | 制限なし | 標準治療として検討可 |
| 肺 | 2.5㎝以下 | 制限なし | 手術、放射線治療、薬物療法が不適あるいは不応の場合に検討可 (その他の条件については図表4を参照) |
| 骨軟部 | 制限なし | 制限なし | 手術、放射線治療、薬物療法が不適あるいは不応の場合に検討可 (*類骨骨腫自体が通常2cm以下、1個のため) |
| 類骨骨腫 | 2cm以下* | 1個* |
肺がんに対するRFA
RFAは、肺がんにおいても有効な治療選択肢になるようですね。
がん診療の世界的な権威のある臨床指針のひとつで、米国の主要ながんセンターによって策定されているNCCNガイドライン(National Comprehensive Cancer Network Guidelines)では、原発性非小細胞肺癌(扁平上皮がん、腺がん)のうち、直径3cmまでの原発巣で、リンパ節転移や遠隔転移のない場合にRFAの適応としています。
ただ一般的には、原発性肺がんの場合、初回は外科的切除が検討されることが多いです。それは、原発性の肺がんが転移性のものと比べてリンパ節転移の確率が高いため、切除が優先されることや、呼吸機能に余裕があることなどが理由です。
肺がんに対するRFAの主な適応条件
- 腫瘍の直径が2.5cm以下
- 外科的切除に不適・不応
- 重度の呼吸機能障害がない
- 原発性肺癌の場合は、非小細胞肺癌でリンパ節転移がない
- 転移性肺腫瘍の場合は、原発巣や肺外病変が制御されている
- 縦隔浸潤がない
- 肺病変を治療することで予後延長が期待できる
- 抗血小板薬・抗凝固薬の休薬・中止が可能または、許容されること
- 間質性肺炎の罹患歴がない
- 肺に対する放射線治療歴がない
図表4:肺がんに対するRFA治療の主な適応条件
RFAは、原発性でも2回目以降の治療、あるいは転移性である場合の選択肢として優先的に検討されやすいということですか。
その通りです。肺は、治療範囲の大きさと呼吸機能の損失が比例しますので、原発性肺がんの再発の場合、つまり2回目以降の治療の際には、呼吸機能の余裕が少なくなっています。また、術後の癒着で外科的切除が難しくなるケースもあります。
しかし、その点RFAの大きなメリットは、呼吸機能への影響が少なく、繰り返し治療を行えることですので、2回目以降に採用できます。
同時にこのRFAのメリットは、転移性の肺がんでさらに有効です。なぜなら、転移性の肺がんは数が多く、再発を繰り返しやすいため、複数回の治療が必要になる場合が多いからです。
また、リンパ節転移の確率が低く、必ずしも切除が優先ではないこともRFAが選択されやすい背景として挙げることができます。
呼吸機能への影響が少なく、繰り返し治療ができることが、特に転移性の肺がん治療にいかされているのですね。
RFAの平均的な治療範囲は、1か所あたり3 x 2x 2cmのラグビーボール状の大きさとなるため、呼吸機能への影響は、理論上、体積で10mL未満の呼吸機能を失う程度です。これは肺全体から見ると小さい範囲です。元々の呼吸機能にもよりますが、数年かけて数十個の治療を行った患者もおられます。
最近では、がんの転移巣が少数にとどまっている場合は、従来の全身治療に加え、転移がんに対する局所治療を追加することで、より高い効果が期待できると言われてきています。
転移の場合は、治療後に新しい病変が出現してくる可能性がありますが、そういったときにも、呼吸機能を温存できるとともに、治療後の回復が早く繰り返し治療が可能なRFAが、外科的切除に比べても適応範囲が広くなります。
治療効果は腫瘍によって異なりますが、治療してからの一定期間に治療した病巣に再発が見られない人の割合(局所制御率)は95%前後です。

治療効果についてもう少し教えてください。
転移性肺がんの場合には、原発がどこかによって異なりますが、大腸がんから肺に転移したがんに関する当院を中心とした前向き臨床試験のデータでは、切除可能な3cm以下、5個以内の肺転移に対してRFAを行った場合、3年全生存率が84%とかなり良い結果でした3。
NCCNのガイドラインでも、大腸がんの肺転移に対しては、外科的切除との組み合わせを含めて、すべての肺転移を治療できる場合にRFAが適応であるとされています。
他の腫瘍でのデータは少ないですが、当院の骨軟部腫瘍の肺転移に対するRFAの後ろ向き試験でも、すべての肺転移を治療した場合に予後が延長したと報告されています4。
3.Hasegawa T, Takaki H, Kodama H, Yamanaka T, Nakatsuka A, Sato Y, Takao M, Katayama Y, Fukai I, Kato T, Tokui T, Tempaku H, Adachi K, Matsushima Y, Inaba Y, Yamakado K. Three-year Survival Rate after Radiofrequency Ablation for Surgically Resectable Colorectal Lung Metastases: A Prospective Multicenter Study. Radiology. 2020 Mar;294(3):686-695.
4.Nakamura T, Matsumine A, Yamakado K, Matsubara T, Takaki H, Nakatsuka A, Takeda K, Abo D, Shimizu T, Uchida A. Lung radiofrequency ablation in patients with pulmonary metastases from musculoskeletal sarcomas [corrected]. Cancer. 2009 Aug 15;115(16):3774-81. Erratum in: Cancer. 2009 Sept 1;115(17):4041.
どれくらいの頻度で実施可能なのですか。
同時に両肺のRFAはできないため、片肺ずつの治療となりますが、頻度としては、1週間に1回、1回の治療で最大3個まで可能です。
複数の治療を行う場合には、2週続けて行うことはありますが、それ以上になると1~2か月間隔を空けて行うことが多いです。
また、入院期間は1回の治療で1週間を基本としています。
治療に伴う痛みはあるのでしょうか。
肺RFAは、他の臓器と同様に局所麻酔で実施します。ラジオ波の通電中に温度上昇に伴って痛みが生じますが、鎮痛剤の点滴によってコントロールできます。
また、RFAによる代表的な合併症としては、気胸が挙げられます。肺は風船のように膨らんだり、縮んだりすることで空気の交換をしています。そこに針を刺すと、空気が漏れて、肺が萎んでしまうために起こります。
漏れた空気が多く、肺が大きく萎むような中等以上の気胸は20~30%程度の頻度で起こります。中等以上の症状がある場合には、漏れた空気を抜くためのチューブを穿刺し留置しますが、通常は数日~数週間で自然治癒します。

三重大学病院における肺がんRFA治療体制
三重大学病院は、20年以上前からRFA治療に取り組んでいますね。
肝臓に対するRFAは2004年から、肺、腎臓、骨軟部に対するRFAは2022年から保険収載されましたが、当院ではそれに先駆け2002年から自由診療を含めてRFAを行っています。
これまで、肝臓2,000件以上、肺2,000件以上、腎臓300件以上、骨軟部500件以上と、国内でも有数の実績があります。
肺だけでなく、肝臓や腎臓など幅広い領域でも実績がありますが、どういった体制で行ってきたのですか。
当院は他の診療科との垣根が低く、RFAの適応について気軽に相談をいただけることが大きいです。
例えば、院内で月2回の呼吸器検討会、月2回の消化器・肝臓内科検討会、月1回の骨軟部腫瘍検討会に放射線科も参加していて、定期的にRFAの相談をし合える体制となっています。
また、この治療の利点や当院の治療成績などをご存じの院外の先生からもご紹介を受けることも多いです。
多くの経験・ノウハウは安全に効果的な治療を行う上で重要です。これまでの実績や経験への評価がさらに新たな実績・経験の蓄積につながっていると感じます。

写真前列左から)梅田由美看護師、藤森将志医師、粉川嵩規医師、山岡尚代看護師
後列左から) 大森祐樹医師、山中隆嗣医師、加藤弘章医師、松下成孝医師、山﨑暁夫診療放射線技師
最後に患者さんにメッセージをお願いいたします。
RFAの適応は、専門医による判断が必要となるため、かかりつけの病院でRFAを実施していないと選択肢にも挙がらないこともあると思います。
その場合には、一度主治医の先生にRFA、外科的切除、放射線治療による局所治療の適応についてご相談してみてください。局所治療の適応があれば、当科にご紹介いただくことで最も適した治療を検討し、提供できると考えています。
また、今回ご紹介したRFA以外にも、三重大学病院の放射線科で行っている局所治療として放射線治療があります。当院の放射線治療は高精度治療の割合が高く、安全で、正確で、効果の高いものです。放射線治療や外科的切除を含めて最も適した治療を提供できるように診療を行っていますので、ぜひ当科にご相談いただきたいと思います。

放射線科 IVR部門
助教 山中隆嗣
研修医のときにRFAの魅力や三重大学病院の実績を知り、先輩医師の話や手技を実際に見聞きする中で、その低侵襲性や治療効果に魅せられて、放射線科医を目指すことにしました。入局後から現在まで三重大学病院でRFAを実施していますが、論文などのデータや臨床における多数の経験を通じて、RFAの魅力を再認識しています。偶然ですが、出身大学だったことが良い巡り合わせとなりました。
腎細胞がんに対するRFA治療については、「Cancer MEWS 腎機能温存を目指す腎細胞がん治療」もご参照ください。
(このページでは、RFA治療を「アブレーション治療」と表記して解説しております。)






