不安行動を軽減させる腸内細菌の追求
第1回目の今回は、三重大学医学部医学系研究科の島田康人講師が、同教育学部理科教育講座の市川俊輔准教授、同大学院地域イノベーション学研究科の臧黎清特任講師とともに取り組んだ、腸内環境が行動に与える影響についてです。
島田講師は、本学にある「次世代創薬ゼブラフィッシュスクリーニングセンター」の代表を務めており、ゼブラフィッシュというメダカほどの小さな魚をモデルとした世界トップクラスの研究を行い、新たな治療法や治療薬の開発につなげようとしています。
脳と腸が互いに影響し合っている「脳腸相関」
私たちの腸内には多種の細菌が存在しており、その多様性の乱れはいろいろな疾患に関わることがわかっています。その一つとして、腸と脳も相互に影響を及ぼしていることが知られており、この関係は「脳腸相関」とよばれています。
そこで、本研究は、モデル動物であるゼブラフィッシュを用いて、脳の機能に大きな影響を与え、抗不安作用(不安や緊張を和らげる作用)を持つアミノ酸の一種「脳内タウリン」の増加促進につながる腸内細菌の解明を進めました。
Paraburkholderia属のP. sabiae細菌に注目
プロバイオティクスとして知られる乳酸菌など、腸内細菌の働きが不安行動の軽減に作用している事例はいくつか報告されています。
本研究では、昆虫からヒトまで幅広い動物の腸内に存在するものの、あまり解析が進んでいなかった細菌Paraburkholderiaに着目。Paraburkholderia属の細菌P. sabiaeを投与した水槽でゼブラフィッシュを飼育し、様々な方面から脳腸相関の解析を進めました。
その結果、この細菌がタウリンの代謝を活発化させ、行動観察でもゼブラフィッシュの不安行動が軽減していることがわかりました。
精神疾患の治療につながる腸内細菌を突き止めたい
本研究での知見をもとに、不安軽減に効果があるヒトの腸内細菌をさらに見つけ、将来的にはそれらを体内で増やす方法を開発することで、不安神経症などの精神疾患への貢献を目指します。
本研究の成果は、微生物学の研究をテーマにしたオンライン科学誌『Frontiers in Microbiology』(Frontiers Media SA 社)にて、2023年2月16日、世界に公開されました。
この研究についてより専門的に説明したニュースリリースもあります。
腸内細菌 Paraburkholderia sabiae により、脳でのタウリン濃度が上昇し不安行動が軽減される