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腫瘍病理学 坂本 新教授

「腫瘍病理学」とは、その名の通り腫瘍を細胞レベルで解析し、発症の原因や進行のメカニズムなどを明らかにしようとする医学研究分野の一つです。がん診療の現場では、「病理診断」として、腫瘍の性質(良性・悪性)や種類の診断、その結果に基づく治療方針の決定など、なくてはならない機能となっています。

三重大学医学部でも腫瘍病理学は歴史と活気のある講座の一つ。そこに今年8月1日付で坂本直也 新教授が就任しました。伝統を受け継ぐとともに、最新の解析技術やAIなどを取り入れた次世代の病理学や病理診断への発展に向けどんな抱負を抱いているのでしょうか。
それ行け!三重大学病院。それ行け!腫瘍病理学 坂本新教授。新たな診断法や治療法につながる病理学の教育・研究を進めるために。

三重大学医学部 腫瘍病理学
教授 坂本直也

まずは、腫瘍病理学講座の教授就任に際しての抱負をお聞かせください。

長い歴史と伝統を有する本講座をお預かりすることになり、その責任の重さに身が引き締まる思いです。伝統を継承しつつ、時代の潮流に合う教育・研究の場を作り上げていく所存です。

“時代の潮流に合う”というのは、病理学の世界もいろいろと変化しているのですか。

そうなんです。病理学は疾患の形態を観察する学問として発展してきましたが、現在では分子病理学、がんゲノム医療、デジタルパソロジー*、AIなどを取り込みながら、大きく変化しています。

一方で、どれほど技術が進歩しても、患者さんの組織を丁寧に観察し、そこから病態を考えるという病理学の原点は変わりません。

部分的に見るのではなく、形として表れている結果と遺伝子や分子レベルで起こっている異常の両方を見ることが重要です。

私はこの“形態と遺伝子・分子異常を包括して病態を理解する姿勢”を三重大学腫瘍病理学の研究・教育・診療の中心に置きたいと考えています。

*デジタルパソロジーとは:
従来は顕微鏡で観察・解析していた対象物をスキャンして高解像なデジタル画像として取り込み、PC画面などに表示させて解析する技術。

そうした抱負のもと、特に力を入れていきたい取り組みなどはありますか。

第一に、病理形態学を基盤とした新しい腫瘍研究の展開です。

近年、細胞の状態や遺伝子関連情報を網羅的かつ複合的に観察や解析ができる技術が急速に進歩しています。専門的には、空間トランスクリプトーム解析と呼ばれる技術で、非常に膨大な情報が得られるようになりました。

そこで病理学が果たすべき重要な役割は、遺伝子・分子の異常を実際の組織形態や細胞の局在、がん細胞を取り巻く環境(腫瘍微小環境)と結びつけて理解することです。

それにより腫瘍の発生・進展、治療抵抗性などの機序を明らかにし、新たな診断法や治療法につながる研究を推進していきたいと考えています。

二つ目は、次世代を担う人材の育成です。

学生には、病理学を単に疾患名や組織像を覚えるものではなく、「なぜこのような形態を示すのか」「この形態からどのような病態が読み取れるのか」を考える魅力ある学問として伝えていきたいと思います。

また、若手医師や大学院生が自ら疑問を見いだし、それを研究へと発展させ、国内外に発信できる力を身につけられる環境を整えていきます。

さらに三重県内の医療機関との連携を大切にしながら、地域の病理診断を支える人材の育成にも取り組んでいきます。

これらを実現するために最も大切なのは、教室員一人ひとりがそれぞれの能力を十分に発揮できる教室をつくることだと考えています。

若手の先生が自由に意見を述べ、新しいことに挑戦できること、多様な専門性や価値観を互いに尊重できること、そして教育・研究・診療にやりがいを持って取り組めることを大切にしたいと思っています。

研究や教育以外に、病理専門医として附属病院で臨床にも関わられるのですか。

はい。三重大学病院の病理診断科で診断業務に携わる機会もいただいています。

病理診断は、がん診療においては、確定診断から治療方針の決定、さらには分子標的治療やがんゲノム医療に至るまで、臨床を支える重要な役割を担っています。その意味では、病理医も診療チームの一員として患者さんの治療に深く関わっていると思っています。

臨床においても取り組んでいきたいと考えられていることがあるのでしょうか。

先ほど研究と教育の面で取り組みたいこととして二つお話しましたが、まさに三つ目として考えていることが研究成果を診療へ還元するということです。

特に消化管がんを中心とした病理診断と研究の双方に携わってきた経験を生かし、臨床各科や病理部との連携を一層深め、新しい解析技術を積極的に取り入れながら、研究から得られた知見を患者さんの診断・治療へ還元していきたいです。

また、臨床の先生方との連携を大切にし、病理標本を臨床情報や画像所見と照らし合わせながら検討することで、診断の精度を高めるだけでなく、そこから新しい研究課題が生まれる契機になると考えています。

ご自身の研究としては、消化管病理を中心にされてきたのですね。

先ほども少し触れましたが、私自身は、主として胃がんや大腸がんなどの消化管がんを対象に病理形態学と分子生物学を融合した研究に取り組んできました。

病理医は、日々、患者さんから採取された組織を顕微鏡で観察していますが、一つひとつを丁寧に観察すると、同じ病名であったとしてもその形態や細胞の性質、周囲の組織との関係は決して一様ではありません。

私は、病理診断の現場から生まれる疑問を研究につなげることを大切にしてきたのですが、その中で力を入れてきたのがオルガノイドを用いたがん研究です。

オルガノイドというのは、患者さんのがん組織の特徴をある程度保ちながら、研究室内で三次元的に培養できるモデルです。私は胃がんや大腸がんのオルガノイドを用いて、特にがん幹細胞や抗がん剤に対する耐性獲得の仕組みについて研究してきました。

がん治療では、当初はよく効いていた抗がん剤が次第に効かなくなる「薬剤耐性」が大きな問題となります。そこで、がん細胞が治療という環境変化にどのように適応し、生き残っていくのかを、オルガノイドと遺伝子発現解析などを組み合わせて明らかにしようとしてきました。

今後は、三重大学を拠点にして、これまで培ってきたオルガノイド研究や最新の分子解析技術などを従来の病理学に深く融合させ、治療抵抗性を予測するバイオマーカーや新しい治療標的の発見につなげる研究や、遺伝子や分子の視点からがんの発症や進行のメカニズムを統合的に理解する研究を続けていきたいと思っています。

ところで、今回の教授就任に伴い、千葉から三重に移住されたとお聞きしています。三重県や三重大学病院の印象はいかがですか。

三重県に赴任してまず感じたのは、自然や歴史、文化に恵まれた非常に魅力的な地域だということです。海と山の両方が身近にあり、食にも恵まれていますし、伊勢神宮をはじめとして長い歴史と文化が生活の中に息づいていることも大きな魅力だと感じています。

大学がある津市も県庁所在地でありながら落ち着いた雰囲気で、生活しやすい街だという印象です。実際に生活を始めてみて、人と人との距離が近く、温かく迎えていただいていてありがたいです。

それから、三重大学病院については、三重県の医療を支える中核的な存在であることを再認識しています。

高度な専門医療を提供する大学病院であると同時に、県内各地域の医療機関と密接につながり、地域医療を支える人材を育成するという重要な役割を担っています。診療科や職種の垣根を越えて連携しようとする姿勢も印象的です。

では、教育や研究で関わる学生さんや若い医師の方々に何かメッセージを。

まず、これから病理学を学ぶ学生さんや若い医師・研究者の皆さんには、病理学は「病気の名前を覚える学問」ではなく、「患者さんの体の中で何が起きているのかを考える学問」であるということを伝えたいと思います。

顕微鏡で一枚の組織標本を観察すると、そこには非常に多くの情報があります。細胞の形や並び方、周囲の組織との関係を丁寧に観察し、「なぜこのような形になっているのだろう」と考えることから、新しい発見が生まれます。

現在の病理学は、様々な新しい技術と結びつき、大きく発展しています。若い皆さんには、こうした新しい技術にも積極的に挑戦してほしいと思います。同時に、技術そのものを目的にするのではなく、患者さんの組織をよく見て、そこから問いを見つけるという病理学の原点を大切にしてほしいと思っています。

最後に、病理診断を通じて関わる患者さんに向けてもメッセージをお願いします。

患者さんやご家族のみなさまは、病理医や病理学研究者の姿を直接目にする機会は少ないかもしれません。

私たちの使命は、一つひとつの組織を正確に診断することはもちろん、そこから病気の仕組みを学び、より良い診断法や治療法につなげることです。この使命の下、これからも日々、患者さんから託された組織と向き合っていきたいと思います。

三重大学医学部 腫瘍病理学
教授 坂本直也

生まれも育ちも広島県で、広島大学医学部を卒業後、広島県呉市の呉医療センターで初期研修を行い、大学院に入学して病理医としてのキャリアを開始しました。学位取得後はミシガン大学に留学し、帰国してからも母教室で助教として仕事をし、国立がん研究センター・国立がん研究センター東病院に異動しました。

休日の一番の楽しみと言えば、最近は2人の息子達のサッカー観戦です。それ以外にはよくランニングやジムで筋トレをしています。今年末の松阪マラソン(フルマラソン)にエントリーしたので目下調整中です。
広島にいた時には魚釣りもしていたので、三重でも時間を見つけて行きたいと思っています。

医療スタッフや事務職員、外部委託のスタッフを含め、三重大学病院の日々の運営に携わるのは、総勢約2500人。表から、裏から様々な形で関わるその一人ひとりの力や想いが、平常通りの診療を支えています。
安全な診療、優れた診療、質の高い診療、いずれも技術や設備だけでは成し遂げられません。
VOICEのコーナーでは、いろいろなスタッフの声を通して、三重大学病院の診療に欠かせない「人」としての側面をお伝えします。

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