取り組み

院内学級-入院中も学習の継続を支える取り組み

みなさんは、三重大学病院の中に「学校」があることをご存じでしょうか。それは、「院内学級」と呼ばれる、入院中の子どもたちが通う学校です。院内学級には学校の先生がいて、小学校から高校までの授業に対応しています。学びの機会を途切れさせないということは、子どもたちにとって様々な意味があるようです。
当院の院内学級の教員であり、医療連携コーディネーターとしても活動する小林裕美子先生にその取り組みについてご紹介いただきます。そして、小児科の平山科長からのメッセージも。
それ行け!三重大学病院。それ行け!院内学級。子どもたちに将来の希望となる学びの機会を届けるために。

三重県立かがやき特別支援学校
本校 院内教室
医療連携コーディネーター
小林裕美子さん

院内学級とは

治療中も豊かな成長を支援する院内学級

三重大学病院の院内学級は、小・中学生を対象として平成8年度にスタートし、今年で28年目を迎えました。入院している子どもの学習を保障する場として、病気の治療中であっても安心して学び続けることができる環境を整え、その子らしく、願いや目標を持ち、豊かに成長していくことを支援するのが役割です。

子どもたちは、入院するときに主治医の判断のもと、在籍校から三重県立かがやき特別支援学校に転校し、入院生活中はこの院内学級で学習します。

令和4年度には、高等部普通科も設置されました。教育内容は、それぞれの校種のカリキュラムに準じており、高等学校2年次以降は、理系・文系各コースに分かれ、大学受験にも対応しています。
ここに在籍しながら大学入学共通テストおよび前期入試を受け、見事、国公立大学に合格し、もとの高等学校卒業式に出席した生徒もいます。

医療チームと教育チームの連携

現在院内学級に駐在する担当教員は、小学校免許、中学校・高等学校各教科免許、特別支援学校免許などを保有した8名です。

運営においては、病棟師長、CLS(チャイルドライフスペシャリスト)を窓口に、医療チームと日常の連絡相談を丁寧に行っています。
また、月に一度、「医教連絡会」を開催し、小児科病棟医長、子どもの入院している各病棟師長、CLS、小児・AYAがんトータルケアセンターの方々とともに、一人ひとりの院内学級での様子や医療情報を共有するなど、全体を通じて多職種でチームワーク良く連携しています。

「教育は治療へのエネルギーです」と医療チームに言っていただいています。その中で、医療チーム、教育チームの両者で工夫していることの一つが、治療状況に基づいて、授業が子どもたちを勇気づけられるようにすることです。

小学校から高校までの授業に必要な教材やツールが揃えられている院内学級

それぞれの子どもに合わせた授業

では、子どもたちはどのように院内学級で学んでいるのでしょうか。

小中学部の子どもたちは、付き添っていらっしゃる保護者に病棟から30mほどの院内学級まで送迎してもらって通学します。その際、教員は保護者から本人の状態、治療の見通しを聞き取り、教員からは学習状況や元の学校との連絡状況をこまめに伝えています。
状態によっては、ベッドサイドで授業をすることもあります。

ほぼ1対1での個別授業になりますが、音楽や図工、行事など、学習の内容により合同授業を実施します。また、在籍校と結んだオンライン授業も取り入れています。

治療中は制限が多く、体調不良や薬によっては精神的にもかなり落ち込むことがあります。そこで、子どもたちが前向きに参加できるように、三重大学生物資源学部の出前授業、Hondaのダンボールクラフト、三重県立美術館やコンビニエンスストアなどから外部講師を招いた体験型授業を企画したり、本校と文化祭や自然観察などで交流したりしています。

子どもたちにとっては、まず長期入院をせざるをえない状況を受けいれて、学習の再スタートという次のステップに進むまでに時間が必要です。私たち教員は、入院生活を見守りながら、どのような学びが本人にとって良いのかを一緒に考え、一人ひとりに合った形でサポートするようにしています。

復学までが院内学級の役割

入院中の学習はもちろんですが、退院時のスムーズな復学支援も院内学級の役割です。そのために、日頃から学習内容や学習進度などについて元の学校の担任の先生と密に連絡を取り合っています。

退院が近づけば、病棟主催で「復学支援会議」を開催し、入院治療を続けてきた子どもが復学後に学校生活を安心安全に送れるよう、必要な配慮や対応方法、今後の見通しを元の学校と情報共有します。

また、Zoom会議システムでつないで、子どもたち自身が学校のクラス活動に参加する機会を作りながら、互いに会うことを楽しみにでき、クラスメイトが「待ってくれている」ということを本人が感じられるようなサポートも大切にしています。

オンラインで終業式に参加。学校とのつながりは、多くの子どもたちにとって前向きな力になっている。

子どもたちにとっての学び

学ぶことは将来の希望

長期入院を余儀なくされた子どもたちは、学校の活動から置いてきぼりになると焦りを感じています。その子どもたちの焦りを解消することから私たちの取り組みが始まります。

例えば、高等学校の先生が長期入院中の本人のことを気遣って、「治療に専念して、まずは病気を治してほしい。学習のことは病気が治ってから考えては・・」とおっしゃることが実際にあります。

しかし、本人は単位取得、卒業、友だち、部活、将来(就職活動・大学受験)など様々なことを考えています。そして、しっかりとしたアイデンティティーを持っており、「高校生としての自分を諦めたくない」と思っています。

また、好きな食べ物を仲間とつくる調理実習やドクターヘリの見学などに病気のことをしばし忘れ、楽しく取り組んでいる子どもたちも本当に満足そうです。

子どもたちにとって、「学ぶこと」は将来への希望であり、また、「ともに病気を治す仲間や元の学校の友だちとつながること」は「病気を治して戻りたい」という生きるためのエネルギーになっているように感じます。

絶望を乗り越えた子どもたちの成長

想像力を生かして絵を描いたり、工作したりする授業も子どもたちは大好きです。それは、入院中に抑圧された心の奥底の感情を開放することができるからだと思います。

書写活動の「自由に書くことば」では、多くの子どもたちが真っ先に「食べたいもの」を書きます。また、「本退院」「赤血球」「血小板」などは入院している子どもたちであるからこその表現です。

さまざまな抑圧の中で一時は絶望し、将来を諦めかけそうになっていた子どもたちも退院の時は清々しい姿を見せてくれます。そして、退院後、院内教室に立ち寄り、夢中になっていることや将来の夢を報告にしてきてくれます。そんな一人ひとりの元気な姿は何よりうれしいものです。

院内でのよりよい学習環境のために

子どもたちの気持ちに寄り添う

限られた時間の中で常によりよい学びができる環境を作るためには、専門性を探求することも大切ですし、高等学校職業科・総合学科など、本校高等部と教育課程が大きく異なる場合には、本人の希望に沿った最適な学習形態を見つけるために、高等学校と丁寧な協議を重ねられる体制づくりも必要です。

また、退院後も短期入院を繰り返す場合や、合併症により一般的な就労や進学に適さない症状が生じた場合に、院内学級として力になれることは何か、他機関との関係を模索していきたいと考えています。

子どもたちにとって、友だちと離れてしまうさびしさ、勉強の遅れ、そういう不安をかき消してくれるものは何だろう。病気が治ってスムーズに復学していくために大切なことは何だろう。そういったことを教員間で話し続けています。

その時の子どもの気持ちを最大限に想像し、よく考え、「静かに寄り添うこと」、「子どもの二ーズに応えること」、「うれしい、たのしい、わかりやすい授業」を心がけながら、子どもたちに確かな学力をつけていきたいと思っています。

花びらが少しずつ重なるような協働

そして、よりよい学びの環境づくりのためには、日々、教員間で子どもの様子を丁寧に共有しあい、必要な情報を迅速に医療に伝え、医療と共に歩んでいくことが大切だと思っています。

かつて、小児・AYAがんトータルケアセンターの前センター長だった岩本ドクターが「多職種チームは花びらが少しずつ重なるように手を取り合って協働していく」と言われました。
私たちもこのことを大事にして、子どもたちが自分らしくいられるために、どんな態度も否定せず受容し、勇気づけることができる場として、今後も院内学級に取り組んでいきます。

「子どもたちの気持ちに寄り添うことを大切にしたい」と話す、現在当院の院内学級を担当する教員の皆さん
(手前左から、瀬尾先生、鈴木先生、小林先生、芦田先生 / 後ろ左から、山本先生、上村先生、児玉先生、辻先生)

院内学級で学ぶ子どもたちへ

院内学級で学習する時は、治療は忘れて、学習することがうれしい、たのしい、と思える、そういうひと時を一緒に過ごそう。学校のことは心配しなくても大丈夫、学習も元の学校のクラスとの関係も心配なくスムーズに復学できるようにするからね。

そして、保護者さまへ。
もしよろしければ、院内教室をのぞいてください。お茶でも飲みながら、おしゃべりしにきてください。そして、少しでも肩の荷をおろしていただくことができたら、私たちもうれしいです。
お子さんの復学時には、スムーズに復学できるように学校間で連携しますので安心してください。

三重県立かがやき特別支援学校
本校 院内教室
医療連携コーディネーター
小林裕美子さん

休日は、趣味のピアノ、映画・音楽鑑賞、低山登山、犬との散歩を楽しんで過ごしています。
好きな科目は音楽・美術、好きな言葉は「一隅を照らす」(自分が今いる場所で自分のできることをいっしょうけんめいにする)です。

「成長と絆を育む院内学級」
小児科 科長 平山雅浩 教授

三重大学病院小児病棟の責任者として、私たちの院内学級が果たしている重要な役割に心より感謝申し上げます。
当院は「小児がん拠点病院」として、トータルケアを実践し、子どもたちが厳しい治療を受けながらも学び続けられる環境を整えています。その学びを通じて、子どもたちの未来を支えることが私たちの使命です。
そして、入院中の不安や孤独感を軽減し、退院後の復学や社会復帰をスムーズに進められるのは、院内学級の先生方のご尽力のおかげです。院内学級は単なる学習の場にとどまらず、成長と絆を育む大切な場となっています。
子どもたちが夢や希望を失うことなく、病気を克服して素晴らしい未来を掴めるよう、私たちは力を合わせて全力で支援しています。これからも、医療チームと教育チームが一丸となり、子どもたちが安心して学び、自分らしく輝ける環境づくりに取り組んでまいります。

三重大学病院は、特定機能病院として、また地域医療の拠点として、三重県や近隣県の患者さんに安全で質の高い医療を提供するために、さらには、研究や人材育成を通じて日本のみならず世界の医療の発展に貢献するために、いろいろな活動に取り組んでいます。
「取り組み」のコーナーでは、こうした活動をピックアップしてご紹介しています。

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